スキューバ・ダイビングツアーの参加者が海洋に転落して溺死した事故につき、ツアーの主催者、引率者らの損害賠償責任が認められた事例

東京高裁  平成七年八月三一日判決   平成七年(ネ)第四六三三号
損害賠償請求事件
原告  仮名  被告  仮名
※判例全体は長文になりますので概要のみ掲載します。全体について研究なさりたい方は判例集をご覧ください。
※この事件は、ダイビング中ではないが、それに関連した事故です。
   (a)プロのインストラクターの危険への認識度の低さ
   (b)事故を前提とした救助の準備が無い実態
   (c)荒れた海ではあったが、出来得る限りの救助を行うでもなく、水面に漂う女性をただ傍観していたために、結局溺死してしまった
という事件です。
ぜひ判例全文を読まれることをお勧めします。

< 概 要 >

  1. 本判決は、束京都神津島村のスキューバ・ダイビングツアーに参加した二二歳の女子会社員(以下「被害者」という。)が外洋に転落し、台風の通過後外洋が荒れて波が高かったため救助が遅れて溺死した事故につき、被害者の両親であるX1、X2が右ツアーの主催者・引率者ら(争いがある)であるY1ないしY3に対し、不法行為に基づく損害賠償請求をした事件の控訴審判決である。
  2. 原審(本号後掲)においてXらは、被害者の死亡と相当因果関係のある過失としてY1についての七つの作為ないし不作為を主張したが、原判決は、右作為ないし不作為に関して、その前提となる事実についてY1の予見義務、予見可能性、回避義務、回避可能性等が認められず、被害者の死亡との間の相当困果関係も認められない旨判断して、Xらの請求を全部棄却した。
  3. その控訴審判決である本判決は、右ツアーの経緯・内容、被害者とYらとの関係、被害者及びY1の体力、泳カ、引率者らの救助、連絡等に関する備えの有無、被害者が外洋に転落する直前の経緯(被害者が危険な転落場所に行った直接の経緯。実質的に本件の最大の争点であったといえる。)、右転落場所の位置及び危険性、当日の気象及び外洋の状況、島における他の遊泳状況、事故当時の波の状況、被害者の転落を知ってから実際に救助されるまでの関係者の行動等につき、詳細な事実認定をした上で(要約し難いので判文を参照されたい。)、Y1の被害者に対する直前の指示、緊急事態に対する準備及び本件事故に対する対応に過失があったと認め、Y1につき民法七〇九条の不法行為責任を肯定し、その余のYらに、有限会社法又は民法七一五条による賠償責任を肯定した。その上で、本判決は、被害者にも自らの安全に十分な配慮をしなかったという過失があったとして、その過失割合を四割とした。
  4. なお、控訴審において、Xらは、Yらの安全配慮義務違反による債務不履行があった旨を予傭的に主張し、右に基づく損害賠償講求を追加したが、本判決は、その一部については責任原因が認められず、責任原困が認められる部分に関しては右不法行為の場合以上の賠償責任が認められないとして棄却した。
  5. 本件は、法律論として特別なものを含んでいるわけではなく、また、被害者がスキューバ・ダイビング中に起きたという事故ではないが、島や海洋へのツアー等が流行のものであり、本件はその外延に発生した事故であること、公刊の判例雑誌に同様の事例が見当たらないこと、原審と控訴審とで結論が分かれ、控訴審において引率者の過失責任が肯定された事案であること、右のツアー等にも他のスポーツ同様に固有の危険性が潜在していることを関係者らが十分に銘記すべきこと、本判決の手法が今後の同種事例の解決に参考になると考えられることなどから、事例として紹介するものである。
    (一部仮名)

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