漂流者救助に向けた海上保安庁の検証

資料及び写真提供:第十一管区海上保安本部

一般ダイバー及びダイビング業者、またカヌーやサーフィンなどを行う人々や業者は、このフロートの装備が不可欠の自己防衛(リスクマネジメント)であることを理解すべきと考える。

このフロートは、通常は折りたたんで小さいものであることから、海に落ちる可能性のある漁業者、ヨット関係者、レジャーのつり関係者は、これを装備することが、ダイビングと同じく自己防衛策となると考える。


下記の資料は、平成16年11月5日に行われた第39回日本高気圧環境医学会で報告し、また11月18日の日本旅行医学会での講演でも紹介した内容からです。


▼海上保安庁によるレーダーシグナルフロート(興亜化工製)の実効性検証

第十一管区海上保安本部は、平成16年3月17日と同7月13、26日に実効性検証を行った。


※縦長のフロートと丸いボンデンタイプの海面での状況は右の拡大写真を参照


▼ 巡視艇のレーダーによる確認検証(西表島北側バラス島付近海域)

平成16年3月17日午前9時30分〜午後12時00分
気象・海象など:晴れ 北西の風1m/S 視程20km
実施機関等:石垣海上保安部(巡視艇なつづき)、八重山ダイビング協会竹富支部

検証は、ダイバー3名がそれぞれレーダーシグナルフロートを保持し、直径2〜3mの円内に集まった状態を、巡視艇なつづき(眼高4m)で、0.5海里の距離から開始した。
第十一管区海上保安本部によると、「レーダーエコーは、距離0.5海里においてはっきりと確認でき、0.8海里より薄くなり始め、1.8海里で完全消失した。接近時についてもほぼ同じ値での結果が得られた。」と検証結果を得たとのことである。
この結果、「概ね1海里(1,852m)であれば有効であると認められる。
と見ている。(捜索時の状況によってこの数値は変化が考えられるため)
また当日の検証の結果を受けての考察として、「レーダーエコー識別距離と視認距離はほぼ同一であったが、レーダーエコーで識別できれば目視による確認も迅速になるものと考えられる。」としている。


▼ ダイビング船及びCL巡視艇による視認距離検証

平成16年7月13日: 座間味村牛ノ島灯台から235度0.9海里の地点を中心とする半径0.5海里の円内海域(安護の浦港沖)



気象・海象:天候晴れ、南南西の風5m/s、視程良好、波浪0.5m以下 視認時の眼高:水面から約3m

► 検証に立ち会った巡視船 くだか のレーダーには約200mの距離でレーダーシグナルフロートの映像が映ったが、第十一管区海上保安本部によると、検証の都合上、くだか はフロートから200mより遠ざけることが出来なかったために200mとなっているのであり、離れて捜せばさらに感知できたはずとのことである。

▼ ヘリコプターからのレーダーと目視による検証

平成16年7月26日: 神山島周辺海域(那覇港西北西沖約5海里周辺海域)
気象・海象:天候晴れ、南東の風10ノット、視程良好、白波なし、所々小雨あり

►上空からのレーダーでは、フロートは小さすぎて感知できず。

※しかし目視状況は良好と思われる。(当HP管理者の感想)


海上保安庁の検証の意味

 レーダーシグナルフロートは、漁船搭載の普及型レーダー(例 FURUNO RSB0034、アンテナ高1.7m)で0.5キロを感知(試作品では0.3海里(556m)まで連続して感知できた)可能であったので、漁船一隻で、同じ条件なら面積で1平方キロメートルの捜索が可能となっている。これは漂流初期のダイバー発見には十分な性能と考えられ、もしこの時点で発見できなくても、水難救難会の捜索船のレーダー装備を合わせれば、さらに広い「面」での捜索が可能となる。また陸側からの捜索も可能なので、夜間や天候の悪い場合、座礁の危険がある浅瀬や岩礁地帯での捜索もある程度可能となるであろう。

 海上保安庁の検証では1海里(1,852m)程度は感知できるので、この場合、巡視艇などを中心とした直径約3.7キロ、面積として約11平方キロメートルという広大な範囲の捜索が一度に可能となるであろう。その上、より高性能のレーダーを搭載した船舶が出動すれば、さらに捜索範囲が広がる可能性が高い。2隻以上の船舶で併走しながら捜索すれば、捜索範囲は一層広がることになる。 



 他の運用方法としては、潮目の下流に先回りをし、漂流者が流れてくる前に、船舶が連携して、面でのレーダー捜索範囲を確保しながら捜索する方法も考えられる。
 また現在は夕暮れには打ち切っている捜索を、夜間でも引き続き継続することができるようになるであろう。
 こういった対応が可能となることで、漂流者がこのフロートを装備していれば、その早期発見救助確率を飛躍的に向上させることは確実であると考えられる。

海上保安庁の検証の結果が意味するもの

 第十一管区海上保安部はこの検証によって、漂流者をレーダーで捜索するノウハウを獲得した。
 ただし、このような捜索ノウハウを適用してもらうためには、ダイビングやサーフィン、カヤック、カヌーなどの実行者や業者が、これを自ら装備するという自助努力が必要である。
 これは国家システムを活用してもらう側の義務でもあろう。
 漂流事故が多いドリフトダイビングの場合は減圧症や梗塞のリスクも高い。
 この場合、漂流者発見までの時間短縮の問題は、その生命に関わる問題である。


▼興亜化工社製レーダーシグナルフロートの使用状況と、漁船搭載の普及型レーダーに映像が捉えられた様子
(※資料提供:興亜化工)

フロートを伸張した様子


©興亜化工株式会社

漁船搭載のレーダーに反応した様子


©興亜化工株式会社

※矢印の先の円内に写っている。
※当HPの管理者は、この試作品の実験を行ったボートに乗船し、このようなレーダー画面に反応した様子を実際に確認している。


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 平成16年12月3日