インストラクターのレベルの低下はインストラクターの責任だけなのか。


 最近の、新規ダイバーの数や実働ダイバーの数が全体として減っている傾向にありながら事故が増加してきている状況は、ダイビングの中に含まれる危険性の部分をよく示しています。しかしこれらの情報が十分に正しく、かつ容易に手に入れることができる形で公開されれば、消費者の賢い選択が発揮され、また業者による事故も減ってくると考えられます。
 また確かにこの事故の増加はイントラのレベルの低下に大きな要因がありますが、忘れてはいけないのが、イントラのレベルに達していない人をプロとして活動できると、金銭を受け取って認定(つまり役務を実行する能力への本人と外部への保証行為)して、さらに会費までとってそのプロ活動に自分のブランドの使用権を販売し、その活動からさらに利益を得るビジネスが背景にあるということです。さらにこの仕組みに乗って共に利益を得ている各種団体や個人、そしてマスコミがあることも忘れてはなりません。
 雑誌などの広告に見るように、イントラへの合格率100%を誇っているショップもあります。常識として、人命を預かる仕事に、潜水技術・体力・意識・医学的適性・職業的適性の有無を前提とせずに客を募集してそれがイントラという資格(基本的に営利目的の団体や事実上の個人が自由に作って販売している私的資格です。)が100%得られるというのは、その背景に、消費者の人命よりも利益優先の体質があるかのように見えてしまいます。
 つまりイントラのレベルの低下に対する最も大きくかつ最終的な責任は、現在のビジネスシステムとその取り巻きにこそあるのではないでしょうか。(自らの努力で自らの役務遂行能力品質を高いレベルに保っている、個人としての少数の優秀なイントラの話ではありませんのでご理解ください。)
 こういった根本的事実に目をつぶり、あるいは根本にある者をあたかも第三者的地位にあるかのように扱って、イントラのレベルの低下という面に限定して事故増加を語るという宣伝は、これも一種のプロパガンダと受け取る必要があるかもしれません。
 前述のプロのレベルにない人が、単にダイビング好きとしてではなく、プロとして認定されたことで自分がその適性があると思い込み(誤解)ながら活動して人身事故を起こし、その結果有罪となって人生が狂っているという事態が実際に発生しています。もし彼らが、最初からプロとして認定(資格販売)さえされなければ、自己管理ができる一般のダイバーとして、ダイビングを長く楽しむことができ、有罪となって、犯罪者としての人生を背負うことになることもなかったのだと、我々はよく認識しておくことが必要です。
 イントラのレベルの低下は、それを製造している(講習から認定に至るプログラムを作って資格を与え、その活動から利益=会費、申請料=を得るという連続した役務の連鎖の生産)者の品質管理の責任であると考えることは当然です。イントラ候補生という立場は、いわば原料です。原料をどう精錬して製品まで持っていくか、製品の品質に該当しない原料をいかに生産ラインから外すかは、原料の責任ではなく、そのラインの管理者とその事業の管理者にあることは当然と思います。だからこそ、イントラのレベルの低下は、すべてイントラ個人の責任とすることは不自然であり、その強調は、背景に何らかの意図があると考えるべきと思います。つまり本当の情報を出さないわけですから。これが一般の工業製品で行われたら、大変な事態になると思います。

 最近の傾向として、一般の消費者の人命や健康の損害の原因を、イントラのみの責任に帰すことは、問題の核心から目をそらすための一種の情報操作のように感じます。イントラのレベルの低下はビジネス上の一つの結果であって、根本的な原因ではありません。一般の商品(消費者基本法では、商品と役務は同一として扱っている。)における欠陥品・不良品は、それ自体の責任ではなく、その工場の製造ライン(連続した役務の連鎖の生産)の管理者の責任、そして品質管理を怠って根本的対策を打たない、またリコールをしない経営者の責任であることは、現在では誰もが知っている常識です。私たちがこの常識的な目を維持するためには、この一般常識の目で、イントラの責任のみを語る者とその背景を見ることが必要です。
 皆さんは、誰が、いつ、どのような立場でこのようなことを行っているのか、しっかりと記憶しておいて下さい。将来、一般常識が優勢となってダイビング事故の問題を見るような状況に変わったときに、その方々がどのような発言者となるのか注目しておいて下さい。そして彼らに情報操作されない、つまり情報に関するリスク管理ができるダイバーとなってください。それが、自己責任で(情報を評価・判断できるということ。)ダイビングができるダイバーへの道ではないかと思います。

インストラクターの方々もモノ言いましょう。

 インストラクターの方々は、十分な技術、プロ意識、ビジネスにおける法的責任、消費者の「自己責任」より「事業者責任」の方が重いということをしっかりと教えられていますか? またインストラクターとして認定した側の責任についてその自覚を受けていますか? 
 もしこういったことを十分かつ徹底的に教えてもらってなければ、それは教えないことの利益がどこかに存在しているのかもしれません。
 それらをきちんと教えてもらえるよう、はっきりとモノ言いましょう。そうしないと、イントラのレベルの低下が、イントラだけの責任とした情報が流されるのみです。重要な情報を教えないまま、その結果の責任のみ全部押し付けられることは不公平なのではないでしょうか。教えなかった責任と、その結果の責任があって当然なのではないでしょうか。


平成18年12月27日

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