多くのダイビング業界の人たちはよくこんな言葉を発します。(全ての方々ではありません)

「自己責任で!」

 しかし、彼らはこの言葉の使い方を知っているのでしょうか?
 私は、一部の良心的なダイブショップやプロダイバーを除いて、彼らが頻繁に発するこの言葉の使い方に大きな疑問を感じています。私がダイビングの問題を研究するに当たっての動機の大きな一つが、彼らが頻発する、この「あなたの自己責任で!(あんたが死んでも私はカンケイナイヨ。金だけくれ・・・と受け取れる)」という言葉でした。
 なぜ?と思う方がいると思います。彼らは相手に対して(つまり客としてのファンダイバーや講習生)「自己責任でやって下さい」とは言いますが、商売として金銭を受け取っている側の、つまりその言葉を発している自分達の側の「自己責任」については一切口をつぐんで、「それはあなた(ダイバーの)自己責任です」とだけ繰り返すのです。あるダイブショップの方に私が理由を聞いた時、こういう意味のことを言ってきました。「何も知らないで、何も覚悟をしないでダイバーと称するなんてことがおかしい」 と。 そういう言葉を発した方は、そのショップが雑誌に出している広告に、ダイビングは実際には危険なことが多いレジャーないしはスポーツだとは一言も記していないのです。その事を指摘してしてみると、少し口ぐもった上で、質問に回答はせず、ただ「何も知らないでダイビングする方が悪い。そんなのはダイバーではない」とだけ繰り返すのです。(そのショップの主催の講習会では死亡事故が起きています)
 相手に対して「自己責任」を問う彼らは、その相手が「自己責任」が取れるほどに情報を与えているのでしょうか?講習生にはショップの側が満足するレベルの技術を”販売”しているのでしょうか?そして、トラブルが起きた時に、そばにいるプロの側はどこまで助けることができて、どんなケースで見放すか、についてきちんと情報を提供しているのでしょうか?
 例えば、プロ野球の試合の時に、たまに頭部への死球(デッドボール)が発生しますが、これは誰が見ても危険ですね。多くの場合病院に運ばれたりしています。しかし、それでもその死球で死亡する人は、死球を受けた全体の中でごく少数だと思います。もしその死球の時に、50%以上の確率で死亡していたらどうでしょう?きっと野球は危険なスポーツとして禁止されてしまうでしょう。あの甲子園大会も中止になり、プロ野球も廃止されることでしょう。危険な頭部への死球は、プロ・実業団・そしてアマの数知れない試合数や練習の中で毎年どれくらいもあるでしょうか?しかし野球ではダイビングのように毎年20人から30人も死んでいますでしょうか?プロレスではどうでしょう?サッカーではどうでしょう?
ここ数年でも、事故の時の死亡率が約50%というのがダイビングというものの現実なのです。この情報をきちんと、初めてダイビングをしようとショップに来る人に提供して、その覚悟をしてもらい、そして楽しむことよりもまず生存することに力を入れて講習することが、そしてファンダイビングに行く人に、必ずこの事を、そしてその場所で起こりうる事故と救助法・生存法について綿密な打ち合わせと情報提供をすることこそが、金銭を取って営業する側の「自己責任」だと私は思うのです。そしてこの後に初めて参加する側のダイバー(講習生)の「自己責任」に言及できるものと思います。
 ダイビングショップの方でこう言う方がいます。「そんな事を言ったら、その人はパニックになってダイビングができなくなる」と。あるいは「それでは怖がってダイビングの申し込みをしなくなる」と。それでいいではありませんか?隠し事をして、あるいは情報を教える努力をせずに事故が起こって人が亡くなった時も、ショップが遺族に対して「自己責任ですから」と言って責任逃れをしている現状を続けるよりも。そんな人は、客の生死にかかわらない仕事に変わったほうがいいはずです。事故の時の苦悩もなくなるのですから。
 また、事前の心の準備ができてないダイバーに事故が起きた時に、その近くの人がそのパニックになった人に巻き込まれて死んでしまう例もあります。ひどい時にはパニックになった人が助かって、それに巻き込まれた人だけが死亡する、ということすらあります。ですからそれらの人の安全のためにも情報は公開すべきです。そして情報を隠しているダイブショップほど、一般的傾向として優秀なプロダイバーを雇わずに、安くて経験の浅いダイバーのみでスタッフを固めているようです。きちんと情報を提供しても客が離れてしまうような不信感を持たれてしまうショップは、私が客の側の立場で見れば存在意義はありません。

 良心的なダイブショップやプロダイバーと言われる人たちは、100%とは言いませんが、これに近い情報提供を行っています。またそういうダイブショップでは、経験が豊かで人格的にも厚みのある人をプロとして雇っています。こういうショップのみを我々客の側は歓迎すべきです。

「自己責任で」という言葉は、まず業界の側の人々に向けることが必要です。

 このホームページではショップに代わってそれらの情報を提供します。不足がある部分についてはご指導いただけるようお願いいたします。


平成10年9月(平成14年5月一部改訂)


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