ダイビングショップが不良器材をレンタルすることについての考察


 ここ数年、広告に「水着だけでOK」とか「器材レンタルも無料」「これ以外の費用はかかりません」とあったり、抽選で「無料コースに当選しました」とかあっても、実際に申し込みに行くと、あれこれ理由をつけて重器材を含めた器材を購入するように強くセールスされ、それを断ってショップのレンタル器材を借りた時に、貸し出された器材が壊れていたりして、その不良器材が原因で命の危険を感じたときなどにそれをショップやスタッフに訴えた時に、その恐怖の体験を口実にして「新品の器材を買え」という圧力がショップからかかってくることが頻繁になってきました。
 この実態は、ダイビングマスコミがスクールを紹介する本で大々的に紹介しているショップでも行なわれていることが判明している(参考:拙著「ダイビング事故防止ファイル」2000年 太田出版)ので、ここで、経済企画庁の協力による協力を得て、その法的問題について考察します。以下のことが不良レンタル器材によって被害にあった人々が泣き寝入りしないための役に立てることを切に願うものです。

レンタル器材の不良のケース(その実情の報告を受けたり、私が自ら確認したもの)
・グローブの指先などに穴が開いている
・ウェットスーツに穴が開いている
・マスクのストラップが切れている
・BCのエアが抜けない
・BCに空気が入らない
・BCに付属するホースが切れている
・その他

 グローブやウェットスーツなどは、水中で岩や珊瑚に触れたときの怪我の予防、また水生生物の毒物どによって怪我をしないことを目的としたり、体が低体温症にならないような保温の役目を果たすことを製品の機能としています。そしてこれに穴が開いている場合はその機能に欠陥があることになり、それを使った人に、肉体的な損害を与える危険があります。つまり、穴が開いているグローブを使った場合、怪我をしたり、毒物に犯される(例えばクラゲを払ったときなど)可能性があるのです。さらにウェットスーツの穴の場合は、これも同じく体温の低下をもたらし、また特に膝や尻の部分の穴は、グローブの穴と同様に、水中で膝をついたり、座ったりした時に、特に怪我の可能性が高いと言えます。地域によっては、その海域がサメのいる領域である場合もあり、このとき、通常は人を襲わないサメであっても、怪我によって流れ出した血の臭いに誘われて襲われるという可能性にその人をさらすことになります。
 マスクのストラップの欠陥の場合は、マスクは水中で視界を確保するために欠かせぬものであり、これのストラップが切れてマスクが外れてしまった場合には、単に視界を失ってしまうだけでなく、ダイバーにパニックを誘発する危険が大きいのです。
 BCにおける欠陥の場合は、水中で空気が抜けないことから、いわゆる吹き上げ、という急浮上の危険があり、これは減圧症を誘引して死に至らしめる危険があります。さらに、BCの付属ホースの欠陥によって空気が入らない(入りにくい)場合には、BCの浮力確保の機能を果さなくなります。このため、水面・水中で、それを装着したダイバーへもたらす危険は計り知れないものとなります。このような、製品そのものの致命的な(文字通り死に至る)欠陥をもたらすものが、BCの不良レンタル品です。
 その他には、レギュレーターの不良は呼吸の確保の困難をもたらし、サイズが合わない者に強引に小さいウェットスーツを着せて使わせるという、使用者の水中での運動能力をうばうことも実際に行なわれています。これは、単に水中で不自由になるということだけでなく、それを身につけた人の水中での危険回避の能力を著しく阻害するという行為にあたり、こういった本来の機能を果さない全てのレンタル品は、使用者の生命への脅威となっています。
 こういったレンタル器材で、自分の身体に被害を負ったりした場合には、以下のような形でその被害に対応することになります。
@器材がそのショップの製造物であった場合・・・PL法
 この場合の製造物とは、そのショップのロゴが入っていたり、海外から直接輸入販売を行なっている場合です。
A器材がそのショップの製造物でなかった場合・・・民法上の不法行為責任
 本来、そのレンタル器材が持つ機能を果せないようなものをレンタルした場合など。

(協力:経済企画庁国民生活局 平成12年7月12日)

以上について、専門書ではこのように解説しています。
「レジャー用品によって事故が発生した場合、被害者としては、その製造業者等に対して製造物責任を追及することができるほか、その用品がレンタルであたっときは、レンタル業者の過失責任による不法行為責任・契約責任を、レジャーがツアーの一環として提供されたときは、その主催者の不法行為責任・契約責任を追及することもできるようになる」(升田 純「詳解 製造物責任法」295頁 商事法務研究会 1997年)


平成12年8月3日  

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