エントリーレベル(オープンウォーターレベル)講習における事故の発生に関する一考察


 (社)レジャースポーツ産業振興協会調べによると、1999年中のエントリーレベルのCカード取得者数は77,290枚でした。
 私が昨年調査した講習中の事故で、エントリーレベル中の事故は7件で、8人が事故に遭遇しています。このうち死亡事故件数は5件で、6人が亡くなっています。
 では、この数字が、ダイビング業界やダイビングマスコミが言うように、無条件で安全なものかどうか考えてみます。
 現在、一回の講習で行われるインストラクターと講習生の比率を、平均1対4と仮定します。これは一番実態に近い数字だと思います。
 では、この数字を元に、昨年度の講習の数を推定します。すると、77,290枚÷4人=約19,323回となります。
 ここで、講習中に事故が発生する件数を見ると、19,323回÷7件=約2,760回 つまり、約2,760回に1回の割合で事故が発生しています。人数で見ると19,323回÷8人=約2,415回に1回の割合で、講習生が事故に遭遇しています。
 では、死亡事故発生件数を見てみます。これは、19,323回÷5件=約3,865回に1回の割合で死亡事故が発生し、19,323回÷6人=約3,221回に1回の割合で講習生が死亡しています。この数字は、ダイビング業界やダイビングマスコミが宣伝しているような「(無条件に)安全」と言える数字なのでしょうか?あるいはダイビングマスコミの言う「潜水事故なんて怖くない」と言えるものなのでしょうか?
 ではこの数字がどんなものなのか、私達の身近な数字で見てみましょう。
その前に、これらの数字を50,000という数字に置き換えてみます。Cカードの枚数はそれを受けた人数と同じですから、50,000÷77,290=約64.7%となるので、事故発生人数にこれを置き換えると、事故に遭う人数が約5.2人、死亡する人が約3.9人となります。
 では、この数字を私達に身近な、東京ドームで行なわれるプロ野球やコンサートに当てはめて見ましょう。そうすると驚くべき数字だということに気がつきます。
 1回の野球観戦やコンサートで東京ドームに行く人が50,000人というのはごくありふれた日常の数字ですが、この数字は、つまり、この野球観戦やコンサートに行くたびに約5.2人の人が事故に遭遇し、うち3.9人が死亡するということと同じであると言うことなのです。
 テレビで野球をやっている時、毎回観客の3.9人が死亡していたら、あなたは平気な顔でその試合を見ていられますか?いや、その試合を見るために東京ドームに行きますか?あるいは、人気アーティストのコンサートごとに3.9人が死んでいたら、あなたはそれでも行きますか?また、このような興行が、はたして社会的に安全でまともな興行だと認知されますか?
 ダイビングの講習における死亡率とはこのような数字なのです。だからこそ、ダイビングを習いたい人には、自らの自己防衛のために、事故の情報が、プライバシーに関するものを除いて全面的に公開されるべきであり、またその講習を行う業者の事業者責任(講習テキストの作成・講習の企画・運営、及び講習の修了を認定する結果責任)を社会が厳しく監視して、万が一の不良業者が、人命を担保に不当な利益をあげないような仕組みが必要なのです。
 ダイビングは大変素晴らしいものです。楽しいし、ストレス解消にもなります。宇宙空間以外で、人類が本来生存できない場所に行ける唯一の方法でもあります。しかし、だからこそ、これからダイビングを習い始める人は、この危険に足を踏み入れる覚悟のもと、自分自身と業者の双方に、厳しい、妥協しない態度で臨むことが必要なのです。
 業者の一方的な宣伝と甘言に、あなたは考えなく惑わされないようにして下さい。

※以上の意見は私の個人的意見です。


平成12年6月13日