この夏のあるダイバーたちに思うこと


以下に紹介する事例は、現在のダイビングビジネスのままだと、まだまだ発生する可能性があるパターンの一つです。これは手抜きの講習が、危険意識の不足したままダイバーと認定され、自己管理ができるという前提で取得できるはずのCカードが、単なる”消費者から金銭を搾取する道具”になってしまった典型だと思います。
今回の事例の場合、ここで紹介するダイバーたちを認定したインストラクターは、ダイバーたちの危険を放置したまま認定をしたことはあまりに無責任です。このようなビジネスは、自分以外の水中の引率者にリスクを負わせ、世界中のダイビングの質を下げる(事故率の増加)ことになります。しかも当事者たちはすれに無自覚なままでです。
今回ここで紹介する実例は、ダイバーが海に対して謙虚に考える必要性と、よい指導者を選択する必要性、また可能な限り自分の器材を所有することが、自分のダイビングを安全な方にシフトさせることを容易にするのだということを知る材料になると思います。

教訓にして欲しいこと

これから紹介する事例は実際にあったことです。今年の夏も事故が何件も起きました。これからも起きるでしょう。これまでもずっとそうだったのです。
皆さんがその事故者当人とならないようにとの思いを込めて、以下に問題を掲示します。
皆さんどうか自分の身を振り返って、これから紹介することに自分に当てはまることがありましたら、ただちにその対策をして、これからも一層安全で楽しくダイビングを楽しむための参考としてください。
そして優良ではない業者(適用な認定だろうがどうだろうが、ただ申請料をかせぐことに躍起になっているような不適切な「指導団体」も含みます。)から、皆さんの安全を金銭に換えて搾取されないように注意してください。そして皆さんのために努力する優良業者を盛りたてていってください。彼らこそがダイビングビジネスにおける宝なのですから。


あまりにひどい一日

夏のある日、某ポイントでファンダイビングが行われました。
参加者したのは4人のダイバーでした。このダイバーたちは、この数か月前に某リゾート地で講習を受け、某「指導団体」からCカードの発行を受けていました。
実はこの4人のうちの2人は、自分用のマスクを持っていませんでした。
初級者講習の際は、私の本でも書いていますが、ダイビングを行う際の3点セット(マスク・フィン・スノーケル)全部とは言わないまでも、最低限マスクとスノーケルは自前のものが必要です。これはダイバー自身の安全のためにです。(体験ダイビングであればまた別の話となりますが。)
ダイビングにおいては、初心者(あくまで一般的には講習終了後の3年以内で50本程度以下の経験者のこと。それ以外はケースバイケースで判断する。)の事故では、ちょっとしたマスクトラブルから発生することが少なくなく、マスクトラブルの最悪の結果は、実はいくつもの死亡事故にまで至っています。
話を戻すと、自分のマスクを持っていなかった2人は、マスクトラブルの際の危険性の高さについて無見識というべき状態でした。
一般社会では、リスクに関する認識が少ない、あるいは感覚が鈍いという人たちは少なからずいます。そしてその中から、ダイビングの危険について考えもせずに講習を受ける人が出てくるという状況はよく見られる現象です。そして教える側は、ダイビングはその他の安全そうに見えるレクリエーションスポーツと比べても、際立って事故時の致死性が高いということや、そのような事故は、ちょっとしたトラブルから容易に起きるということを知っています。
であれば、ダイビングを受ける講習生が、ダイビングの致死的リスクに対する認識レベルが最初の時点で高かろうが低かろうが、教える側は、彼らにリスク認識を徹底してもらうことこそが、その後の彼らと、彼らとともにダイビングを行うダイバーがより安全なダイビングを楽しむために必要なことを知っているはずです。
これは、安全にダイビングができるということを契約の前提としている教える側(役務商品としての講習を売る側)の講習時の法的義務でもあります。そして講習生がリスク認識を十分に持たないままにダイビングを行う環境を手に入れることは、結果的にその講習性を危険にさらし、さらに他のダイバーに対する巻き込み事故の原因ともなり得、そのうえ不適切な陸上、海面、海中の行動仕草によって、周囲に危険をまき散らしていくことになります。
このような事態を招かないためにも、不十分な講習を行っただけで「ダイビングの知識や認識、そして技量を正しく習得し、講習を修了した」という意味を持つ認定は行ってはならないのです。

話を続けます。
実はこの4人の参加者にはさらに問題がありました。
マスククリアは全員できていましたが、2人の中世浮力は少しできるというレベルで、他の2人はできないと言ってもいいような状態でした。
これはつまり、この4人にCカードが渡されていたことが不適切なビジネスの結果だったことを示しています。彼らは自分の安全にかかわる重大なことで手抜きをされたうえに、その事実を知らされないままにできるようになったかのように錯覚させられていたのです。
さらにこの中の1人は、水中で常に鼻から息を出し続けていました。これやめるように同行のガイドが指摘しても、これを直すことができなかったのです。講習の段階で直すべきことが放置されていたことが、このような、マスクトラブルの原因を生み出していました。
また別の1人は、水面でウエイトが外れても装着できませんでした。
こられの状況を見て、ガイドは4人次のように評価していました。
「スキルが何も身についていない」
そしてこのガイドは、この4人の誰もがCカードを持つというレベルには程遠く、体験ダイバーとあまり変わりないという感想を抱いたそうです。
このガイドはダイバーの安全性を重視しているため、普通のショップやガイドなら1回で4人をまとめて引率してしまうことが多い中(この人数比の危険性は高いと言えます)、1度に2人ずつに分けて引率することを常としていました。そしてこのときもいつものように2回に分けてファンダイビングを行っていました。つまりこのガイドは、きちんと手間と労力をかけて、できるかぎりダイバーたち=消費者の安全レベルを確保していました。
しかし彼らのあまりのレベルの低さのため、このガイドは、水中での2人のサポートのために、ダイビング中は自分の両手がふさがりっぱなしだったと語っていました。2人が自分のダイビングの自己管理やバディダイビングがきちんとできていなかったことが分かります。
ガイドを行うには、参加するダイバーが最低限の訓練=講習を正しく受けていることが前提となっています。しかしこの4人は、手抜きの講習でダイバーされたために、正しく講習を受けたダイバーに比べて、ガイドは、今後のダイビングで彼らが事故に遭う可能性が少なくないだろうと深く心配していました。
こういった状況を過ごしたこのガイドは、この日のファンダイビングを、「あまりにひどい一日」と感慨深げに評していました。

かわいそうな受講生たち

このHPを見たり、私の本を読んでいる方々は分かると思いますが、正しい講習を正しく受け、自分が簡単には死なない技量を身に付け、また事故に遭遇した際にその悪化に簡単に流されないようになり、何からのトラブルに遭っても最低限の損害でその状況から逃れるようになるということが、講習で求められる技量であり、講習という役務契約で業者が負っている義務なのです。
だからこそ、これができるインストラクターのいる優良ショップで講習を受けることが、何より本当に必要なのです。楽しいダイビングは、こうした背景があってからこそ実現できるものなのです。
ここで紹介した4人は、手抜きの講習をされ、手抜きの欠陥商品(危険なレベルの講習の質)をつかまされていたのです。そしてそれを知らされていないのです。あまりに哀れです。それでも不安を感じることもなく、このファンダイビングに参加してダイバーとしての活動をしているのですから、きっと講習自体は楽しかったのでしょう。そういう思い出はとても大切なものです。ただ何度も繰り返しますが、講習自体が楽しいだけではだめなのです。
私の「忘れてはいけない ダイビングセーフティブック」で講習を受けた女性の手記を見ても分かるように、講習は楽しさだけではいけないのです。講習の質の提供に自信のないインストラクターが楽しさのみを全面に押し出してその場の講習(指導)を乗り切ろうと考えてしまうことは、それ自体、インストラクターという立場にあってはならない人なのです。その人が楽しくやさしく、素敵な好人物であっても、ダイビングの講習では、極端にいえば、全く楽しくなくても、その後のダイビングを安全に行えるような技量を身につけられるかどうかであり、これこそが、ダイビングのインストラクターという、法的には、自分でそう言ってしまえば誰でもなれてしまうという、誤解を恐れずに極論すれば、怪しげな”資格”がてんでに販売されているダイビングの資格商法の中で、本物のプロの指導者としての実体があるかどうかの境目なのです。

どんなビジネスでも、その正面が明るいほど裏の闇は暗いものと言えます。しかしそれでも全体として消費者を大事にしていれば、たとえその裏の面が公表されてもその業界全体が闇の中という印象は持たれないのではないでしょうか? 残念ながら現在のダイビングマスコミは、そのダイビングビジネスの闇の部分を一切知られたくないと恐れている側の利益のために奉仕をしているようにも感じます。闇の部分を直視しないということは、それはまさか全部が闇だからではないかという、誤った印象すら感じてしまう人もいるのではないでしょうか?

現在のビジネスモデルは、この闇を知られることを極端に恐れる業界だからこそ、消費者は自らの防衛のために、自分で情報を集めて安全にダイビングを始めることが必要なのです。そのためには、まず私が書いた「忘れてはいけない ダイビングセーフティブック」をよく読んでください。そしてそれを参考に良いショップやインストラクターを選び、講習中に手抜きされていないかどうかを厳しくチェックしながら受講してください。この労をかけることを面倒だと思う人は、全部面倒を見てもらうことが前提となっている体験ダイバーとしてダイビングを楽しみましょう。Cカードは免許の類ではないので、内容の伴わないカードを受けることは不名誉と考えても問題ありません。不適切なCカードは、その所持者がだまされてしまった証拠だとも言えるので、その場合は、だまされたカモだったという恥にもつながるからです。
またすでにCカードを持っているダイバーは、自分の講習の内容を思い出して、もし手抜きされた不足分に気づいたら、優良ショップで不足分を補う再講習を受けましょう。それこそが自分を守るすべです。そしてリスクの事実を冷静に見て対処する習慣をつけましょう。それが質の高い楽しいダイビングの基礎となるのです。

以上はあくまでも、個人的な考えです。賛否はあると思いますので、賛意を示してくださる方だけ、自らの判断で参考にしてください。


平成20年10月10日
平成20年10月11日一部修正

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