漂流事故防止と重大化防止のためのレーダー波反射器材による海洋実証試験(実験)報告


※拙著「新版 誰も教えてくれなかったダイビング安全マニュアル」(太田出版)にも詳しく掲載されていますのでそちらもご覧下さい。


◇■◇レーダーによる漂流者発見のための実証試験(実験)◇■◇

 平成13年、伊豆半島において、レーダー波反射型器材(興亜化工社製KRB-10型)を使って、ダイバー船(漁船タイプのごく一般の船)から、漂流したダイバーを、ダイバー船に標準装備のレーダーで発見できるかについての海洋実証試験が行われました。

 この試験は、ダイバーや、その他の、漂流事故が起こりえるマリンレジャーを行う人の生命の安全確保のために極めて重要な意味を持つ実施試験(実験)でした。

 ダイバーの漂流事故とは、基本的に次の4つです。

  1. ダイバーが最初はダイビング船のごく近くに浮上していながら、ダイバー船のスタッフが見つけられず、例えダイバーがダイブホーンや笛、フラッシュによって合図しても、自然条件などの影響もあって、その合図が船のスタッフに届かずに漂流に至るケース
     
  2. ダイビング船のスタッフも全て潜水したために、ダイバーが潮に流されたり、ダイビング船事態が流されて発生するケース
       
  3. ダイバーが予期せぬところに流されてしまい、漂流にいたるケース
     
  4. シグナルフロートが効果を発揮しない場合のケース。これを使用したダイバーの証言によると、実際の海では50mも離れると船上から発見できなかったり、波高によっては20mでも難しい事があるとのことでした。こういった理由で、漂流に至る、というケースがあります。

というものです。

 特に多いのが1.のけ―スです。事実上、このダイビングボートが関係して発生する漂流事故の多くがこのケースです。

 つまりこのような漂流事故の初期の時点で発見されれば、いわゆる「事故にならない」時点で解決されてくることが間違いないと言えるものです。

 ダイバーの事故とは、特に水中で発生した事故は、そのほとんどが一瞬の出来事で死に至ってしまいます。その中で唯一助かる為の時間的余裕があるのが漂流事故です。しかし、いくら時間的余裕があっても、一旦漂流者が遠くに漂流してしまった場合は、それを捜索、救助することは容易ではありません。その場合、集団で漂流する確率の高いこの事故は、対処を間違うと多人数が同時に死亡してしまいます。

 こういった「事故」になることを防ぐために、ダイビング(ダイビング専用船には搭載していない場合もあるが)やダイビングサービスを行っている漁船などに搭載してあるレーダーで、「事故」にならない初期状況で、海面のダイバーを発見できれば、漂流事故が大きく減ったり、万が一漂流となっても、その発見が容易になるのではということから、このレーダー波反射器材を使っての試験(実験)が行われました。


実証試験(実験)レポート


◇器材と使用状況

1.レーダー波反射器材

当日の天候は午前中晴れ、午後は晴れ時々曇り、微風、波静か

 実証実験は、プロを含む、ダイビングの経験が極めて豊富で、自身、漂流の経験もあるダイバー(複数)がボランティアで参加し、このような海洋実験に詳しいプロの方々がスタッフとして参加して行われました。そしてダイビング船隻をもって、ほぼ丸一日に渡って、実際に海上でその実際の性能と利用状況をテストしました。また、日本沿岸では、海上でも広く携帯電話が使えることから、参加したダイバーのアイデアを入れて携帯電話と併用した通話実験も行い、それらにおいて、予想以上の好結果が得られました。

 ここでは、これまで軽視されてきた、漂流事故を「重大事故に至る前に予防する」というコンセプトの下の、世界初の実証試験の模様をレポートし、ダイバーの自己防衛のため、そして優良ショップが、ツアーを開催中に漂流事故を起こさないためのツールとして役立てるための情報として報告します。

@レーダーで計測した計測船は、遊漁船で6トン、通常はボートダイビングサービスも行っている船でした。装備していたレーダーはFURUNO RSB0034で、アンテナの高さは1.7mでした。

Aレーダーは、0.3海里(555.6m)まで連続して感知できました。ときどきレーダーに写るという距離は0.4海里(740.8m)でした。偶然に薄く写る距離まで見ると0.5海里(926m)でした。

B結果として明確に感知できる距離が500mを確保できていたことで、漂流の初期段階での発見が確実なことがわかり、この方式が有効なことが分かりました。

Cなお、500m離れると、船からは水面のダイバーたちの姿は見えませんでした。絶好の天候でこれですから、多少天候が悪い時にはさらに目視での発見は困難と思われます。


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●KRB−10型をたたんだ状態(これをBCのポケットに入れる)
※これは、当日使用したレーダー波反射器材と同じもので、興亜化工社製のものです。現時点では、ダイバーの漂流事故防止のときのレーダー波反射器材として、そのコンパクト性と性能、及び価格において最高のものと思われます。

詳しくは興亜化工のホームページをご覧下さい。(興亜化工株式会社http://www.koa-kako.co.jp/)

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●実際にダイバーが膨らまして海面で使用している状況

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500離れてもはっきり写っています。この時には、すでに船上からは、漂流したダイバーは全く見えませんでした。

2.海面からの携帯電話による通話実験

 これは、携帯電話を生活防水用のビニールケースに入れて、水深30mまでの耐圧ケースに入れてダイビングをし、海面でケースから出して使用しました。短縮登録しておくことで間違いのない、クリアな通話ができました。

●携帯電話を防水ケースに入れてから耐圧ケースに収納してBCにつける。


※これについては拙著「新版 誰も教えてくれなかったダイビング安全マニュアル」に、ダイバーの方の当日の感想と使用中の写真も含めて詳しく載っているのでそれをお読みください。
なおこのアイデアは、当日ボランティアで参加したダイバーのmarkさんによるものです。
この実験に参加したダイバーの方のホームページに、使用時の感想などが掲示されていますので、そちらも参考にしてください。

マークさんのホームページ(http://www.hi-ho.ne.jp/mark_/

3.CDを使っての光の反射実験

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 CDをBCの肩につけてダイビングを行い、海面で自分の位置を知らせるたいときに、どの程度使えるかのテストも行われました。

 写真では分かりにくいのですが、実際はかなりキラキラと見えるため、思った以上に有効でした。近距離の場合で、太陽光があったりライトを反射させるためには有効だと思います。

 失敗したCD-Rなどをコースターにしたり、そのまま産業廃棄物として捨てるよりも有効な使い方ですね。真中の穴に紐を通してBCに結んでおけばいいだけです。

 このアイデアもボランティアで参加したダイバーによるものです。


 当日参加された、プロ1名を含む計3名のベテランダイバーの方々の、安全潜水に対する思いはすばらしいものでした。そしてこういった実証試験(実験)には欠かせない、有能なプロのスタッフのおかげで、ダイバーのために、非常にすばらしい情報と成果が得られました。プロジェクトの総人数10数名が参加して行われたこの実証試験(実験)は、大成功でした。
 このホームページで、この実証試験の結果を見た方が、いつか重大な事故に遭遇しないで済むことに役立つことができるよう、心から祈っています。


 なお、皆さんから、これらの器材を使ってみた体験レポートをお待ちしています。よろしくお願いします。ホームページに掲載させていただく場合は、必ずメールで了解を取るように致します。


平成14年7月20日  

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