日本スポーツ法学会大会での発表概要


 平成20年(2008年)12月14日に、日本スポーツ法学会第16会大会が開かれました。
 大会は熱心な参加者によって濃い内容のものとなりました。その速報が日本スポーツ法学会のホームページに掲載されていますので興味のある方はそちらをご覧ください。
 さて、そこで私も発表をさせていただきました。
 ここにその内容の一部を紹介いたします。この研究発表の内容は、平成21年(2009年)夏に、日本スポーツ法学会年報として出版されますので、そちらもぜひご覧ください。


商品スポーツ事故における業者の刑事責任
日本スポーツ法学会第16回大会自由研究(平成20年12月14日)


写真は発表の模様

序.1 商業スポーツと商品スポーツ
 ■国民にとってスポーツは、もっぱら自己完結型で行うものを除くと、商業スポーツと商品スポーツに大別される。商業スポーツとは、そのスポーツに直接参加しない者が観戦することで成り立つ興業スポーツであり、プロやアマチュアであるかを問わず、選ばれしエリートとしての少数の選手によって行われる。
 商業スポーツでは、その個人記録、試合や大会の記録(映像や競技記録・対戦内容など)の二次利用、スポーツ実施者のビジネス的肖像権、またこれらに付随するさまざまな権利に経済的政治的利害関係が生じる。したがって商業スポーツは国民の基本的権利としての自由かつ開放的なスポーツとは明確に区別され、特権的かつ少数者のための特殊なスポーツであると言える。したがってそこに生じる刑事責任問題は商業的な背景が強い独特なものとなる。
 一般国民が自由に行うスポーツはエリートのためのスポーツではない。通常はレジャーや健康管理のために行われる。そして社会には、これを行う機会を役務商品として商品化し、広く一般に販売して利益を得るビジネスが存在する。このスポーツが商品スポーツである。国民は、消費者の立場でこの役務商品を購入することになる。そして多くの場合、国民は商品スポーツによってスポーツを楽しむ機会を得る。また一般の国民は、通常は選ばれし選手としての地位にある訳ではない。このような商品スポーツは、観客がいなくても、またその結果や記録の権利の管理や再利用がなくても成立するスポーツの一形態である。
 ※純粋な教育としての「体育」はここでは扱わない。
 
序.2 役務商品としての商品スポーツ
 ■商品スポーツは一般国民に対して、通常自由に販売されている。そしてこれは、消費者がその実行後に、安全に遅滞なく日常に復帰できることを前提とされた役務商品である。 
 このように、一般向けに販売される、レジャーを目的とした役務商品では、消費者はその安全性という品質が確保された上での商品として販売されていると考えるのが普通である。それは、一般消費者向けに無差別に販売される商品の、安全に関する社会的合意を背景としている。これは食品でも電化製品でも同様に求められている社会的合意である。したがって商品スポーツには、商業スポーツや、非商業スポーツであっても特別な訓練と適性を前提とするようなピッケル登山や、同じく減圧が必要となる大深度ダイビングなどを行う場合にしばしば認められる、実行者が致死的危険を受容していることを社会的に当然のこととして了解されているような危険の引き受けを求めることはできない。つまり一般消費者として商品スポーツ(スポーツ実施権)を購入する契約においては、通常消費者側に、商業スポーツにおける「選手」や、致死的危険を前提としたスポーツと同等の、明示や黙示の危険の引き受けは求められ得ないのである。そしてこれはまた、販売側が消費者に対する商品に高い安全配慮義務(注意義務)を負っていることを示している。
 このことが、商品スポーツにおける人身事故の際に、業者が業務上の過失責任として刑事責任を問われる根拠となる前提なのである。

1.散策登山における業者の刑事責任
 1.1 ニセコ雪崩事件
 1.2 トムラウシ遭難事件
 1.3 羊蹄山ツアー遭難事件
 1.4 屋久島沢登りツアー死傷事件
 1.5 散策登山における業者の刑事責任の背景

2. スクーバダイビング業者の刑事責任
■業界の宣伝⇒「ダイビングは安全」。ただし事故になったときは、「ダイバーの自己責任」

●ダイビング業界の事実認識
「ダイビングの本質に危険性は深く関与している。一呼吸を間違えばパニックになって、その対処を誤れば生命の危機に直面する。」
積極的に危険であると言うべきであろう。」
危険の程度にも致死的であるということは他とは質的に異なるものである。」
「スクーバダイビングはハードとは実際には言えないと思うが、致死的な危険性が潜在するということは確かである。」
(「21世紀・日本のダイビング業界はどうあるべきか」平成10年度 中小企業活路開拓調査・実現化事業補助事業 平成11年 スクーバダイビング事業共同組合 25〜26頁で繰り返し出てくる「危険」と「致死的」表現

 2.1 アドバンスコース講習死亡事件
 2.2 サバチ洞窟事件
 2.3 スクリュー巻き込み死亡事件(ボート上の見張りの注意義務違反)
 2.4 洞窟置き去り死亡事件
 2.5 ダイビング業者の刑事責任の背景

3. 商品スポーツ業者の責任を構成する要素

資格が販売されるインストラクターやガイドの品質には、彼らを教育・養成する資格販売者に最終的な責任があり、品質上の問題によって事故が発生した場合には、資格販売者がインストラクターやガイドと共に責任を共有すべきである。しかし現状では資格販売者の品質管理を効果的に規制できる法はない。これは法の不備が現実に社会に不利益をもたらしている典型例である。このような中、現場の優良事業者は自助努力によって自らの品質を磨き、自力でこれを維持しているのが現実である。これは商品スポーツの品質上の良質な部分が、必ずしも現在の資格ビジネスの必然的結果とは言えないことを示している。なお山岳ガイド(ダイビングも同様)は、地域によっては自由にガイドと自称することもでき、その品質は個人に依存している。


平成20年12月19日

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「忘れてはいけない ダイビング セーフティ ブック」 「商品スポーツ事故の法的責任」