生物事故の事業リスクと客のリスク
1.ダイビング活動に伴う生物事故と人数比の関係
インストラクターと客の人数比は、業者の側には経済的効率の面で有利を目指す材料です。一人の経費でどれだけの客をさばいて利益を大きくするかです。
客側にも、一緒に同じ経験をする人が多いと、ワイワイガヤガヤの楽しみもあり、満足感が高まる場合もあります(そうでない人もいます)。
しかし、人数比は経済効率は表面的楽しみの視点を離れると、生き死にの問題、事業と生活の破たんの問題、延々と続く裁判の問題、その他の問題が見えてきます。
この二つは裏表の関係で、どちらか一方だけで存在できることはありません。
またどちらが表でどちらが裏とも言えません。
一般には楽しげな方、また儲かる方が表と思えるかもしれませんが、事故者から見れば、前述の文言を言い換えの軽薄な楽しさや金儲け主義は、ダイビングにとって、実際は表を偽装した「裏」の問題ではないかと見られることが少なからずあります(自分が事故者や遺族となれば他人ごとではありません)。
ところが現状では、業界やメディアから出てくる情報は一方に偏っています。
一人で多人数を引率する、特に初心者や初級者、また体験ダイバーや受講生に対しては、安全性を考慮すれば、プロ側3人に客1人というのが完全ではないが十分に近い人数構成比となります。
過去の事例ですが、ハワイに日本の政治的有力者が来てダイビングをすることになったとき(何度もダイビングを行った経験があります)、ハワイ中から、優秀なプロが集められ、一人のそのダイバーの周りを取り囲んで潜水を行っていたそうです。
そして写真の撮影のときだけそのプロたちが映り込まないようによけ、ガイドが一人だけのように見せていたということです。
つまり、ダイビングの安全な終了を目指すには、これだけしてあたりまえ、ということが真実として存在するからでしょう。
我々一般人の安全については、これほど気遣ってはもらえませんが、それでも3対1という人数比は、消費者側には妥協し得る最低ラインでしょう。
しかしこれでは費用が高くなる、というのなら、そのインストラクターやガイドが事故や体調不良で活動不能になった時の重大なリスクを負うという覚悟であれば、1対1の人数比も許容範囲となるでしょう。
3人のプロ側の体制というのは、インストラクターが行動不能となったとき、あるいは突然死をしたとき、そのインストラクターへの対応を予備のプロがマンツーマンで行い、客はもう一人の予備のプロが直ちに安全に浮上させて安全に避難させる(乗船・上陸)対応ができるからです。
それでもこの予備のプロが客をサポートしている際にトラブルに陥る可能性がありますが、そこはたった3人のプロ側という体制なのですから、前述したような、多数の一流ダイバーで取り囲むという体制でのフォローに比べると非常に脆弱な体制であることは否めません。
先の事例のように、多数の一流ダイバーで取り囲むという体制は、客を守るというときのスタンダードであり、それ以外はさまざまな妥協の下のイレギュラーであることは頭に入れておきましょう。
2.講習中やガイド中にインストラクターが行動不能になった事例を生物事故の側面から見る
■オコゼの棘で死亡
これは講習中にインストラクターがオコゼに刺されて死亡した事例です。
ただ、たまたま水中での出来事ではなかったために、客に重大な影響がなかった事例です。
この講習を行っていたインストラクターは、裸足で、講習を行うために海岸の浅瀬から船を出そうとしていました。そしてオコゼを踏んでしまったのです。
事故者は、「痛い、オコゼに刺された。お湯を持ってきてくれ」と周囲に助けを求め、駆け寄ってきた受講生や近くにいた同業者が事故者の左足の裏の数カ所の刺し傷から毒素を出そうとしましたが、数分後にその事故者はその場で心肺停止状態となりました。
そして約1時時間半後、救急車で搬送された病院で死亡が確認されました。
沖縄県内では、1983年にも、海岸でオニダルマオコゼに刺された男性の死亡事例があったということです。
この事故者は当時50代後半であり、十分に危険やその回避方法を知っていたベテランだったようです。
それほど経験豊かなプロであっても、ビーチで裸足で行動するという危険を冒してしまったのです。
今日もいつも通り裸足でも大丈夫、という、リスクに対する僅かな油断がそこにあったのかも知れません。
人間誰にでも油断が存在します。
ダイビング場合で、それがインストラクターに油断が生じれば、そしてそれが、初心者や初級者が水中や海上に取り残されるとうか状況で起きてしまえば、結果的に残された側の致死的リスクをなっていくことでしょう。
■オニヒトデで死亡
インストラクターがファンダイビングを開催中にオニヒトデに刺され、その後ショックで死亡した事例です。
40歳代のインストラクターが客2名を引率してファンダイビングを行っていました。
このインストラクターは、水深約18mの海底にオニヒトデがいるのを発見しました。
そしてこれを「駆除」するために石でたたき、オニヒトデの棘が右手に刺さりました。
事故者は海面に浮上しましたが、すぐに意識を失い、翌日朝に死亡してしまいました。
司法解剖の結果、ハチ毒など体に入った異物に過剰に反応し、呼吸困難などを引き起こすアレルギー症状「アナフィラキシーショック」が起きており、そしてこれによる低酸素脳症を起こしていました。
このインストラクターは約6か月前にもオニヒトデに刺されていたそうです。
初心者の講習中に同様の事故が起きて、インストラクターが行動不能ないしは死亡した場合には、水中や海面で受講生や初級者たちが孤立してしまう可能性が考えられます。
初級者相手のガイドダイビングでも同様です。
実際に、10本程度の経験者を、Cカードを持っているからと、ファンダイビング中に体調が悪くなったからと浮上させてそのまま自分で海岸まで帰れと指示し、自分がまた水中に潜っていたことで、海面でさらに最長不良を起こしたダイバーが沈降して行って死亡した事例もあります。
他の、一人で漂流となって死亡した事例も。
3.客ダイバーの側の事故例
■ウツボで手術
事故者はダイビング客10名とともにボートダイビングを開始しました。
そして水深約20mの海底で岩場に手を置いたとき、突然ウツボに左手人差し指と中指を咬まれました。
事故者はダイビング船で港に入港後、待機中の救急車で病院へ搬送され、病院で人差し指靭帯と神経の切断と診断され、翌日手術が行われました。
この事例では、噛まれたダイバーはパニックを起こしていなかったようです。
自分のパニック発生を抑えた抑制行為が、結局は自分の命を危険にさらさない、さらに同じパーティにパニックの連鎖をもたらさないとなったようです。
インストラクターやガイドが一人で、そしてこのような事態でダイバーがパニックを起こした場合には、インストラクターはこの人にかかりきりにならねばなりません。
客側に経験が少なかった場合、拡大しかねないリスクの恐怖が襲ってきます。
4.起きてからでは遅いリスクの情報
■イルカの攻撃性への理解
たとえば、イルカの性善説を相当に信じているアメリカでも、有名な新聞がイルカの危険性と攻撃性に関する記事を掲載しています。(ニューヨークタイムズ 1999年7月6日の記事 "Evidence
Puts Dolphins in New Light, as Killers")
記事では、イルカの攻撃性や残虐性について、またイルカと泳いでいるときに噛まれて入院した女性のことも書いています。
イルカはおもちゃではなく、あくまで野生動物(人間を拒否する野生の自由がある)であるということを忘れずに、さらにガイド(良いガイドであることを祈って)の注意をよく聞いて、イルカたちの友好性が発揮できるように接する(見る)ことが必要なようです。
■クジラ
ある著名な水中カメラマンが、小笠原で単独でクジラの撮影をするために潜り、そして行方不明となっています。クジラが原因かどうかは分かりません。単独潜水でしたから。
プロが収益を追求したい場合でも、消費者としての一般ダイバーがダイビングを楽しみたい場合でも、それぞれがきちんとリスクを把握して、何をすべきか、何をあきらめるべきなのかを真剣に考えることが必要です。
誰もが今シーズンも生き残ってください。
平成26年5月4日
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