事故の実態の過少評価について


※以下の数字は私が調べたものであり、また、見解や感想は個人的なものです。

1999年の事故者数ですが、私のカウントミスで、正確には63人ではなく64人でした。よって、これにかかわる各種数字は変わります。申し訳ございませんした。ただし、この増加した1人は死亡・行方不明者でも、重度後遺障害をもつものではなく、無事助かっていますので、重要部分の数字は変更ありません。(2002年11月30日)


 現在、一般にダイビングの事故数の実態として公表され、引用されている数字があります。
 私は、1993年から事故の実態を研究していますが、その途中で、見逃されている事故がいくつもあることに気がつきました。そこで、4年前から3年間に渡って、私財を投じて、事故の実態の調査を行いました。
 しかしながら、調査の結果は、単なる一個人が、日常働きながら、その合間や休日、または有休の時間の範囲内で、また調査の予算も、預貯金の取り崩しや生活費の一部を投入した範囲に限定された中でのことでしたので、当然ながら事故の実態の完全把握には至っていないと思います。また、私自身が何らの公的な存在ではないため、あたりまえですが、政府機関から公式に大々的な協力を得ることなどはできません。ごく一部の、例外的に理解を示してくれたところを除けば、必死のお願いを行って、個人的に信用していただいて情報を分け与えていただけるというレベルでした。
 また、いろいろな問題もあり、理想的な調査には至っていません。
 ここでは、そんな非力で、不十分なレベルでなんとか調べられた数字と、一般に、公式の数字として、さまざまに引用されている数字との比較をしてみます。
 なお、私が調査した数字は、このHPで毎年公開している内容からです。(予算が尽きているので今後も調査できるかどうかはわかりません)

一般的な事故数字とHP管理人調査数字との比較

    

1999年

2000年

2001年

3年計
発表された数字

事故者数

52人

34人

30人

116人

死亡・行方不明者数

20人

13人

10人

43人
このHP管理人が調べることができた数字

事故者数

64人

47人

50人

161人

死亡・行方不明者数

29人

19人

17人

65人

3年間で、発表されている数字と、このHPで公表した数字との比較

  差異率
事故者数 45人 28.0%
死亡・行方不明者数 22人 33.8%

 以上から、現在、引用されている数字は、私が個人で調べたレベルの実態より約30%低い数字となっています。私は1998年以前の事故の実態については直接調査はしていないため、このように一般的に引用される数字のみしか手に入りませんでした。したがって、私は統計数字を取る時にはこの数字(一般にダイビング事故の実態とされている数字)を使っています。

公表されている数字からの、過去の事故者数

   

'89

'90

'91

'92

'93

'94

'95

'96

'97

'98

事故者総数(人)

55人

64人

58人

62人

50人

69人

30人

52人

44人

43人

527人

死亡・行方不明者

30人

27人

31人

20人

26人

29人

17人

31人

23人

24人

258人

※拙著「ダイビングの事故・法的責任と問題」(杏林書院 2000年)においては、1998年までの事故者数は、財団法人日本海洋安全レジャー・安全振興協会の数字を採用していたが、1997年の数字が海上保安庁の発表数字と異なっていたので、ここでは1997年の数字のみ海上保安庁が「海上保安統計年報平成9年版」で発表した数字を採用した。

1999年から2001年の3年間平均差異率を換算した事故の実態の推定(参考)

    

'89

'90

'91

'92

'93

'94

'95

'96

'97

'98

推定事故者数

70人

82人

74人

79人

64人

88人

38人

66人

56人

55人

785人

推定死亡・行方不明者数

40人

36人

41人

27人

35人

39人

23人

41人

31人

32人

345人

考えなくてはならないこと

 これを見ても分かるように、3年間の事故の実態(と言っても個人レベルという限界において調べた数字)から見て、1989年から1998年の10年で、事故者で258人、死亡・行方不明者で87人という、大きな数字が見逃されている可能性が見えます。つまり、この数字で事故を毎年過少評価して、「ダイビングは安全で、泳げなくてもできる」というイメージコントロールを行う人々によって、安全のための対策が疎かにされているのではないでしょうか?
 もし、この「差異率」を換算しなくても、わずか10年で数百人が死亡するような海の遊びが、「安全で事故はない」「泳げなくてもできる」というようなイメージで商品化されて販売されていいのでしょうか。
 ダイビングが危険に満ちたものと言う気は全くありませんが、無条件で安全などというイメージコントロール自体は大変危険なものなのではないでしょうか。
 これだけ人身事故が起きていれば、ダイビングのビジネスは、よっぽどの覚悟と安全対策を練ってから行わねばならない事業だというのはお分かりだと思います。
 よく、遊びの延長としてインストラクターになれる。海が好きならばプロとして開業できる。としてインストラクターコースを売っているところもあるようですが、自分の商売で人が死ぬというビジネスは、遊びの延長とか、海が好きならばできる、というものでないと考えるのが普通でしょう。本当のプロとしての自覚と覚悟を持った人だけが、本当に尊敬できる特殊技能者(高レベルのプロ)としてダイビングビジネスができるのではないだろうかと思います。

 野球やサッカー、あるいはテニスや卓球で、わずか10年間に数百人も死亡する事実を知ったなら、あなたはそれらを安全なスポーツやレジャーと見ますか。もし実際にのこような実態があったなら、あなたやあなたの家族が、これらのスポーツをやる時には、相当の覚悟の上で行うことでしょう。またもしジェットコースターやバンジージャンプで、同じように10年間に数百人死亡したりしたならば、遊園地(やテーマパーク)において、このような遊戯(アトラクション)施設は撤去されるでしょう。

 ダイビングビジネスは、こういった事実を正面から認識した人によって、また客に対してもきちんと事実を知らせて覚悟をしてもらい、その上で、保険などをしっかりとかけ、毎週数回は事故時の救助のシュミレーション訓練を積んだ(ライフセーバーのように)、厳しさに耐えることのできる本当の海のプロこそが行うべきビジネスであると思います。
 そうすれば、よく言われているように、レベルの低いダイバーは生まれてこないだろうし、ダイビングビジネスのリスクマネジメントの能力や、過酷な訓練や豊富な経験に裏打ちされた背景がなくても、遊びの延長でできると思ってインストラクターになって(現在のシステムでも、インストラクター自身は自立したダイバーにはなれるので、この民間の任意の資格の名称はさておき、このような訓練商品が販売されることは悪いことではありません。ただし、これだけで、人の命を預かるプロにはなれないのではと考えますが)、自分がもうプロだと思ってしまうことがなくなるのではと思います。

 以上から、ダイバーや業者の方々は、事故の数字や実態を過少評価しないように注意すべきではないかと思います。実態より30%は低いと思われる数字でさえ、1989年から1998年までの10年間に、実に258人が亡くなっているのです。そして生き残った人の中には、一生涯、重度の後遺障害を負って、あらゆる意味で極めて不自由な人生を送っている方もいるのです。死亡していない数字の中には、そのような悲しい事実もあるのです。

 ファンダイビングは、危険が伴うとはいえ遊びですが、ダイビングビジネスは、覚悟を持った本物の海のプロが行う事業です。だからこそ、ダイバーは、本物のプロを尊敬して応援する必要があるのです。それこそが、ダイバーと、これからダイバーになろうとする方々のための安全率を上げることに必要なことです。


平成14年8月7日 

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