油 断


 ほんのちょっとした油断が死をもたらすこともあります。
 次に紹介する例は最近のことなので、その場所と発生日時についてはしばらく公開しないことにします。しかし、ダイバーの安全のために、また、器材をレンタルしているショップの方々が、安全管理のごく初歩的なことを忘れないように、この事故の事実を早めに公開することによって、同じような事故を未然に防ぐ情報として頂きたいと思います。


事故の概要(ファンダイビング中の事故) 
事故者:男。PADIアドバンスダイバー。経験7年で130本。
事故発生場所:日本某所
事故の結果:生命は助かり、後日に社会復帰



 この事故は、事故者がダイビング器材の装着時に、充填済のタンクの空気供給口に貼付けされたシールをはがし忘れたままレギュレーターのファーストステージを装着したことによって、海中で空気が十分に供給されずに酸欠状態に陥り溺水した事故です。
 事故の日に使用した器材は、タンク以外は全て自己所有のものでした。この時、当日のガイドによる器材の点検はなされてはいませんでした。
 ダイビングは、その目的地へ行くために必要なポイントの特性上、約50〜60mのトンネル状の洞穴を潜水しなくてはならないため、そこで一度太陽光線が妨げられて見通しが悪くなることから、ガイドが時々ついてくる後方のダイバーたちを確認していたが、潜水して約5〜10分後に、水深20m付近で事故者が自分のBCのインフレーター(BCに空気を送り込むホース)を操作しているようであったのを見、そして急に沈み始めたのに気がついたため、事故者が浮力の調整がうまくいっていないと思って近よって抱きかかえたところ、その事故者がくわえていたレギュレーターを外してパニック状態になったので、ガイドは事故者のレギュレーターを操作して口にあてがい浮上しました。
このとき、ガイドは自分がダイビングボートの操船者であり、乗ってきたボートは無人のまま離れたところに停泊していたのですが、その時、偶然に近くを通りかかった他のダイビングボートに救助されました。事故者は船上でも意識不明でしたが、そのボートのダイバーの中にいた看護婦の適切な処置によって意識も回復し、港で救急車に引き継がれて病院に搬送されました。
 この事故の原因は、タンクに器材であるファーストステージをセッティングするときに、充填済の証明である、タンクの空気の供給口に貼られたシールをはがすことなくセッティングしていたことが後に判明してしました。

 この事故は、事故者の油断でタンクの充填済のシールをはがすことを忘れていたことから発生したものです。たまたまシールの僅かな隙間から空気が供給されていたために気づかずに潜水を開始しましたが、潜水後の水圧の変化の影響で徐々に空気の供給がされにくくなり、最終的に空気の供給が止まってしまったために溺水にいたったのです。


(事故となったタンクのシールの状況とファーストステージの状況・・・提供:海上保安庁)

 ここでの教訓は、こんな簡単なことでも忘れてしまうということ。そして、もしガイドがこの異常に気付かなかったら、ほぼ間違いなく事故者は死亡していたこと。またもしここで事故者が死亡した場合、タンクを貸し出した時に、そのシールの状態を確認していなかったガイドは、安全配慮義務違反で、業務上過失致死罪、あるいは遺族によって損害賠償請求裁判をおこされてる可能性があったということです。

 ダイバーの油断。業者が単純な確認を怠ったという油断(ダイビングの一般の器材が自己所有であっても、タンクはそれを貸し出した側に管理責任がある・・・正しく使わせるための安全確認)。この二つによって起こった事故です。

 皆さん(一般ダイバーと業者)は、この事故を教訓に、くれぐれも「油断」には注意してください。


平成13年2月2日

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