「三者間確認書」の提言


これまでご覧になってきたように、現在の「免責同意書」にはいろいろ問題があり、このままではダイビング業界の信用はますます失墜していくばかりです。また、彼らは、これに代わりうるものを考えていません。よってここでは、「免責同意書」の問題点を整理して、新たに提言をしてみたいと思います。
なお、国際スキー連盟も以前はダイビング業界と同じような「免責同意書」を使用していたのですが、国際的な非難の後に新しい内容のものに替えています。ご興味のある方は参考までにこちらをご覧下さい。

(A)ダイビング業界の「免責同意書」の目的

  1. アンケートによると、イチャモン・ユスリ・タカリを未然に防止するため。
  2. 消費者(ダイバー)に、自己責任として、全てのリスクを背負ってもらうため。

(B)「免責同意書」の問題点

  1. 実際の運用では、自分達(ダイビング業者)の過失も含めた、予想し得る・得ないにかかわらず、あらかじめ全責任を事前に回避することを狙いとしている。
  2. 書類の内容は、署名者に基本的人権を一方的に放棄させて、相手が被害に遭う前に全ての権利と請求権を放棄させ、つまり人権のない状態にすることを狙いとしている。
  3. 消費者に対して、故意に、必要な情報(説明)を与えずに、また避け得ない直前(講習やツアーの出発目前など)に、不利な状況に追い込んで署名させている。
  4. 社会的非難にもかかわらず、業界ではこの書類の運用拡大を進めている。

(C)「免責同意書」の社会的評価

  1. 公序良俗に反している。
  2. 書類それ自体には裁判所で通用する法的正当性は認められない。

 

以上を踏まえて、「免責同意書」に代わるものを考えてみました。但し条件として以下のものを考えなければなりません。

  • 業者側にとって一方的に有利なものにしてはいけない。
  • 消費者の権利と請求権は保護しなければならない。
  • 消費者に判断できる十分な説明がなされなければならない。
  • 以上を踏まえた上でショップやインストラクターへのイチャモン・ユスリ・タカリを未然に防止しなければならない。
  • 善良で優良なインストラクター及びガイドが、負うべき以上の責任を押し付けられないようにしなければならない。
  • そこで、私案として「三者間確認書」というものを提案します。この場合の「三者」とは、1.事業者、2.インストラクター及びガイド、3.ファンダイバー及び講習生、という位置付けになります。


    一般的な「ファンダイビング・ダイビング講習時、三者間確認書」私案

    以下についてはあくまでも試案であります。法律的な用語・表現について不備があるところもあると思いますが、これらについては専門家によるご指摘をいただければ幸いです。

    また、以下の言及しているダイビングの行為とは、いわゆる、技量が同等の者たちの、同士的なダイビングではなく、基本的に、金銭の授受を伴う、商業的な主催者と参加者という関係において成立するものとします。


    スクーバダイビングを行うことによって、参加者・主催者・インストラクター(ガイド)は以下の内容を確認します。ただし、事故が起きた際に、その責任の所在に不服がある場合には、三者及びその法的相続人または代理人は、共に、訴訟を含む法的権利を有するものである。

     

    基本確認項目

    1. スクーバダイビングは、生命喪失に繋がる、本質的に危険なものである。
    2. スクーバダイビングの講習学科・技術に関して完全なものは存在しない。
    3. ダイビング中は、講習及びガイドを受けるダイバーは、基本的にインストラクター及びガイドの指示を守らねばならず、またインストラクター及びガイドは適切な指示を与える義務を有す。
    4. ダイビングツアー・講習の参加者が死亡、もしくは重大な障害を負った場合には、以後の交渉の権利と義務は、正式な相続人または代理人が行うものとする。

    参加者(ファンダイバー・講習生)の項目

    1. ダイビングツアー・講習の参加者は、スクーバダイビングが本質的に危険なものであることを認識していなければならない。
    2. ダイビングツアーの参加者は、その水域で行うダイビングに必要な技量のレベルに関して、偽りを申し出てはならない。偽りの申し出によった上での技量不足により起きた事故に関しては、応分の責任をとらねばならない。
    3. ダイビングツアー・講習の参加者は、インストラクター及びガイドの指示を尊重し、自らの安全に関するもの以外はそれに従うことを基本とする。
    4. ダイビングツアー・講習の参加者は、インストラクター及びガイドの正当なる指示を無視して行った行動に対して、その責任を負わねばならない。
    5. ダイビングツアー・講習の参加者は、事故の際、自らの生命の保持を優先しつつも、無謀な行動によって、同行者を危険に遭わせてはならない。
    6. ダイビングツアー・講習の参加者は、事故の際、一般的な補償以上を望む場合などは、自らの責任で保険に加入しなければならない。
    7. ダイビングツアー・講習の参加者は、ダイビングを行う水域に関しての過去の事故の情報などや、過去に主催者やインストラクター及びガイドが遭遇した事故にどのように対応したかを質問し、十分な回答を得る権利を有す。
    8. ダイビングツアー・講習の参加者は、インストラクター及びガイドが、その任にあたる義務を行わない場合、主催者に対してその交代を依頼することができ、それに対して主催者が応じなかった場合にはツアー及び講習を無条件で解約することができる。
    9. ダイビングツアー・講習の参加者は、予期し得ぬ自然現象など、不可避的な事象によって引き起こされた事故については、その主催者、インストラクター、ガイドに対して無制限の責任を問うことができない。三者間で責任配分の合意に至らぬ場合には、法的な第三者の裁定に従わねばならない。

    インストラクター、ガイド及び主催者の項目

    1. ダイビングの準備段階と終了後の後行程において、完全にダイビングと関係ない場所に移動するまでは、ダイビング中と同様の注意義務を有す。
    2. ダイビングのツアー中の責任範囲は旅行業法に準ずる。
    3. インストラクター及びガイドは、ダイビングを行う水域などの状況を熟知しておかねばならず、その場所が、ダイビング実行時危険と判断した場合には、ツアー・講習を中止しなければならない。なお、この判断にともなう責任はインストラクター及びガイドを含む主催者にある。
    4. インストラクター及びガイドは、ダイビングを行う水域について、参加者に対し、過大に楽観的な情報のみを流してはならない。そして、ダイビングを行う前に、その参加者について、その水域などで起こりうる危険について、事前及び直前に十分に説明をする義務がある。
    5. インストラクター及びガイドは、講習を受ける者、またはガイドを受けるダイバーからの質問に関し、それが質問者の直接・間接の安全にかかわる質問であれば回答する義務がある。
    6. インストラクター及びガイドは、その水域で起こりうる事故の具体的な内容について、及び事故の際全員が取るべき行動について、事前及び直前に十分に説明をする義務がある。
    7. インストラクター・ガイド及び主催者は、事故の際の救急医療を要請するルートを確保、あるいは熟知しておき、事故の際には迅速に対処する義務がある。(有効に稼動する救急医療ルート)
    8. インストラクター及びガイドは、ダイビング中、ダイバーに対して注意義務がある。
    9. インストラクター及びガイドは、ダイビング中に十分に注意義務を果たせない人数の講習またはガイドをおこなってはならない。主催者は、インストラクター及びガイドに対して、その技量を超えた人数の講習またはガイドを行わせてはならない。
    10. インストラクター及びガイドは、指示に従わない参加者が危険を生みうると判断した場合、また、ツアー参加者が、当該水域でのダイビングを行う場合に必要な技量レベルに関して偽りの報告を行っていた場合には、その参加者のツアー・講習への参加を取り消す権利を有す。
    11. インストラクター及びガイドは、参加者の体調に問題があると判断した場合場合にはその参加者のツアー・講習への参加を取り消す権利を有す。

     

    主催者の項目

    1. 主催者は、ダイビングツアー及び講習を実施する場合に、ダイビングの危険な情報を含む事故の実態と、ダイビング自体のリスクについて、参加者に十分に説明しなければならない義務を有す。
    2. 主催者は、参加するインストラクター及びガイドを含むダイビングツアー及び講習参加者に対して、事故の際、十分に補償できる保険に加入する義務がある。また、ダイビングツアー及び講習参加者に対して、追加分の保険に加入を促す権利を有す。
    3. 主催者は、事故の際の救急医療を要請するルートを確保、あるいは熟知しておき、事故の際には迅速に対処する義務があり、これをインストラクター及びガイドに事故の際には直ちに実行するように指示しておく義務がある。
    4. 主催者は、講習生及びガイドを受けるダイバーから受ける質問に関し、それが質問者の直接・間接に安全にかかわるものであれば回答する義務がある。
    5. ダイビングの準備段階と終了後の後行程において、完全にダイビングと関係ない場所に移動するまでは、ダイビング中と同義とし、その間は主催者に最終責任があるものとする。その他は旅行業法に準ずる。
    6. 主催者は、インストラクター及びガイドに対して、その技量を超えた人数の講習またはガイドを行わせてはならない。
    7. 主催者は、インストラクター及びガイドに対し、ツアー及び講習実施水域の十分な知識を与える義務がある。
    8. 事故が起きた場合には、主催者はすみやかに対処し、その責任については三者間で十分に協議する義務がある。
    9. 主催者は、予測不可能な自然現象、または参加者の完全な個人的責任によって引き起こされた事故に対して無限責任を負うものではない。
    10. 主催者は、いわゆるイチャモン・因縁の類に対して、防御する権利を有す。

    本 人 署 名

    参加者名

          

    インストラクター/ガイド名

          

    主催者代表者名

          


    (平成10年秋掲載:平成11年5月発売の「ダイビング生き残りハンドブック」に要約掲載)


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