スクーバダイビング中の地震と津波に関する報告と一考察
(日本旅行医学会での発表資料から)


 昨年日本旅行医学会にて発表した内容ですが、津波の危険が迫っている中、ご興味がある方向けへの開示ができるようにと検討しておりました。しかし図書の内容として発表できる目処も今のところないことから、当ホームページで、パワーポイントで作った内容から転載することで開示することにいたしました。ご参考になれば幸いです。

 なお、日本高気圧環境・潜水医学会において発表した、ダイビングにおける死亡・行方不明者数の推移の問題については、
『第46回日本高気圧環境・潜水医学会学術総会 予稿集』2011 Vol.46 Supplement、日本高気圧環境・潜水医学会、2011年27頁、及び『日本高気圧環境・潜水医学会雑誌』2011 Vol.46 No.4、日本高気圧環境・潜水医学会、2011年、266頁 「レクリエーショナル・スクーバ・ダイビングに関係する死亡・行方不明者数の推移と中高年ダイバーのリスク」 として掲載しておりますので、これ を参照していただければと思います。
 また、日本スポーツ法学会で発表した「ダイビング事故に関わる人数比問題と民間規準の法的問題」の内容は、今年の学会誌に掲載される予定です。


■スクーバダイビング中の地震と津波に関する報告と一考察

     第4回 日本旅行医学会 東京大会
     11月27日(日) 東京医科大学病院 教育棟5階 第一臨床講堂

   市民スポーツ&文化研究所 特別研究員 中田 誠

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 福島沖と神奈川の水中で、実際に東日本大震災を体験したプロダイバーへの聞き取り調査を行った。
なお、水中での地震体感を説明する際の、定義付けられた科学的表現方法がないため、本人が語る擬音を尊重し、その表現を採用して表すこととする。



■福島県沿岸某火力発電所沖

  ▼作業ダイバーが、伊豆の群発地震を体験した時の水中感覚

    「ドン、ぐあん」という感じがして、地震が来たと分かった

  ▼東日本大震災時の時の水中感覚

   1. “ドン”という爆発音がした

   2. 陸上で爆発が起きたと思った

   3.音と揺れがほぼ一緒に来た


■福島県内の別の火力発電所の一ヶ月後
 出典 第4回 日本旅行医学会 東京大会  20111127() 中田 誠
 

曲がったままの港のクレーン

 

                          打ち上げられたままの船

 

■神奈川県真鶴近く。岩港内

  ▼東日本大震災発生時、港内で潜水していたダイバーの体感

    ・4時25分頃から、遠くで“グオングオン”という音がした

    ・それは遠くから大きな船が近づいてくるエンジン音のようだった。やがてその音は、一気に、

                       「グオー、グアングアン」と大きくなった

    ・そして海底全面から細かい泡が吹き出し、周囲がいわゆる“ブアーっとなった”

    海底から0.5m〜1mくらいが濁りだし、海底が見えなくなっていった。その後、引き波に逆らって上陸。このときの引きの力には、一般のダイバーやインストラクターでは対処が困難だろうとのこと。

■岩港内を津波の引き潮に逆らって上陸したルート
  出典 第4回 日本旅行医学会 東京大会  20111127() 中田 誠

■震災地震を水中で体験した両者の共通項

 1.二名のダイバーたちは共に、プロとして経験が1万本以上あり、共に伊豆群発地震を水中で経験。また水中音が地震の発生を意味することを理解していた。(二名とも作業ダイバーとしての経験も豊富。一名は水中暗渠での爆発事故の経験者)

 2.東日本大震災の時には、その彼らでさえ、また震源地から遠く離れた神奈川県の港の中でさえ、水中の音だけでは、それが巨大地震の発生を示す音とは、すぐには気づけなかったほど異質の音であった。

 3.彼ら二名は、「一般のインストラクターは、伊豆の群発地震の時でさえ、地震が起きたことに気づかなかった者が多かった。だから今度の大震災の時には、なおさら気づきにくいだろう。判断の遅れが、彼ら自身やお客のダイバーの生死を左右することになる可能性がある。」との危惧を語っている。

■岩港の海面の状況
  出典 第4回 日本旅行医学会 東京大会  20111127() 中田 誠

  
4時近くに最高潮位となり、その35分後最低潮位となった。

                              
                              午後6時の状況
                              この後も1m近い干満を40分くらいの周期で繰り返した。

 

■海上保安庁の潜水士の水中地震体感   民間ダイバーと海保潜水士との水中での地震感覚の共通性を見る

  ◇海保の潜水士6名の、水中での地震体験時の感覚
   注意)以下の内容は、過去の体験の記憶を語って話していただいたものであり、体験した日時と場所の確認を、必ずしもとっているものではありません。

  ○潜水士の感想

   ・「水中のダイバーは地震を察知したが、艇上の人間は分からなかった」

   ・水中音の感じは、低く重い音、「ゴゴゴゴ」「ドドドド」という感じ。

   ・「水中にいても海底が揺れる感覚を覚えた」

   ▼「おそらく水中は水上よりも地震を感じる程度が高いと思われるが、小さな地震の場合、水中で地震を体験していない者は、地震と認識出来ない可能性がある。」(ダイビング中はいろいろな事に注意が払われ、又自らの呼吸音により、低い音への反応が鈍くなっている可能性がある。)

  ○具体的体験例

   1.熱海沖水深25m前後の水深にて震度3の地震を体験した潜水士は、最初船のエンジン音と思ったが、バディに手先信号で確認し、すぐに地震であると認知した。

   2.東日本大震災後に、福島港内水深10mにおいて捜索中であった潜水士7名全員は、震度4の余震を感じ取り、指示が出なくても浮上できていた。

 

伊豆半島の複数のポイントに見る、ダイバーの滞在状況
   出典 第4回 日本旅行医学会 東京大会  20111127() 中田 誠

■生死を分ける時間と判断

  1.陸上では、地震の発生から避難開始までの時間は、生存者が平均19 分、亡くなった方は平均21 分だった。※「東日本大震災 津波調査(調査結果)」 2011 年9 月8 日(株)ウェザーニューズより

  2.避難開始のきっかけは、大津波警報や津波警報の発表という“情報”を得てからだった。

  3.亡くなった方の5 人に1 人が避難できておらず、避難しなかった理由で多いのは「安全だと思っていた」。

■ダイバーが津波を予見して避難活動を開始するためにとるべき対策の考察

  1.「水中への危険情報の伝達力」の充実、そしてそれを有効たらしめる啓蒙活動

  2.ダイバーの津波認識度の強化と、退避活動への逡巡と軽視の排除

■ダイバーの救命可能性向上私案

  1.水中スピーカーの整備及び携帯用水中音響発生装置をイントラに装備

  2.陸上の避難予定先と海上避難所となるボートに、数日分の食料と水、及び薬品の備蓄

  3.漂流したダイバーの発見を容易にする装備品の携帯

  4.ダイビング前に、地震時の対策オリエンテーションを実施

  5.ダイバーと救難者の減圧症対策ために、陸上避難予定先に、充分な人数分の酸素の備蓄、また無電源で使える加圧装置と圧搾空気を準備
   ※水中を、ひき波に逆らって「必死に」移動することは、たとえ水深が浅くても、通常の潜水に比べて運動量が激増する。これは減圧症のリスクを明らかに高める

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■私案の実現に必要な器材一覧

○岩ダイビングセンターの避難計画(参考)※資料使用許可済

                   

○レーダーシグナルフロート(漂流対策)
    携帯時の大きさと、レーダーで感知できた様子

                    

             
 下田海上保安部伊東マリンパトロールステーション(MPS/事務室)が平成19年2月に作成した「救難信号等の視認状況について 海難救助展示訓練実施結果(2月19日実施静岡県ダイバーズ協議会緊急対処訓練内)」
※MPSより資料使用許可済


○水中スピーカー ※東亜潜水機より写真使用許可

                           ←即効性と確実性

○無電源加圧装置 ※東亜潜水機より写真使用許可済

                         
             電源がなくても、タンクの空気を送り込むことで空気減圧ができる。(ワンマンチェンバー)

○スクーバアラート

                          ※エアリイより写真使用許可済

             BCホースのジョイント部分の間にセットする。水中と水上の両方で使用可(別タイプある)
              ★ただ初心者は、水中でこの音に気付かないこともあるので、事前に水中での認知訓練が必要。

 


 平成24年3月20日
 

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