ダイビングを止める時の勇気についての話


 体調に異常があるときにはダイビングを中止したほうがいいということは、話としてはよくありますね。(講習でも言われると思います)
 しかし、リゾートに遊びに行って、せっかく予約したのに、というときに、体調が悪いからと言って中止する決断はなかなかしにくと思います。
 特に、体験ダイビングなどに行ったときなどは、なおさらそうかもしれませんね。
 ここで、実際に体験ダイビングに行って、体調の不良からダイビングを止めた女性の体験を紹介します。以下は、私がこの方に実際お会いしてお話を伺ったものからです。この話が、これからダイビングをしたい人にとってお役に立てることを願っています。

 A子さんは20代前半のある女性です。彼女は1999年の、日本の夏の終わりから秋の始めの頃にフィリピンのセブ島に旅行に行きました。そして現地のツアーで紹介していた日本人が経営していて、日本語が通じるというダイビングショップに体験ダイビングの申し込みをし、友人と2人で行なうことにしました。
そのショップは、30歳台の日本人が一人と、あとはフィリピンの現地のスタッフというショップでした。
彼女達は、普通のホテルにある、水深160センチくらいの流れるプールで耳抜きの練習とマスククリアの練習をしたあと、別の現地フィリピ人2人の体験ダイビングをする人たちと、計4人でホテルの砂浜のビーチからボートに乗り、ポイントまで移動しました。ボートスタッフは、日本人スタッフが一人と、あと現地のスタッフ1人、そして現地の船長が一人という構成でした。
 ボート上のブリーフィングは特になく、「これから行きます」というような言葉と、「一度もぐったら、また深いところに行きます」という内容の説明があっただけでした。水深の説明やその他の詳しい説明、異常が起きた時の対処法などの説明はなかったそうです。
 A子さんはガイドインストラクターに器材をつけてもらって、バックロールでエントリーしましたが、その時海面の波が高くて怖かったそうです。
 ボートからは水深5メートルくらいの、最初に集合する海底までロープが張ってあり、A子さんは最後に潜水することになりました。
 フィリピン人のスタッフが、A子さんたちと別の現地の2人のうちの一人をサポートしながら潜水し、A子さんは日本人スタッフにサポートされながら潜水を開始しました。
 この日の潜水計画では、最初に5メートルくらいの海底に集合し、そのあと約15メートルくらいになるところに移動するというようなものだったそうです。このことは、A子さんが潜水して、海底の状況を見たのでわかったそうです。
 A子さんは、潜水している途中に、片方の耳が抜けなくなって『くるしい、くるしい』というハンドシグナルを送って、そのスタッフに上にあげてもらいました。そのスタッフは「ゆっくり呼吸すれば大丈夫です」と言っていましたが、A子さんは「いいです」と言い、船に上がってみんなが終わるまで待っていたそうです。
本人は「何かあったら大変なので、体験ダイビング料金のことはどうでもよかった」というようなことを私に語ってくれました。
 A子さんは、普通の人よりは医学的知識があったためか、無理をしなかった、というこでした。
この場合、人数比を含めて、この話を聞いている限りではブリーフィングが詳しくなされなかったことを除けば、特にショップ側に異常な行動はなかったように思われます。
 実際のダイビングの現場では、講習を終えたダイバーであっても、たまたま耳抜きがうまくいかなかった時にそのまま潜水を継続して、それをきっかけにして事故が起きて亡くなった方もいます。しかしこのA子さんの場合は、自分の判断でダイビングを継続することを止めました。
 ここで考えれらることは、確かにガイドの言うとおり、最初うまく耳抜きができなくても、ゆっくりと潜ればうまくいくことも多いと思いますが、体験ダイバーが、水深160センチのプールと違う、足がつかない自然の海の環境で不安感を抱いている時には、やはりこのようなことはリスクが高いのではと思います。この場合は、A子さん本人も自分の決断に納得していましたが、私も、不安感と、体調の不良を抱えたまま潜水を継続しなかった彼女の決断は正しかったと思います。
 この夏、体験ダイビングをする人たちや、まだ経験の少ないダイバーの方々は、このA子さんの決断を、ぜひ参考にしてください。

 なお、A子さんは、当日、特に説明のなかった書類(免責同意書と思われる)に○をつけたと言っていましたが、彼女はこの書類の説明をよく受けた方が良かったのでは、と思います。もっとも本来それはショップ側でするべきですが。


平成12年7月13日  

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