「ずさんの連鎖」


 新聞報道によりますと、今年7月の市営プールで小学生が給水口に吸い込まれて死亡した事故に対する「事故調査委員会」の調査報告書が9月17日に市議会で公表されたということです。

 報告書では事故を「ずさんの連鎖によってもたらされた」として市の管理体制の不備を指摘しています。

 報告書ではさまざまな施設の管理の問題を挙げ、「危険認識が欠如している」としました。また市が管理業務を委託していた業者に対しても「業務を遂行する資質を欠いた業者」として、それを見抜けなかった市の問題も指摘しています。
 この上で、報告書は市の全施設の点検マニュアルを作成することなどを市に提言しているということです。

 報告書からいくつか引用してみましょう。

 

「個々的な問題点のすべてに通底する問題である。」 

「すべての者において「危険認識の希薄さないし欠如」が顕著に見られるということであった。その「危険認識の希薄さないし欠如」が、「管理システムの無策」につながり、事故現場における職業人としてのプロ意識が欠落した「無為無策」につながっていったものではないかと思える。」

「、誰一人として、本件吸水口の危険性について具体的に危機感を抱いていた者もいなかった。具体的な危機意識があれば、これまで検討してきた諸々の問題点の多くは克服されていたに違いない。」

「何が危険であるかについては、過去における痛ましい事故の教訓が生かされなければならない。」

「今回のような痛ましい事故を二度と繰り返さないためにも、すべての過去における事故例をすべての管理者が認識し得るようなシステムづくりが肝要であろう。」

「本事故調査委員会の原因究明に関する調査は、今回の事故が現在、警察で捜査中ということもあり、限られた範囲での調査であったが、結果として「ずさんの連鎖」によりもたらされたものと言わざるを得ない。」

(「ふじみ野市大井プール事故調査報告書」より)

 

 さて、本ホームページの読者の方々は、この状況が、ダイビングビジネスにおける事故の発生の背景とよく似ていることに気づきませんでしょうか。

 こういった報告書では、以前は現場の直接の担当者の過失などを指摘することで止まっていたこともあったかと思いますが、事故の調査とは、その原因究明と再発防止のための策を打ってこそ初めて意味のある者であり、そのためその調査では、事故に至った現場の背景とその根っこの部分を調査して明らかにする必要があります。一次的な直接の関係者への責任追及などは裁判の場で明らかにすることができます。したがったこういった調査のための委員会では、その背景の解明と、事故の再発防止の提言をすべきであると思います。現場の者に対する責任を追及するために行った鑑定書ではないのですから。その面でこの報告は意味のあるものと思います。
 もちろんご遺族に、現場で直接対応していた者さえしっかりしていたら、という、最も身近かつ具体的に認識できる者への強い感情が湧き上がってくるのは無理ではないと思います。しかしそれでもその事故を一次的な不幸な現象とだけにしたいためにも、こういった調査と提言を行う報告書は必要なものです。

 「ずさんの連鎖」。 私もダイビングビジネスにおける同様のことの背景として「負の連鎖である。」という論を展開していますが、同様にこういった事故の背景を表す的確な表現かと思います。

(参考:産経新聞平成18年10月18日 15版 30頁)
(「ふじみ野市大井プール事故調査報告書」平成18年9月 ふじみ野市大井プール事故調査委員会)


平成18年10月23日

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