◎ 6ch全周サラウンドについて
近頃、マルチチャネル(サラウンド)録音は珍しくありません。然し、リアルさが謳い文句であるにも関わらず、実際聞いてみると、天井や床が無い、室内か野外か分らない不自然な再生音である事に気付きました。そこで、`04から、上下のチャネルを追加した6ch全周サラウンドにて上記の解決を試みました。
ここで、問題はその手段です。一般に多チャネルシステムに於いては、
イ) 多チャネルを扱える機材。
ロ) 音源資産を生かす互換性。
ハ)スピーカの配置、及び、干渉。
等の問題がありますが、今回、従来機材も流用可能で、音源資産も多く、イ)、ロ)の欠点を十分補えるであろうマトリクス方式としました。(マトリクス方式であれば、再現も安価・容易であり、今まで、客観的評価も少なく、実験の価値も大きい事も選択した理由です) 尚、マトリクスのエンコード方式は、CBSソニーのSQ4ch方式と山水のQS4ch方式、その他、後方がモノラル(3ch)のドルビー方式、等多様な方式が存在しますが、これらの中で、4スピーカ中央に定位可能、詰まり、拡張する事で、唯一上下音場情報を扱える可能性のある山水方式を6chの伝送方式としました。
今回、QS4ch/SQ4ch/QS6chロジック付きデコーダを製作し、それら方式、及び、ロジック有り無し、を評価しました。
◎
QS4ch/SQ4ch/QS6chロジック付きデコーダに付いて
各方式のエンコード/デコード式は以下。
・QS4ch方式のエンコード式
L = 0.92 * LF + 0.38 * RF + 0.92 * LR * i + 0.38 * RR * i
R = 0.38 * LF + 0.92 * RF − 0.38 * LR * i − 0.92 * RR * i
・QS4ch方式のデコード式
LF = L + 0.414 * R
RF = R + 0.414 * L
LR = −L * i + 0.414 * R * i
RR
= R * i − 0.414 * L * i
・SQ4ch方式のエンコード式
L = LF − 0.707 * LR * i + 0.707 * RR
R = RF − 0.707 * LR + 0.707 * RR * i
・SQ4ch方式のデコード式
LF = L
RF = R
LR = 0.707 * L * i − 0.707 * R
RR = 0.707 * L − 0.707 * R * i
今回のデコード式
LF
= L
RF
= R
LR
= −0.5 * L * ( 1−i ) − 0.5 * R * ( 1+i )
RR
= 0.5 * L * ( 1+i ) + 0.5 * R * ( 1−i )
・QS6ch方式のエンコード式
L = 0.92 * LF + 0.38 * RF + 0.92 * LR * i + 0.38 * RR * i + 0.65 * ( 1+i ) * UP + 0.65 * ( 1−i ) * DN
R = 0.38 * LF + 0.92 * RF − 0.38 * LR * i − 0.92 * RR * i + 0.65 * ( 1−i ) * UP + 0.65 * ( 1+i ) * DN
・QS6ch方式のデコード式
LF
= L + 0.414 * R
RF
= R + 0.414 * L
LR
= −L * i + 0.414 * R
* i
RR
= R * i − 0.414 * L
* i
UP
= −0.707 * L * i + 0.707 * R
DN
= 0.707 * L −
0.707 * R * i
LF
= L +
0.414 * R
RF
= R +
0.414 * L
LR
= −L * i + 0.414 * R * i
RR
= R * i −
0.414 * L * i
UP
= 0.5 * L * ( 1−i ) + 0.5 *
R * ( 1+i )
DN = 0.5 * L * ( 1+i ) +
0.5 * R * ( 1−i )
・マトリクスデコード回路
・SQ4ch方式 : 規格通りデコードすると、位相が非対称となります。 これを防止する為、後方チャネルは 0°と 90°同士ではなく、−45°と+45°同士で演算しました。
・音源方向判別回路
・方向性強調回路
音源は音声です。パンポットで周囲( 0゚、±22.5゚、±45゚、±90゚、±112.5゚、±135゚、180゚
)に定位させた時の音像の聞え方、及び、各方式のレベルとクロストーク、位相(反時計回りが進み)の計算値です。
◎ 4チャネル方式の試聴比較
・ディスクリート方式
前方を向いたままであると、後方は前方に近付いて聞え、左右は全く定位しません。 詰まり、仮令、理想系のディスクリート方式であっても、(人間の能力の限界で)定位位置を正しくは認識できない事が分ります。
ロジックなしの場合、後方音場が更に前方に近付き、真横の音像は前方に移動し、定位(特に後方)が甘くなります。 ディスクリート方式と比べて音場は狭まるにせよ、それと類似した音場・定位となります。 厳密には左右非対称ですが、聴感上は分りません。
ロジックありの場合、主としてコーナーの分離改善が見られました。 然し、後述するSQ方式とは異なり、ロジックなしでも実用的な分離度を有する為、ロジック有無による大きな差はありません。
ロジックなしの場合、規格方式では、位相的に左右非対称故、前方中央の音像は 10゚ 程右方に移動しますが、今回は左右対称を考慮した方式とした為、左右の対称性の改善が見られました。 然し、前後は殆ど分離せず、後方の音像も非常に不明瞭であり、音場の再現性は大変低いと言えます。 又、チャネル間の位相関係が強く、頭の位置を 少し移動すると定位不明となります。
ロジック有りの場合、前後とコーナーの劇的な分離改善が見られました。 前後で、小音量の方がモノラルになるだけなので、前述したQS4chロジック方式より、音像は安定して聞こえます。 但し、音源が単一方向でなく方向判別ができない場合は、分離が大幅に悪化し、楽器配置は殆ど認識できなくなります。 従って、その様に録音された音源の場合、SQ方式では例えロジックを搭載したとしても正しく再生することはできません。
左右対称改善方式に関して、正面は改善できるのですが、左右の前後間の非対称性はこの方式で増大する事が分かり、問題がある事が分かりました。 (正面の元々の非対称性はロジックで緩和できる事もあり) 今後、左右対称改善方式は止める方向で検討したいと思います。
ロジックなしの場合、音源の増加でクロストークが増え、(SQ方式よりは分離は良いが)音場はかなり狭くなりますが、上下音場の効果を得る事ができました。 下側の音は前後が逆相故、定位しません。
ロジックありの場合、コーナーの分離改善、上下の分離の改善が見られました。 下側の音も定位します。 但し、6ch方式は、(真下の−+45度移相と真後の+−90度移相がつながらないので)球体空間に不連続が存在する故、移動する音で切り替えノイズの発生が避けられない基本的問題があるので、今後の対策が必要であり、実用上課題が残りました。
今後の課題、まとめ
今回の実験で、自然な再生音で、且つ、過去の録音素材と互換性が高く、廉価に構築できる多チャネル再生システム実現の糸口が見えました。今後、回路の改良、生録等の実験を積み重ねて、更なる検証を行いたいと考えています。