modoru


――――追伸――――

 藤原さんちのロボキューには悪いことをした。一週間のつもりが一年にもなっちまった。
 ロボ子がロボキューに変装してきたのはこのためでもあったらしい。工場からこっそり持ち出した肉襦袢をさっそく被せ、このロボキューを修復して目を覚まさせた。
 「いいこと、記憶喪失になって町を歩いていたら、親切な人に助けられたって言うのよ」
 「はい、分かりました」
 「おいおい、テレビドラマじゃあるまいし、そんなんでいいのか?」

 後で聞いた話では、藤原さんちには既に代替のロボキューがいて一悶着起こったようだが、結局元のさやに収まったそうだ。
 とりあえず警察沙汰にはならなっかたようなので、まずは一安心だ。


 そんなある日、ロボ子が町へ「ベビー用品を買いに行くからいっしょに来て」と言い出して……正体がバレる恐れがあって俺はイヤだった。
 「まだほとぼりが冷めた訳じゃないんだぞ。もし野上警部に道でばったり会いでもしたらどうする」
 「えっ! ……そ、そんな心配はいらないでしょ。もし会っても、きっと、その……」
 最近ロボ子の様子を見ているとなんだかおかしい。特に野上警部の話題が出るとそうだ。
 「おまえ、何か俺に隠し事、してないか?」
 「隠し事だなんて、な、何も無いわよ……やーねえ、こんなかわいい嫁と子供をいっしょに手に入れて、あなたは日本一の幸せ者なのよ」
 などと言って誤魔化しやがる。

 結局、「何が何でも行く!」を説得できなくて、俺はロボ子とまどかと共に町へ出た。
 出かけたら、通りすがりに、3丁目か4丁目のロボキューがさっそく話しかけてきた。
 「まー、まどかちゃん。大きくなって」
 「そうなの、最近重たくって……」
 「ちょっとまてまて、一ミリたりとも大きくなってないと断言できるぜ」
 「ばかね、赤ちゃんを見たらそう言うのが礼儀なのよ。まったくこのパパは、なんにも分かってないのね。ねーっまどかちゃん」
 「バブバブ、ブー。アー、アー」
 赤ん坊は口を開けて両手をバタバタさせてやがった。
 「あら? おっぱいホチーの? はーい、ちょっとまってね」

 ロボ子は町中にも関わらずそのバストをさらけ出し、赤ん坊の空中をさまよう手に差し向けた。そのはち切れそうな巨乳に、通りすがりのサラリーマンだけじゃなく、俺だってギョッとした。
 「おいおい、人前だぞ……みんながじろじろ見てるぜ」
 「まあ、見られて何が困るの? どうせイヤらしい発想なんでしょうけど」
 その巨大な乳房に赤ん坊が食らいつく。ちゅうちゅうと音を立てて吸ってるのは、乳ではなくてバイオバッテリー。
 小型化の弊害で、この赤ん坊は循環機能に弱点があり、バッテリー液は使い捨てに設計されているそうだ。そのため老廃化したバッテリー液はリサイクルできずに時々おしめを濡らす。それで不足した分を補うために、こうしてロボ子が自らのバッテリー液を与えているのだった。
 「おまえ達……まったくよく出来てるよなあ」
 「あらなによ、人をロボットみたいに言って」
 「……ちぇっ、すっかり母親になりきってら」

 俺の心配は無用だったのか、ロボ子も赤ん坊を抱いていりゃ普通の母親に見えてくる。以前のようにナンパされるような事もない。
 目立ちすぎのロボ子にとって、この赤ん坊はいい隠れ蓑になる。まさか子連れのロボットだなんて誰も想像しないだろうしな。

 それにもう一つ、世間から身を隠す俺も――俺を付け狙うのは、公安と防衛庁とミシビツと、おまけに「シン・シンジケート」まで増えちまったようだが――赤ん坊を抱いたロボ子といっしょなら、どこにでもいる夫婦の風景として町に溶け込めそうだ。

 ……ありがたくって涙が出そうだ。

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