――――決着―――― ギシギシと錆び付いたバネを軋(きし)ませながらベッドから起きあがり、喉がイガらっぽいので二つ三つ咳払いをし、大きな伸びをすると今度は骨が軋む。リビングに移ってそこにある――クッションは柔らかだが所々がほころび始めたソファーに、俺はパジャマだか普段着だか区別の付かない、いつものランニング姿で身を放り投げる。 台所から何かカサカサと音が聞こえる。 俺が目覚めたのは、そこから漂う匂いのせいだ。 「ひでえ匂いだ。……何がどうなってる?」 台所に目をやると、汚れた流し台にハエがたかり異臭を放ってやがる。しかし片づける気も起こらない。 散らかった食器やらゴミくずやらの間に、何かが「すすっ」と動いたから俺は目を凝らした。最初はずいぶんでかいゴキブリだと思ったが、よく見りゃ真っ黒なドブネズミだった。さっきの音はこいつのせいらしい。 確かに汚いが、俺は目が覚めたばかりで、朝っぱらからネズミに対面とはお笑いだ。 「ああ、一人暮らしは楽しいね……」 ソファーにふんぞり返って独り言を言ったって、誰も返事なんか返さない。 この不潔であわれで悲惨でぶざまな俺は誰かって? ……うるせえな。誰だっていいだろ。 ロボ子と別れて、正確には11ヶ月になるだろうか、かれこれ1年近くになる。あれから季節が一回りしやがった。 この1年という期間は長い。いったいロボ子はどうなっちまったんだろうか。 おかげで俺の部屋は汚れ放題、ロボ子がいなくなってからずっと、またカップラーメンとコインランドリーの生活だ。 一度出来上がった生活のリズムに慣れると、なかなか元へは戻れねえ。好むと好まざるに関わらず、そのリズムを作ったのはロボ子だ。 ロボ子よ、早く帰ってこの部屋を片づけてくれ。 俺はそう思う。 いや、そんなことはない。 全くせいせいしたぜ。何だか取り上げられた自由が戻ってきた感じだ。多少部屋は汚れちまったが気ままな生活だ。これぐらいの不都合は目を瞑(つむ)ることができらあ。 それにいつ俺の秘密をバラされるかなんて怯える必要もない。まあ、世界中にまだまだロボキューが残っちゃいるが、とりあえず親玉が無くなってくれりゃあ一安心だ。 俺はそうとも思う。 いいや。 たまった洗い物や洗濯物を目にすると、こんな時は「ロボ子がいてくれたら助かるのになあ」とやっぱり思う。 いたらいたでやかましいしが、でもいなきゃいないで……なんだかんだで…… 男やもめにウジがわく……ってか。 そうだ。 部屋が汚くて困ったならロボキューを買ってくればいいだけのことさ。 明日にでもデパートへ行って買ってこよう。そうすりゃ万事解決だ。 ロボキューは役に立つぞ。ロボ子以上に忠実だし、ロボ子以上に働き者だし、ロボ子以上に正直だから安心だ。それに口答えもしなけりゃ俺を脅したりもしないだろう。 ああ、何でこんな事、もっと早く気づかなかったんだ。 しかしだ。 正直に言うと、ロボキューを買おうというのは、今初めて思いついた訳じゃない。 ロボ子がいなくなってから何度となくデパートへ出かけたが、いざ陳列されたロボキューを眺めると、どいつもこいつも同じ顔で(量産なのだから当たり前だが)購買意欲が消え失せてしまう。 ロボ子がいなくなって困ったのか良かったのかはっきりさせろだと? それに対する答えはだな……すまねえ、俺にも分からない。 実は、誰よりもはっきり決着を付けて欲しいのは俺の方なんだ! ロボ子はまだ生きているのか、死んじまったのか、あれから何の音沙汰もない。ロボ子が待てといった半年は、もうとっくに過ぎているってのにだ。 工場から抜け出せないでいるのか、それとも修理が難航してるのか、それともロボ子が言ったように修理不可能だったのか……。 野上の網が張っていそうで工場には近寄れないし俺に知る術はない。 ああ、ロボ子。いつまで待たせるんだ。生きてるにしろ死んでるにしろ、何か連絡の一つもあったっていいだろう。 白状するよ。 ロボキューを買わなかったのは、ロボ子が帰って来てくれることを期待してのことなんだ。 もしロボ子が帰って来たとき、部屋にロボキューがいたらきっと怒るだろう……そう思ったんだ。 しかしこう、なんにも音沙汰がないと、日に日に諦めのパーセンテージが大きくなってくる。しかし決して期待の方を0パーセントにしようとはしない……俺は、なんて往生際が悪いんだ。 なんてこった、こんな生活じゃあ病気にもなりかねない。 あー、ちきしょう! ……おっと、俺としたことが、うぶな小娘じゃあるまいし、ちょっと感傷的になっちまったかな。 あーいやだいやだ。クールでニヒルで沈着冷静な俺が、どうしちまったんだ。これじゃあ気の抜けたふぬけだ。 こんな思いに、決着を付ける日はやって来るんだろうか? そう思っていたら、そいつは歩いてやって来た。 日も暮れた夜更けに玄関のチャイムを鳴らす久しぶりの来客があった。それは1体のロボキュー。 そいつの仕事はベビーシッターなのだろうか、赤ん坊を抱いたロボキューだった。そんな時間に赤ん坊もいっしょに連れ出すなんてよっぽど慌てていたらしい。 「ロボ子ならいないぜ。お前は……山田さんちのロボキューだったっけ?」 「いいえ、三丁目の小泉さん宅で働いている者です。よく似てると言われますが、山田さんちのロボキューとは、ほくろの位置が違います」 「そいつはすまねえ。俺には見分けが付かなくてな……それで、小泉さんちのロボキューよ、こんな夜分に、いったい何の用だ?」 「はい、実はハントさんに御用があって参りました。今日ここへ来たのは、実はロボ子さんからの伝言を授かってきているのです」 「なに、ロボ子から伝言? ……と言うと、あいつはまだ生きてるのか!」 ロボ子からの伝言と聞いて、俺は少し胸が高鳴っちまった。 「いいえ、残念ながら修理が不可能で、博士もサジを投げ……スクラップになってしまいました」 この時、何かが体内を突き抜けたような、そんな衝撃が俺を襲った。今までに経験したことがない、思いもよらない衝撃だ。そして、寒さでもないし恐怖でもない、全身に震えが始まりやがった。 「ほ……本当か?」 「はい、本当です」 聞くまでもなかった。何しろ相手はロボキューだ。ウソなんか言うはずがない。 ロボ子はこの世から消滅しちまったんだ。あのロボ子がだぜ。 「やっぱりそうか……かなりバラバラだったからな……」 こんなセリフを言ってはみたが、正直、俺の動揺は止まっちゃくれなかった。 こんな時のために備え、色々と心理的な逃げ道を備えていた俺だったが、そんなの役には立たなかった。頼んだってロボ子はもう来ない。そうなると、なんだかさみしい。もう来るなとさえ強がっていた俺だが俺の体は素直で正直だった。 「そりゃせいせいしたぜ」 キザなセリフを吐いたつもりが、無理に作った笑顔は引きつるし、その声も震えて歯がガチガチ音を立てた。 眼球の辺りが妙に熱くなり、今までにないこの感覚に目玉を大きく見開く。すると目玉が乾燥するので慌ててまばたきをした。 おっと、誤解するなよ……まさかこの俺が泣くなんてはずはない。俺はクールでワイルドなアウトローだ。いまさらホットでナイーブでステディーになんか鞍替えする気はない。 「どうしました?」 「何でもねえよ。さっさと用件をすませてくれ」 少し沈んだ俺の顔をそのロボキューは笑顔でのぞき込んできやがる。この時ほどこいつの笑顔がいまいましく感じたことはない。 「……早くしな……伝言とはなんだ!」 「あ、ごめんなさい……失礼しました。そして遅くなって申し訳ありません。何しろ口伝えなもので……そのロボ子さんからの伝言とは、これを読んでください、ということです」 そう言いながらそのロボキューが、持っていた封筒を俺の方に差し出してきた。 「手紙か? 何が書いてあるんだ?」 呆けた俺にロボキューは淡々としたものだった。 「さあ、わたしは読んでいませんから」 「そうか……じゃあ後でゆっくり読まさせてもらうよ。おつかいありがとう。じゃあな」 「ま、待ってください。私達ロボキューにもロボ子さんの死は衝撃です。出来ればロボ子さんの最後のメッセージを聞かせてくれないものでしょうか」 「俺に、この手紙を読めと言うのか?」 「是非お願いします!」 ロボキューの真顔は久しぶりだ。普段のニコニコ顔に慣れてしまって、この滅多に見せない真顔にはただならぬ説得力があった。 「分かったよ……」 吹き出しで「はろー」とか「ないしょ」とか「うにゃ?」とか、その封筒は子猫のイラストがプリントされていた。……まったく子供っぽい趣味だ。 俺はその封を切り中身を取り出した。その二つに折りたたんだ便箋を広げ、ロボキューに読んで聞かせた。 ――親愛なるハントへ。 この手紙は、研究室にいたお手伝いロボキューに代筆してもらいました。こんな形で結果を伝えることになるとは残念でなりません。 その「結果」とは…… 人間に寿命があるように、私の物理的強度にも限界がありました。 あなたも見たでしょ、あの私の無惨な姿を。私は余りにも分解され過ぎました。実はあの時点で、こういう結果になることは薄々気づいてました。 しかし何があってもあなたの所へ帰ろうと思ってました。また一緒に暮らしたいと思っていました。 でも今回ばかりはダメだったようです。 博士をもってしても私の修復は無理だったのです。 研究所の判断で、私はこれからスクラップになる事が決定しました。ミシビツの工場には廃材を粉砕して分別し、工業原料として再利用する設備があります。私はそこで細かく切り刻まれ、そしてリサイクルされます。 そうなればもう元の姿であなたに会うことは出来ません。 だけど悲しまないでください。工業原料にだって大事な役目があります。新たに作られるロボキューの材料として、あるいは電化製品の一部として生まれ変われます。 どこかで私を材料にした製品が、再びあなたと巡り逢えるかも知れません。 あなたとの暮らしは夢のように楽しかった。 もう一度、あなたに会いたかった。そしてもう一度「愛してるよ」って言って欲しかった。 こんな私に1年間も付き合ってくれて、ありがとう。 さようなら…… ―― 喉が乾いてカラカラになっちまった。こんな手紙を朗読して読むのは辛い。 俺はそそくさと便箋をたたみ直して封筒にしまった。 ここだけの話、俺の目にちょっと涙が浮かんだが、眉毛を寄せて眉間にしわを寄せて、なんとか流れ出すのをくい止めた。さぞ変な顔だったろう。 「悲しいですか?」 ロボキューの、そのストレートな質問に俺は答えられなかった。なぜならその時、俺は、もう思い出としてしか会えないロボ子の面影を探し回っていたんだ。 黙りつづけていたら、なおもロボキューは聞いてきやがる。 「ハントさん、あなたはロボ子さんを愛してましたか?」 「……なぜそんなことを聞く?」 「一、ロボキューとして気になります。今の手紙では、もう一度『愛してるよ』と言ってもらう事を望んでいます。私は他のロボキュー達にこの結果を知らせなくてはなりません。ロボ子さんの愛が受け入れられたのかそうではないのか、これは私達ロボットの今後にも影響する重大な問題です……さあお願いです、答えてください」 「……」 「さあ!」 俺はどう答えていいのか分からず黙り込んでいた。再び口を開くまでに、ずいぶん時間がかかっちまった。 「……さあ、どうだろう。俺は今まで愛なんて無縁の世界で生きてきた。勝つか負けるか、生きるか死ぬかの修羅場ばかりだった。だから『あれが愛でこれは愛じゃない』なんて判断は不得意だ。あんまり難しいこと言い出すんじゃねえよ」 「……」 「……だけど、ロボ子といっしょに暮らしていた間は、どうやら世間並みの――普通の生活を送ることが出来たし、なんだか楽しかった。……それは、ロボ子がいなくなって初めて気づいたんだ。正直言って、俺はロボ子が帰ってくるのを心待ちにしていたよ。今となっては叶わないことだが……その俺の気持ちが『愛』だというなら、愛、なんだろうさ」 こんな事を言い出すなんて、俺の思考能力はマヒしていたようだ。こんなクサいセリフが俺の口から出るなんて普通じゃない。 クールな俺としたことが、なんてこった! あのロボットに翻弄され続けて、俺の脳味噌はどうにかなっちまったんだろうか。 その時の俺は、きっと呆けて間抜けな顔をしていたに違いない。 「うふふふふふふ……」 薄気味悪い笑い声が、カオス状態の俺を現実に引き戻した。 笑っているのはどこのどいつだ! ……こんな時に笑い声をあげる不謹慎なやつは誰なんだ? 少なくとも俺自身じゃないのは確かだった。 おや、じゃあ? 対象を探して宙をさまよう俺の目の焦点が、目の前にいるロボキューに止まった。 なんということだ。目の前に立っていた、そのロボキューが笑っていたんだ! 「どうしたおい、小泉さんちのロボキューよ。唐突に笑い出して……おまえも狂っちまったのか?」 ロボキューは、笑いを止めた。そして上目遣いになって、複雑な表情を俺に投げかけやがる。 大量生産のロボキューに、こんな表情が出来たっけ? それは、歪んだ笑みの奥に何だか寂しげな……いや、決してそんなことはない。喜びを感じさせても悲しさは決して感じない表情、即ち……すまねえ、俺に文学的表現は無理だった。なんと言えばいいんだろう? いたずらっ子が泣きながら笑うような、そんな表情だった。 ロボキューは笑いを止めた後、やおら右手を頭の後ろへ回した。頭をなでるように、その手を頭のてっぺんから背骨に向けてスライドさせた。 驚いたのは、そいつの頭が「パカッ」と割れた事じゃなく、そこから出てきた別の顔にだった。 「なんちゃって、じゃーん! また来ちゃった!」 頭を裂いて、中から出た別の顔がしゃべりやがった。その顔は、紛れもない、あの顔だ。 「ロボ子!」 思わず俺は叫んじまった。 そいつはロボ子だった。「ただいまー!」と俺の腕に抱きついてきた。 死んだと思ったロボ子が今、俺にしがみついている。本当にロボットなのか、と今更ながらその精巧さに驚く。 俺にこの子を力強く抱き返したい気が起こったが、訳の分からない理性が働いてやめた。それよりも、ロボ子は肉襦袢ごと勢い良く飛びついてきたので、その体重を押しとどめるだけで精一杯だった。振り回された赤ん坊が泣き出さないのが不思議なほどだった。 「本物か? お前、本当にロボ子か? 幽霊じゃねえよな?」 「ごめんねー、遅くなっちゃったあ」 「その声とその顔……生きてたのか。ははは、そうか、生きてたのか。なんだよ、しぶとく生きてやがったのか!」 「まあ、『しぶとく』とはずいぶんな言い方ね……ホントに危ないところだったのよ。博士がね、あの『先生』の腕はたいしたものだと言ってたわ。分解の仕方を見ればその人の技術力が分かるって」 「悪いヤツだが腕は確かだったと言うことか」 「そうね。無事帰ってこられたのはあの先生の腕が良かったからかしら。わたしはオーバーホールまでしてもらって、グリスも高価なフッ素系に変えてもらったの。おかげで前より体が軽くなったみたい。炊事洗濯もバリバリやるわよ……ああーあ、でも何、この部屋の有様は。まったく散らかり放題ね。あとで片づけるのが大変」 ロボ子は部屋の奥を見回している。 「おい……おまえ、またここに居座るつもりか?」 「あら、迷惑そうな言い方ね……でもいいわ、分かってるの。さっきの様子からして、わたしのいないあいだ、イチジクカンチョーの想いだったんでしょ」 「……ばか、それを言うなら、『一日千秋』だ!」 「あっ……うるさいわね。さっき、涙目になったくせに」 「なっ! なにおう! 俺が女みたいにめそめそするはずがないだろ!」 「今だって潤んでいるわよ」 「これはな、またお前に押し掛けられた、くやし涙だ!」 「んまーっ!」 ああそうさ、そんな憎まれ口を叩きながらも、今度の俺は、笑顔を悟られないようにするので必死だったのさ…… この顛末はロボ子の茶番だった。スクラップになったなんて、俺を騙すための作り話だ。 「びっくりさせようと思って考えたの。再会は感動的な方がいいでしょ」 何言いやがる。おかげで俺はとんだ醜態を見せる羽目になっちまった。俺の今まで築き上げてきたイメージが台無しだ。 このロボットは平気でウソを吐きやがる。ますます人間らしくなってきた。 俺の無様さがおかしくて笑い転げるにちがいない、とロボ子を見たら、しっとりとした面もちで目から水滴を一粒落としやがった。 涙を流すなんて、しばらく会わないうちに新しい機能が追加されちまっている。 「バブーっ」と赤ん坊が一声泣いたから、俺は我に返った。 「ちぇっ、騙された。なんだよ、こんな……俺を騙すためにずいぶんと用意周到じゃねえか」 「でも、ロボキューのかっこうした方が人目に付かずに来れるでしょ」 「手紙まで用意して手が込んでると言ったんだよ」 「迫真の演技だったでしょ」 「それだけじゃねえよ、こんな赤ん坊まで準備しやがって……どこで借りてきたのか知らないが、ちゃんと返してこいよ」 「あら、何をおっしゃいますことやら。……この子はただの赤ん坊じゃないのよ」 ロボ子は涙を拭ってマジマジと俺を見つめた。 「――これからは親子三人、水入らずで楽しく暮らしましょ……あ・な・た」 「『あなた』と呼ぶなとなんべん言やぁ! ……えっ? 親子三人?」 「ねえ聞いて、やっと分かったの。私達に足りないものって……愛があっても、それを証明するものが……いわゆる愛の結晶」 「愛の結晶?」 俺には何の事やら訳の分からないことだらけだ。 「そうよ。それであなたの短気もきっと直るわ」 「短気は生まれつきだから直らねえよ。それで、お前はこの赤ん坊をどうしたんだ?」 「博士にお願いして、作ってもらったの、赤ん坊モデルのプロトタイプ。小型化が難しくて、10ヶ月と10日もかかっちゃった!」 そう言うなりロボ子は俺に赤ん坊を抱かせた。 「さあ、パパですよー。ほーら、抱っこちてもらいなさーい」 「おいおい、この赤ん坊が……ロボットなのか?」 そう言われないと分からないほど、その赤ん坊は赤ん坊そのものだった。 「バブバブバハハ」 「まあ、笑った。良かったねえー、とっても優しいパパで」 「えっ? あ、ああ……ほら、よちよち……」 「バブーっ」 「『まどか』っていうのよ。いい名前でしょ? 博士が名付け親なの」 「ええっ? あ、ああ……」 「バブーっ」 「今までごめんなさい、あなたをもう『あなた』とは呼ばないわ。今日からは……パパ、よ」 「えええっ! あ、ああ……」 なんてこった、また戻ってきたと思ったら今度はこぶ付きか? 冗談にも程がある。ロボ子のやることは治療不可能だ。 そもそも、どうしてこんな小さなロボットを作り出したんだ? 赤ん坊ロボットだなんて、世話が掛かる以外、いったい何の役に立つと言うんだ。 ああ分かってるさ、あの博士ならやりそうなことだ。こんな役立たずの機械を、あの博士なら簡単に作り出しちまうだろう。 まったく、今度博士に会ったなら、どうしてやろう。 ……そうだな。あれもこれも、たっぷりと礼をしなきゃな。 |
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「ROBOCO・P−2」おしまい |