法定後見制度

 法定後見制度は、従来の禁治産・準禁治産制度を、各人の多様な判断能力や保護の必要性の程度に応じて、柔軟かつ弾力的な措置を可能とするために補助(新設)・保佐(準禁治産の改正)・後見(禁治産の改正)に改めた制度である。
 この改正された補助・保佐・後見の制度は、被補助人(補助を受ける人)、被保佐人(保佐を受ける人)、被後見人(後見を受ける人)(以下「成年被後見人等」という。)を支援するために、家庭裁判所が適当と認める者、補助人、保佐人、成年後見人(以下「成年後見人等」という。)を選任して、成年後見人等に権限を付与するもので、法定後見制度と呼ばれる。さらに、必要があると認められる場合には、成年後見人等を監督するために、それぞれ監督人が選任される。

法定後見制度 区    分本人(支援を受ける者)支援者監督人
補助(新設)被補助人補助人補助監督人
保佐(準禁治産の改正) 被保佐人保佐人保佐監督人
後見(禁治産の改正) 成年被後見人成年後見人成年後見監督人

1.補 助
 補助とは、比較的軽度な精神上の障害を持っ人のための制度である。「事理を弁識する能力が不十分な人」を対象とし、従来の制度では保護の対象とならなかった軽度の精神上の障害を有する者を保護の対象とした新しい制度である。本人の重要な財産に影響を与えるような行為について、本人の状況に応じて、補助人に対し同意権及び代理権を付与して保護を図るものである。
(1) 補助の申立て  補助の手続きは、家庭裁判所に対して「補助開始の審判」の申立てにより開始する。補助開始を求めるには、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官(民14条1項)、任意後見受任者、任意後見人、任意後見監督人(任意後見10条2項)が、家庭裁判所に対し申立てを行う必要がある。なお、身寄りのない者については市町村長が申立権者となる(老福32条、知的障害27条の3、精神51条の11の2)。
 ただし、本人以外の者の請求により補助開始の審判を行う場合には本人の同意を必要とする(民14条2項)。
 家庭裁判所は補助人を選任し、当事者が選択した特定の法律行為について、補助人に対し代理権又は同意権(取消権)の一方もしくは双方を付与する(民16条1項、120条1項、876条の9)。
(2) 補助の開始
a. 同意権・取消権
 家庭裁判所は、本人(被補助人)の行為に対し、補助人に民法第12条(保佐人の同意が必要な行為)の事項の中から、申立ての範囲内で、本人の状況に応じて個別的に同意権を付与する(民16条1項)。ただし、日常生活に関する行為は除かれる(民16条1項ただし書)。
 同意権付与の審判がなされると、その特定の法律行為について本人が補助人の同意又はこれに代わる家庭裁判所の許可を得ないで行った場合には、本人及び補助人はこれを取り消すことができる(民16条4項、120条1項)。
b. 代理権
 家庭裁判所は、補助人に、本人が行う特定の法律行為についての代理権を与えることができる(民876条の9 1項)。ただし、この申立ての請求が本人以外である場合、本人の同意が必要となる(民14条2項、民876条の9 2項・876条の4 2項)。代理権の付与される法律行為は民法第12条に規定する事項の範囲内という制限はなく(民876条の9 1項)、財産管理及び身上監護(生活又は療養看護)に関する法律行為(例えば、介護契約、施設入所契約、医療契約の締結等)が含まれる。この代理権が付与される特定の法律行為は、申立ての範囲内で家庭裁判所が本人の状況に応じて個別的に決定するとされている。
 なお、居住用不動産の処分については、家庭裁判所の許可が必要となる(民876条の10・民859条の3)。
(3) 付与の追加及び取消
 補助開始の審判後に代理権又は同意権の追加又は範囲の拡張が必要となったときは、申立てにより、追加的にその付与の審判を求めることができる(民16条1項、876条の9 1項)。
 また、代理権又は同意権の全部又は一部を維持する必要性がなくなったときは、その付与の審判の全部又は一部の取り消しを求めることができる(民17条2項、876条の9 2項・876条の4 3項)。なお、家庭裁判所は、すべての代理権・同意権の付与の審判を取り消すときは、職権で、補助開始の審判を取り消すこととされている(民17条3項)。
(4) 補助の終了
 本人の判断能力の回復により補助開始の原因が止んだとき、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、補助人・補助監督人又は検察官の請求により、補助開始の審判を取り消さなければならない(民17条1項)。なお、判断能力の減退により後見開始又は保佐開始の審判に移行するときは、審判の重複を回避するため、家庭裁判所は職権で補助開始の審判を取り消すこととされている(民18条)。

2.保 佐
 保佐とは、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な者、すなわち精神上の障害(痴呆・知的障害・精神障害等)により判断能力が著しく不十分な者を対象とする制度である。一定の「重要な行為」(民12条1項に掲げる行為)については、支援者(保佐人)の同意を必要とすることにより本人が不利益を受けることを防ごうとするものである。また、必要に応じて代理権を付与することもできる。
(1) 保佐の申立て
 「保佐」の状態が発生した場合、「補助」と同様、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官(民11条)、任意後見受任者、任意後見人、任意後見監督人(任意後見10条2項)、身寄りのないものについては市町村長が申立権者となる(老福32条、知的障害27条の3、精神51条の11の2)。
 なお、本人以外からの保佐の申立ての場合、補助とは異なり本人の同意は不要である。また、保佐の申立てにより鑑定(本人の判断能力の判定)がなされる(家審規30条の2・24条)。  家庭裁判所が本人のために保佐人を選任し(民11条の2、876条の2 1項)、これにより「重要な行為」を行うときは保佐人の同意が必要となり(民12条)、また、上記以外の行為についても、同意権付与の審判を経て、保佐人に同意権を付与することができる(民12条2項)。
 特定の法律行為については、当事者が選択したものについて保佐人に代理権を付与することができる(民876条の4 1項2項)。
(2) 保佐の開始
a. 同意権・取消権
 家庭裁判所は、本人(被保佐人)が民法第12条1項(保佐人の同意が必要な行為)に規定する事項、いわゆる「重要な行為」を行うとき"は保佐人の同意が必要になる(民12条1項)。ただし、日常生活に関する行為は除かれる(民12条だだし書)。
 「重要な行為」として次の事項を規定している。
イ.元本の領収、利用(弁済金の受領、賃貸不動産の返還を受けること、不動産の貸付、預貯金の出し入れなど)
ロ.金銭の借入、保証
ハ.不動産その他の重要な財産(自動車、株式、貴金属、ゴルフ会員権、特許権、著作権等)の売買、担保の設定など
ニ.訴訟行為
ホ.贈与、和解、仲裁契約
へ.相続の承認・放棄、遺産分割
ト.贈与・遺贈の拒絶、負担付贈与・遺贈の受諾
チ.新築、改築、増築、大修繕
リ.長期の賃貸借契約(山林は10年、その他の土地は5年、建物は3年、動産は6か月を超えるもの)をすること
 同意権付与の審判がなされるとその「重要な行為」について、本人が保佐人の同意又はこれに代わる家庭裁判所の許可を得ないで行った場合には、本人及び保佐人はこれを取り消すことができる(民12条4項、120条1項)。
 また、家庭裁判所は、必要があると認めるときは保佐開始の審判の申立権者、保佐人、保佐監督人等の申立てにより、「重要な行為」以外の行為についても保佐人の同意を必要とする内容の審判を経て、保佐人に同意権を付与することができる(民12条2項)。この審判は、保佐開始の審判と同時にすることも、後に追加的にすることもできる(民12条2項)。
b. 代理権
 家庭裁判所は、保佐人に特定の法律行為について代理権を与えることができる(代理権付与の審判)((民876条の4 1項)。この代理権の付与には、本人の同意が必要となる(民876条の4 2項)。代理権の付与される法律行為は民法第12条に規定する事項の範囲内という制限はなく、婚姻や遺言のように本人しかできないもの(一身専属的行為)を除くどのような法律行為についても付与することができる。特定の法律行為は申立ての範囲内で、家庭裁判所が本人の状況に応じて個別的に決定する。
 ただし、居住用不動産の処分は家庭裁判所の許可を必要とする(民876条の5 2項・859条の3)。
(3) 保佐の終了
 本人の判断能力の回復により保佐開始の原因が止んだときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、保佐人・保佐監督人等の請求により、保佐開始の審判を取り消さなければならない(民13条1項)。なお、判断能力の減退又は回復により後見開始又は補助開始の審判に移行するときは、審判の重複を回避するため、家庭裁判所は職権で保佐開始の審判を取り消すこととされている(民18条)。

3.後 見
 後見とは、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況に在る者、すなわち精神上の障害(痴呆・知的障害・精神障害等)により判断能力を全く欠くか、ほとんどない状態にある者を対象とする制度である。
 このような者は、自分の行動の意味や結果を理解できないため、単独で契約などを行った場合不利益を被るおそれがあり、後見人が代わって契約等を行い、本人を保護する制度である。
(1) 後見の申立て
 審判開始の手続きの申立ては、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官(民7条)、任意後見受任者、任意後見人、任意後見監督人(任意後見10条2項)、身寄りのない者については市町村長(老福32条、知的障害27条の3、精神51条の11の2)が申立権者となり行う。なお、後見の申立てにより鑑定(本人の判断能力の判定)が必要となる(家審規24条)。
(2) 後見の開始
 家庭裁判所は、後見開始の審判において、本人(成年被後見人)のために成年後見人を選任する(民8条、843条@)。
 成年後見と未成年後見の区別を明確にするため、「被後見人」を「成年被後見人」と「未成年被後見人」に区別するとともに(民794条)、「後見人」を「成年後見人」と「未成年後見人」に、「後見監督人」を「成年後見監督人」と「未成年後見監督人」に区別している(民10条)。成年後見人には、広範な代理権と取消権が付与される(民859条1項、9条)。
a. 代理権
 成年後見人に対して、本人(成年被後見人)の財産に関する法律行為についての包括的な代理権が付与される(民859 1項)。
 ただし、居住用不動産の処分は家庭裁判所の許可を必要とする(民859条の3)。
b. 取消権
 本人の行った法律行為は、取り消すことができる(民9条)。取消権者は、本人と成年後見人となっている(民120条)。
 ただし、自己決定の尊重の観点から、日用品の購入その他日常生活に関する行為は、取消権の対象から除外されている(民9条ただし書)。
(3) 後見の終了
 本人の判断能力の回復により後見開始の原因が止んだときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人・後見監督人等の請求により、後見開始の審判を取り消さなければならない(民10条)。なお、判断能力の回復により保佐開始又は補助開始の審判に移行するときは、審判の重複を回避するため、家庭裁判所は職権で、後見開始の審判を取り消すこととされている(民18条 2項)。

4.成年後見人等の責務
 成年後見人等は本人の財産に関する法律行為について広範な代理権、同意権又は取消権を付与されその職務を行う。成年後見人等はその権限を本人のために適切に行使しなければならない。
 その職務を行うにあたって本人の意思を尊重し(意思尊重義務)、本人の心身の状況及び生活の状況に配慮しなければならない(身上配慮義務)と定められている(民858条、876条の5 1項、876条の10 1項)。

5.成年後見監督人等
 法定後見制度では、家庭裁判所が必要と認めたときは、成年後見人等の職務を監督する者を選任できる旨の規定を設けた。なお、監督者は個人、法人いずれも可能である。
 この成年後見制度の改正で、これら監督体制の整備が確立されたことは、本制度の利用の信頼性や安全性をより確実なものにすることであり、その基礎を為す監督人の職務は重要な意義を持っている。
 成年後見人には幅広い権限が付与されており、その権限の濫用に対し十分な配慮が必要となる。成年後見人に対しては家庭裁判所が指導、監督を行うが、本人の財産が巨額で、より細やかな監督が必要な場合や、成年後見人に対しての助言等が必要な場合には成年後見監督人を選任することにより(民849条の2)、より安全性が担保される。また、保佐人・補助人も代理権を持つことがあり、その権限が濫用されると本人に損害や危険をもたらすおそれがあることから、保佐、補助にも監督人の制度を設けた(民876条の3、876条の8)。その職務内容は、成年後見監督人と同様である(民876条の3 2項、876条の8 2項)。
(1) 成年後見監督人等の職務
 成年後見監督人等(成年後見監督人、保佐監督人、補助監督人)の職務は次のとおりである(民851条)。
イ.成年後見人等の事務を監督する。
ロ.成年後見人等が死亡等で欠けた場合には、遅滞なく後任者の選任を家庭裁判所に請求する。
ハ.急迫な事情がある場合の成年後見人等に代わって必要な処置をする。
ニ.成年後見人等と本人の利益が相反する場合に本人を代理する(保佐及び補助監督人おいては、保佐人・補助人又はその代表する者と本人との利益が相反する行為について本人がこれをすることに同意する)。
(2) 成年後見監督人等の権限
 上記職務の他に、成年後見監督人等はいつでも成年後見人等の事務に関する報告等を求め、又はその事務若しくは本人の財産の状況を調査することが可能である。また、本人の財産の管理、その他後見等の事務について必要な処分を命ずることを家庭裁判所に請求することができる。
 さらに、監督の過程で不正行為等を知ったときは、成年後見人等の解任を家庭裁判所に請求することができる。

6.報 酬
 成年後見人等及び成年後見監督人等は適切な額の報酬を受けることができる。この場合、家庭裁判所の報酬付与の審判を必要とする(民862条、852条、876条の5 2項、876条の3 2項、876条の10 1項、876条の8 2項)。  また、後見事務を行うのに必要な費用は、本人の財産から支弁することとし、立て替えた費用については本人に請求することができる(民861条2項)。

7.不服申立
 家庭裁判所が出した結論に不服があれば、高等裁判所に不服申立(即時抗告)ができる。法定後見の開始を認めた審判に対しては申立権者が、申立てを却下する審判に対しては申立人がそれぞれ即時抗告をすることができる(2週間以内)。

8.審判前の保全処分
 通常審判手続きは補助で1〜2か月、保佐・後見は鑑定等により通常2〜3か月を要し、また、即時抗告があればさらにその審理の期間が加わる。その間、財産が散逸したり、本人が不利益な契約をして損害を受けることが考えられる。このようなおそれのある場合には「審判前の保全処分」を求めることができる。すなわち、法定後見開始等の審判の申立てがなされた場合において、本人の財産の管理又は本人の監護のための必要があるときは、家庭裁判所は申立人からの申立て又は職権で「財産の管理人」を選任し、あるいは本人の財産の管理、本人の監護に関する事項を指示する保全処分を発令することができる。
 さらに、本人の財産保全のため特に必要があると認めるときには、家庭裁判所は、「財産の管理人」の後見、保佐、補助を受けることを命ずる保全処分(後見命令・保佐命令・補助命令)をすることができる(家審規23条1項2項、30条1項、30条の8 1項)。この保全処分が出されると法定後見開始等の申立ての結論が出るまで臨時に「後見」、「保佐」、「補助」に規定する同意権・取消権が認められる(ただし、補助命令は、同意権付与の申立て範囲内)。

[法律の略号]
 民法 → 民
 任意後見契約に関する法律 → 任意後見
 老人福祉法 → 老福
 知的障害者福祉法 → 知的障害
 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律 → 精神
 家事審判規則 → 家審規

「税理士のための成年後見制度テキスト」 より
発行:日本税理士連合会



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