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   XANADU 『 CATV 常時接続 』 2000/07/01 号
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◆ 今週の出来事
 今週は特集にて書くことが山の様にある(?)ので、お休みします。

◆ 特集 CATV 常時接続
◇ なぜ CATV
 アメリカに比べて、日本の通信事情は特殊だと良く言われます。ただ、良く調
べてみるとヨーロッパもアジアもアフリカもオーストラリアも(南極も)特殊で、
結局アメリカと日本が違うだけという「落ち」もある様な気がします。
 そんな違いの一つに、 CATV の普及があります。去年の秋の時点で日本は 15%
弱、米国は 60% 強だそうで、この違いの原因は良く解らないのですが、うちで
は引いてみました(と、突然個人的な話に突入です)。もう2年ぐらいになりま
すが、とにかく地上波がきれいです。ノイズ無し、ゴースト無しのクリア画面は
SVHS で録画すると、録画とは思えない画質でとれます。そのためニュース以外
の番組を、ほとんど録画で見る日々が続いておりました。
 もちろん地上波以外のチャンネルも面白いのですが、専用番組が作れるほど予
算がないので、どうしても洋画やドラマ/アニメの再放送となります。ミスター
スポックで有名な「スタートレック」ファンの私には魅力的な部分ではあります
が、広く一般受けするのは難しい様に思います。

◇ 常時接続の予感
 そんな折、1年ほど前に私が契約している CATV 会社から「インターネットを
始めませんか?」という広告が来ました。遠く関東でそういうサービスが始まっ
ているとは聞いていましたが、田舎者の私は「どうせ近所に来るまでに何年もか
かり、その頃には ISDN や FTTH(Fiber To The Home = 家庭まで光ケーブルを引
こうという NTT の活動?)が成就しているだろう」と思っていました。が、最近
やっと ISDN 24 時間定額制が始まる様ですが、今更 64K*2=128K では PHS 2台
分ではありませんか。
 が、ご存知の様に私は、普通の 56K モデム+Hi-Ho の3時間 500 円コースで
今までネット生活をエンジョイしてきました。元々テレホーダイは健康に良くな
さそうで敬遠してましたし、 CATV の月額 5000 円を知っていたので、それ以上
電話代にかけるのはアホらしいと思っていた訳です。実際月3時間でもメールの
やり取りは出来ますし、 web ページの更新もメールマガジンの発行も出来まし
た。お買い得の好きな名古屋人としては、「へっ、俺なんか月額ワンコイン(500
円) だもんね」という自負があった訳です。

◇ 決断
 名古屋人の好きな「お買い得」。その魂を悪魔に売ってでも、「 CATV 常時接
続=月額 5000 円」に切り替えた理由は、妻や子供が使い始めたからです。お
買い得の美学をこれから教えなければいけない次世代ですが、今は全然理解して
おりません。そんな連中には何を言っても駄目なので、「この際一人 1250 円ず
つ出し合って、やりたい放題やって良し」という話となりました。もちろん一番
の受益者は私なのですが、当然支払いも私の給与から出て行く訳でして、まあ踏
ん切りがついたかなという感じです。

◇ 施工
 申込書を送ると、10日目ぐらいに工事日となります。それまでに LAN の配
線や部屋の掃除や取りつけ場所の指定を済ませておいたので、当日は妻に任せて
会社に行きました。カミさん曰く「いかにも手馴れた感じの若いお兄さんが来て、
バシバシ設置してったよ」とのこと。小さいながらも一戸建ての我が家ですが、
エアコンの穴が無い私の部屋に引くために、壁に穴をあけてもらいました。その
辺りも手馴れたもので、最近の CATV インターネットの普及を物語る一つの証拠
だなと実感。

◇ 設定
 まあ一応私も「プロ」ですので、アマチュア用に詳しく書かれた説明書をかい
つまみ、自信たっぷりで作業を始めました。が、つながらない。うーーん、とう
なること 30 秒。 HUB を見ると...電源が来てない。掃除のついでにコンセント
回りも一旦引っこ抜いたのですが、それを忘れていた様で...
 かわいいアクシデントはありましたが、その後は極めてスムーズに設定終了。
常時接続が実現してしまったではありませんか...ジーーン(感動の音)。

◇ 使い勝手
 あーー、そのーー、快適の一言であります。私は昔から色々と理屈をつけては
導入/購入を渋ってきたものがあるのですが、そのほとんどは実際に手に入れて
みると「ああ、こんなことなら早くしておけば...」と反省することばかりでし
た。ご多分に漏れず、今回もその一つ。電話料金を全然気にせず、2台の PC で
同時に何をしても良いという、この開放感。今まで諦めていた各種インターネッ
トを「湯水の様に」かつ「高速に」使えるこの贅沢。さすがにこの年になって、
素直な「感動」や「驚き」「わくわく」に縁が薄くなってきた私ですが、初めて
パソコン通信をやったときの「わくわく」の半分ぐらいの感じです(パソコン長
い人には解ってもらえる例えだと思いますが)。
 またまたアメリカでは、「デジタル・デバイド」というのが問題になっている
そうです。何でも所得の差によって、パソコンやインターネットとのかかわりに
差ができ、更に生活水準に差ができてしまうことだそうです。

  http://www.zdnet.co.jp/news/0004/19/clinton.html

 ただ日本の場合は「所得の差」よりも、「本人の接し方」がその差を作ってい
るように思います。以前「週刊 XANATECHS 」時代に、「 IF...」というフィク
ションを書きましたが、それのプロローグに以下の文を書いたのを思い出します。
 昨日までの自分は「ワイヤード」の常連、今日からの自分は「ワイヤード市民」
なのかなと、ふとそんなことを思った私です。

---- ここから -----
  1990 年代後半、「デジタルボーダーライン(境界線)」という言葉が流行し
た。既にホワイトカラーにとって必須アイテムとなりつつあった PC を、各個人
がどの程度使いこなせるかという目に見えない能力区別のボーダーラインである。
2000 年代に入ると、この「線」は個人の能力だけでなく、社会のありさまにも
大きな影響を持つようになった。そのためもっと強い言葉として「電子選民」と
いう表現が登場し、彼らが住む世界は「ワイヤード」と呼ばれるようになった。

  90 年代に問題だった「 PC をちゃんと使いこなせるかどうか」に関しては、
PC 開発側の努力により徐々に改善され、ついには「テレ御指名」等のハイブリ
ッドコンピュータ登場で普通に会話さえできれば、その人のレベルに合った情報
を引き出すことができるようになったため、過去のものとなった。真の問題は、
ワイヤードというネットワーク世界に馴染めるかどうかだった。

 まず、ワイヤードに対して自分から情報を発信できるかどうかが、最初のハー
ドルだった。ただ単にワイヤードを「何でも手に入る便利な場所」としてしか理
解していないと、ワイヤードでは常に「お客様」のままとなる。ふらりと来た観
光客のままでは、その土地の本当にすばらしいところが見えないのと同じで、ワ
イヤードも積極的に「住んで」みないことにはその魅力は味わえない。そしてそ
の市民税は他人とは違う自分だけの「情報の提供」だった。

 また仕事を離れた友人関係にも、このワイヤードの市民同士かどうかで大きな
影響があった。どうしてもワイヤード市民同士の方がさまざまな点でコミュニケ
ーションが容易なので、そうでない友人との間の距離が徐々に大きくなり、結局
はワイヤード市民だけの組織が形成される。これが「電子選民」という言葉の由
来である。別に彼らは非ワイヤードを蔑んでいる訳ではないのだが、差別という
人類の悪癖はいつでもチャンスを狙っているものである。


 次に、意外に思う方も多いかも知れないが、ワイヤードが現実世界とは別の特
別なものと考えている一部の「狂信者」も、ワイヤードの健全な市民とはなり得
ない。結局は媒体が違うだけで現実世界の別の切り口であるワイヤードを絶対視
してしまう人間は、元々現実世界でも社会に馴染めない人なのであり、ワイヤー
ドでも当然円滑に社会活動が営めなかった。ワイヤードは決してコンピュータ知
性が集合した無機質な世界ではなく、ワイヤード市民という生身の人間の集まる
場所なのだ。

 最後に、トラブルを回避する「センス」も必要だ。ワイヤードは当初その世界
のプラスの面に注目した技術的パイオニアが集まったため自然とモラルも高かっ
たが、大衆化するに伴い現実社会の影の面がそのまま投影された。何せワイヤー
ドの中では、警察署の裏にスラム街があるような「空間の制約を超えた」世界な
ので、直接殴られる事はなくても治安が良いとは限らない。「怪しいものが危な
い」のは現実社会と同じだ。

 最終的にこれらの資質を持ち合わせた多くの健全なワイヤード市民は、ワイヤ
ードにワイヤード市民のための秩序を欲した。そしてワイヤードにはワイヤード
のやり方(ワイヤード・ロー)が確立したのである(故意の不正情報公開に対す
る罰則や、ハッキング方法毎の厳密な法律準備等)。いかに現実社会の写像でも
ワイヤードという世界の特殊性は否定しがたく、そこには何らかの現実社会には
不要だった「お約束」が必要だっのである。

 そしてそれを決めるため全員参加の電子投票による電子政府は、数十億人単位
の直接参政という人類初めてのチャレンジで、政治家という職業の存在理由を問
う事になった(その後政治家は調整家(インテグレータ)と形を変えて存続する
ことになったが)。
---- ここまで -----

◆ またまた次週予告
 来週は常時接続から1週間。そろそろ当初の感動も冷め、現実的なものの見方
が出来そうですので、常時接続の暗黒面(?)をご披露しましょう。

◆ お知らせ
  XANADU では随時、ご意見/ご感想/ご寄稿/リクエストを募集中です。
 お気軽に mailto:saito_makoto@hi-ho.ne.jp してください。

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  XANADU (廃刊ザナテックス)
 発行元:会社勤めのしがない職業プログラマ:齋藤 誠
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