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   XANADU 『 Napster の是非』 2000/09/03 号
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  XANADU 読者の皆さん、おはようございます。先週は PC とは全然関係の無い
内容で、申し訳ありませんでした。今週は真面目に、今話題の Napster を取り
上げてみたいと思います。

◆ 今週の出来事
◇ 原潜クルスクその後
 さすがロシア海軍、「責任の取り方」はわきまえてらっしゃる。今後3ヶ所に
潜水艦事故救助施設を作るそうです。解っていても作れなかったのは、予算が苦
しいだけなのか?

◆ 特集 Napster の是非
 一般のマスコミではあまり報道されませんが、 ZDNet(www.zdnet.co.jp)等で
はとてもホットな話題、それが Napster です。 Napster の紹介から、その影響
/将来をまとめてみたいと思います。

◇ Napster に至るまで
  Napster については http://www.napster.com/ を見てもらえば解ります...
と言うのは簡単ですが、それでは記事にならないので、説明します。一言で言う
と「 MP3 のテレクラ」でしょうか(詳しくは後述)?
  mp3 登場後、個人が自分の音楽 CD を mp3 にして、そのファイルを自分の
web ページに張りつけることが流行りました。元の CD には著作権があるので当
然この行為は著作権法違反であり、レコード会社はこれを糾弾して場合によって
は法的手段に出ました。 web ページは公共性が高く、著作権法が認める「私的
な使用」には当たらないとの判断は、まあ当然のことです。

#著作権法第三十条には、以下の表記があります。
第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」
という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において
使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とする場合には、公衆の使用に
供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し、これに
関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製
するときを除き、その使用する者が複製することができる。
  http://www.cric.or.jp/db/article/a1.html

 という訳で、一時たけのこの様ににょきにょきと現れた MP3 サイトは、その
ほとんどがなくなりました。

◇ 何が問題だったのか?
  mp3 というファイル形式が、音楽情報の流通/配布につながって行ったのは
ごく普通の要求ですが、当然そこには著作権法があった訳です。しかし皆さんは
日頃から CD を mp3 にして聞いたり、 MD に録音して聞いてますよね?これら
は前述した「私的使用」と言う範囲で法律的にもOKとなっています。ただ、こ
の「私的使用」の定義はかなり曖昧であり、私のような素人にはどこが境界線な
のか法令を見るだけはなんとも言えません。

 例えば CD を MD に録音した場合、以下の例はどこまでが私的使用なのかはっ
きりしません。

1.自分で CD を買って、自分で聞く MD に録音した -> OK
2.録音した MD を友達に貸した -> OK
3.録音した MD を友達にあげた -> OK?
4.録音した MD を友達と交換した -> OK?
5.録音した MD を友達に売った  -> 違反?
6.録音した MD を友達の友達にあげた -> 違反?

 何せ「家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」に友達は入るのか、単なる
知り合いだったらどうなるか、初めて会った人でも友達になればOKなのか...
何とも曖昧な法律ではありませんか。

 しかもデジタル方式の録音については、以下の第二項があります。

第三十条
2 私的使用を目的として、デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器
(放送の業務のための特別の性能その他の私的使用に通常供されない特別の性能を
有するもの及び録音機能付きの電話機その他の本来の機能に附属する機能として
録音又は録画の機能を有するものを除く。)であつて政令で定めるものにより、
当該機器によるデジタル方式の録音又は録画の用に供される記録媒体であつて政令
で定めるものに録音又は録画を行う者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わ
なければならない。

 デジタル方式で政令で定めるものは、「私的利用」を認めないということです。
該当ページにはこの「政令」へのリンクがないので、 web で探してみると、
http://www.netlaputa.ne.jp/~lala-z/Copyright/Copyright_3.html
 と言うものがありました。これは 1993 年までの「著作権法施行令」が載って
おり、この段階では DAT,DCC,MD が定められている様です。

これに関して JASRAC の FAQ ページには以下の記述があります。

Q6自分が聞くためにCDなどをMDに録音したいのですが、申請は必要ですか。
A 必要ありません。

 著作権法30条では個人で楽しむためであっても、MDなど政令で定められた
デジタル方式の録音、録画については補償金の支払いを義務づけています。
 しかし、私的録音・録画行為を個々に捉えることは事実上困難であることなど
から、著作権法104条の4において、補償金は文化庁長官の指定する管理団体
が、記録機器・媒体の購入時に支払いを請求できることになっています。現在、
私的録音については、私的録音補償金管理協会SARAHが各メーカーの協力の
もと、メーカーから支払いを受け、関係著作権管理団体へ分配しています。
 ですから、個人がデジタル方式の私的録音、私的録画について許可を求める必要
はありません。もちろん、MDに録音して多数の人に配る場合は、私的録音に該当
しませんので、別途、著作権者の許諾をとる必要があります。

  http://www.jasrac.or.jp/jhp/faqf.htm

 早い話が、「 MD レコーダーや MD 媒体の値段に既に補償金が含まれているの
で、構わない」と言うことです。

 これらの法律の「曖昧さ」を突いて、新しい MP3 の配布方法を考えたのが、
Napster の人達です。

◇ Napster のやり方
 まず、 mp3 を作ることが「政令で定められたデジタル方式」なのかという議
論があります。恐らく著作権者側はそうしたいのでしょうが、具体的な媒体が
HDD では補償金を取るわけにも行かず、法令化は難しいと思います。
 次の問題は「私的利用」の範囲についてです。 Napster は「 P2P 」とも呼ば
れる新しい方法論で、 internet 上の「私的利用」を実現しました。それが冒頭
述べた「テレクラ」方式です。

  http://www.zdnet.co.jp/news/0008/25/intel1.html

 直接売春を斡旋すれば違法ですが、「男と女の出会いの場」を提供するだけな
ら問題はない。そういう理屈が「テレクラ」です。 Napster も「 MP3 ファイル
を私的に交換したい」人を集めて、出会いの場を提供したのです。 Napster の
サーバにはユーザ個人の mp3 所有リストのみを集め、その検索サービスのみを
提供するのです。ユーザは自分の mp3 所有リストを提供することにより、その
時点でサーバと接続している他のユーザのリストを検索することが出来ます。自
分が欲しい mp3 ファイルを見つけると、後は直接個人の HDD から自分の HDD
へ mp3 ファイルをコピーするのです。
 ただ、普通に考えると提供する人が出そうにないのですが、そこはクライアン
トソフトが巧みに作ってあります。インストール時に mp3 の拡張子のあるフォ
ルダはデフォルトで公開になりますし、 get したファイルを格納するフォルダ
も同様です(もちろん設定で禁止することも出来ますが)。
 特に get したフォルダの公開は重要で、結局人気のある曲は get した人が多
くなり、そのフォルダを公開することで他の需要にも答える仕組みになっていま
す。

◇ Napster 体験
 実際に私はこの1週間ほど、 Napster を体験してみました。最新曲から現在
入手が困難な曲まで、実に多彩な曲を get できます。

・メリット
 普通には入手が困難な曲が手に入る( ex. 古いアニメの主題歌など)
 最新曲をフルコーラス聞いてみることができる
・デメリット
 個人が MP3 ファイルを作っているため、 MP3 ファイルそのものの質がバラ
 バラで、時には聞くに耐えない録音のものもある。
 所詮 mp3 ファイルであり、 CD との音質の差ははっきりしている

  CATV 常時接続の速度と Napster , CD-R を使えば、無料で自前の CD を作る
ことも可能です。ただ、私は本当に気に入ったアーチストなら CD を買って音楽
活動が続けられる様に応援しますし、ちょっと気に入った程度ならレンタル CD
を借りてしまうでしょう。実際に Napster でダウンロードした曲からアーチス
ト名がわかり CD を買ったものもありますし、「 CD 音質で聞きたい」と思って
レンタル CD を借りたものもあります。
 今、 Napster はレコード会社から訴えられていますが、眠っている音楽需要
を掘り起こす可能性があるのも確かです(少なくとも私は、この1週間で 4000
円近く音楽業界に投資しました  Napster で曲を聴かなかったらそうはならな
かったでしょう)。

◇ おわりに
 さてみなさん、 Napster に興味はありますか?珍しい曲を探したり、新譜を
聞いてみるには便利なシステムですが、訴訟問題からあまり長くは存在しない可
能性もあります。ただ、 P2P 技術そのものはこれからもどんどん発展して行く
と思われますし、その1例である Napster のシステムは技術的には魅力的だと
思います。また Napster 社が訴訟で負けても、恐らく次々と同様のサーバは立
ち上げられ、一度起こった波は止められないとも思います。

 日本語の Napster ガイド web ページは、以下の URL にあります。
  http://jashi.tripod.co.jp/
 一度経験しても良いかも知れません。少なくとも私は勉強になりました。

◆ お知らせ
  XANADU では随時、ご意見/ご感想/ご寄稿/リクエストを募集中です。
 お気軽に mailto:saito_makoto@hi-ho.ne.jp してください。

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  XANADU (廃刊ザナテックス)
 発行元:会社勤めのしがない職業プログラマ:齋藤 誠
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