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「Don't cry」の話


 「泣く子と地頭には勝てぬ」という言葉があるが、人の心理を言い得ていると思う。「泣かない」事はいいこと、という価値観は世界中の文化の中で受け入れられている。これは程度の差はあっても日本も同じ。なにせ子どもに泣かれると何よりもうるさい。

 だから「泣かないでね」とか「Don't cry」とか言う事になる。泣いたらどうにかして泣き止ませようとする。 

 これは私が大学の時に講義で聞いた。英語圏での話。

ある高層アパートの何階からか赤ちゃんが転落した。お母さんはびっくりして急いで赤ちゃんが落ちた所へ行き、すぐ赤ちゃんを抱き上げた。そしたら、赤ちゃんは幸運な事に泣き出した。その時にお母さんの言った言葉が「Don't cry don't cry」だっ た。

 冷静になって考えて見るとその場で泣く事が出来たという事は、赤ちゃんは命を取り留めたというか、少なくとも死んではいなかったのだからお母さんはそれこそ自分が泣いても、赤ちゃんに「泣かないで」と言うのはおかしい訳だ。むしろ「ああ、泣いてて良かった!もっと泣いて!」とでも言うのが「普通」か。でも、お母さんは茫然自失になっていたからこそ無意識の言葉としての「Don't cry don't cry」が出たのだろう。

 「泣かない子が良い子」という価値観で育てられる子は女の子より男の子が多い。でも泣くと言う行為は心の浄化にもつながり、泣くだけ泣いたら次のステップにいける。よく大事な人を亡くした時に、泣ける人は案外立ち直りが早く出来るが、気丈に振る舞って涙を見せなかった人がいつまでもクヨクヨしている、というのを聞いた事がある。故人とのお別れ(浄化)が出来ていないのである。

 悲しい時も嬉しい時も悔しい時も、もっと大人自身が「泣く事」を肯定出来たら人生が楽になるのになあと思う。そうすれば「泣く」ということが日常茶飯事になり、子ども達の「泣き声」もそんなに気にならなくなるのではないかと思ったりする。

 そうなれば、生後2、3ヶ月位から6ヶ月位にかけての「夜泣き」がうるさいと言ってお父さんから怒鳴られるお母さんの悩みも減るかもしれない。え!今はお母さんがお父さんを怒鳴る家庭が多いって?どうも失礼しました。

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