巣立たなきゃいけないのは……? |
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ついに、先日上の息子が独立した。20代半ばはかなり遅い巣立ちである。もっとも時代が違う。風呂なし・トイレ共同の四畳半など今は皆無で、風呂トイレ付きワンルームの賃貸料金は私の時代の3倍だ。出費が高く気の毒な気もするが、いつまでも「お母さんといっしょ」とはいかんから、遅い巣立ちとなった。家から送った荷物はダンボール箱7個。後は現地調達で、家電も揃え、実に快適らしい。但し息子の友人達の中には、軒並み収支のバランスがとれず、家賃が払えなくなり、実家へ戻ったという話も多いのだそうで、自分はそうならないようにきっちりやる、と宣言していたから、おめおめ帰っては来ないつもりらしい。 思えば家事は小学生低学年から教えたので、問題はなさそうだ。逆に困るのは私かもという予想通りで、実際に大変に困っている。気が抜けて家事が面倒になってしまっただけでなく、考えてみたら浴室やトイレも掃除は上の息子の仕事だったからだ。 逆に下の息子は全く気が利かない。同じように育てたけど違った。上の息子のように「打てば響く」「察する」「忖度する」ことはない。「これとこれをどこの店で買ってきて」という具体的な指示をしないとやらない。最も下の息子は船乗りで今は近海勤務だが、長期不在の時期もあるので昔から余り役に立たなかったのだ。
上の息子は「自分がこの家を守る、母ちゃんがいない間は俺が頑張らないと」という意識が強く働いていたようだ。確かに家に帰ればご飯は出来ていたし、掃除も行き届いていたから私は仕事にバイトに専念できた。ありがたい存在だったのだ。 確かにおっしゃる通りでした。事実婚の痕跡は、上と下の息子の姓が違うという形でしか残らず、本当に意味のないものになってしまった。幼い頃から興味本位に、兄弟でなぜ姓が違うのかを聞かれていたらしく、かなりの苦労があったようだ。たまに来る父親が、ほかの父親と色んな意味で違うことやかなり異なる家族の形態に、彼らなりの葛藤もあったらしい。私が自分でやってきたと思っていた、思い込んでいたことは彼らの犠牲の上に成り立っていたようなのだ。気の毒な事をしてしまった。でも、反省はしても後悔はしないけどね。 さて、引っ越して1か月後、上の息子が荷物を取りに来た。「やっぱりな」。一瞥し一言。「え?」「俺が出ていく時に浴室とトイレ掃除したけど、それ以降、あんたやってないだろ?!」 鼻息荒く言葉を続けた。首を垂れるしかなかった。「全く、言わなきゃやらないんだからな。弟もあんたもさ。しっかりしないとゴミ屋敷まっしぐらだぞ! そうなっても知らないからな」。うーん、手厳しい!
(ねこ/『そよ風のように街に出よう』に「聞き耳ずきん」を連載)
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