『離婚した女の目』

981116−990120

『離婚した女の目』

(児童扶養手当を18歳に引き上げる会、1979年)

「美しい明日」のために、
「人格の独立」の条件。「財政独立」。
その経済的課題を、最も基本的な形で示す、典型、基本書として、この本『離婚した女の目』を取り上げる。

この本は、市民運動の団体である同会が、母子家庭の生活実態を明らかにするために、行ったアンケ−トといくつかの「個人史」をまとめたものである。

この本の「はじめに」に、「離婚した女に、所謂『自立の芽』があるのではないか、と期待してアンケ−トの集計を始めたが、返ってきたアンケ−トのほとんどは、ギャンブル、酒乱、暴力、浮気、生活力なし等の、生活崩壊を理由とする離婚であり、浮かび上がってきたのは、劣悪な労働条件、保育条件の中で、仕事、家事、育児に、磨滅していく女の姿であった」とある。
他方「食えない賃金で食い、離婚して良かったと言い切る」「その凄まじいエネルギ−」を伝えるため、書き込みから、「個人史」を取り上げている。

先に、アンケ−トの結果を要約し、個人史からの抜粋を後述する。

<1>《アンケ−トの結果から見えること》

アンケ−トの規格
→ 1977年実施。(1) 新聞投書での呼び掛け (2) 福祉事務所、社会福祉協議会等が離別母子家庭に仲介 (3) 会員が個別に協力依頼、によって集めた。24都道府県の157回答を集計。

〔1〕<離婚>

(1) 離婚理由:「生活力なし45%」「性格不一致42%」「浮気32%」「暴力23%」「賭け事21%」「酒乱17%」「蒸発14%」「事業失敗11%」「婚家折り合い10%」他。理由は複数選択。
所見「所謂、『自由意志による離婚』が増えていると言われるが、生活崩壊によるものが圧倒的。離婚理由には、生活崩壊に至った夫の労働能力喪失理由(経過)の記入が多い。」

(2) 離婚後困ったこと:「貧困22%」「幼い子を連れて働く困難16%」「子供の病気17%」「職が無い8%」「病気入院7%」「子供に離婚理由の説明20%」「近所、親戚との付き合い方8%」他。
所見「育児、労働、家事のサイクルが子供の病気でつまづき、母親の病気で崩壊する。」

(3) 養育費:「無し74%」「有り22%」
理由「生活力なし」「決めたが送ってこない」「係わりたくない」他。

(4) 良かったこと:「精神的に解放された、気苦労が無くなった」「(夫が原因の生活苦から)生活が安定した」「子供が明るくなった」「自分の意志、計画で生活できる」「良かったことなし」。


〔2〕<仕事>

(1) 職種:「事務28%」「現業21%」「店員6%」「サ−ビス業4%」「寮母6%」「自営13%」「内職4%」「公務員10%」他。
所見「正規の職業以外に副業を持っている人がいる(10%)」

(2) 年収:「50〜100 万円30%」「100 〜150 万円25%」「150 〜200 万 17%」「200 〜250 万円10%」「50万円未満6%」「250 〜300 万円1%」「300 万円以上1%」
cf.パ−トで時給 500円(当時)だと、「500円/時間×8時間/日×22日/月×12月=1,056,000円/年収」
cf.生活保護基準(母と子2人)年間約126 万円(当時)
cf.広島県高校新卒公務員(単身者)年収約150 万円(当時1977)
cf.労働省被雇者平均年収約169 万円(女)、約304 万円(男)(当時1977)
所見「年齢と賃金の相関関係が無い、上げ止まる」「勤続年数が長くなっても賃金は変わらない」

(3) 労働時間:「約8.5時間(拘束)」
cf.労働省実労働時間「約7.4時間」(男)(当時1977)
所見「労働時間が同じで、賃金は低い」

(4) 勤務先企業規模:従業員数「未記入41%」「1〜9人22%」「30〜80人14%」「10〜30人1380人以上9%」
所見「賃金の低さは、企業間格差にも規定されている」
cf.労働省「従業員5000人以上の賃金を 100とすると、30〜100 人は63になる」(1977)

(5) 職種(学歴)が賃金を決定する:
所見「現業、店員が低く、事務、公務員が相対的に高く、自営は高低に二分」

(6) 雇用形態が賃金を決定する:
所見「常勤(月給)に比べて、日給、パ−ト、内職が低い」
所見「学歴が職種を規定し、職種が雇用形態を規定し、雇用形態が賃金を規定する」
所見「有給休暇、保険、退職金の有無も職種が規定する」

(7) 困っていること:「仕事がきつい26%」「早出残業夜勤休日出勤20%」「収入が少ない17%」「雇用不安定16%」「人間関係11%」「病気時の保証なし8%」他。
所見「使い捨て労働力であることから生じるもの」「労働、家事、育児を兼ねることから生じるもの」
補足「日給制で病気で休むと収入ゼロ」「身分保障が無い」「安心して定年まで働ける職場がほしい」「定年後の再就職先がほしい」


〔3〕<子供>

(1) 子供に影響を与えたこと:「経済的に不自由17%」「父親の代役ができない15%」「緩衝地帯がない14%」「淋しがる13%」「面倒を見る時間がない10%」他。
補足「保育所の夕方の迎えは仕事中に。子供を家に一人置き会社に戻って仕事。」

(2) 子供が病気のとき:「欠勤21%」「肉親21%」「一人で寝かせる18%」「友人隣人6%」他。
補足「日給のため子供が病気したときでも働かなければならなかった。」


〔4〕<住居>

(1) 転居理由:「住宅条件が悪い25%」「転職19%」「実家へ16%」「母子寮へ14%」他。

(2) 転居希望: 「公営住宅への転居希望が多い」

(3) 畳数、家賃:一人当たり畳数4.3畳 cf.全国平均7.3畳(当時1976)
借家アパ−ト1.5〜2万円、公営住宅5千円〜1万円 cf.住宅扶助(生活保護)上限1.7万円。(当時1977)

<2>《個人史からの抜粋》

この本には、7人の「個人史」が載っている。短く抜粋しようとしたが無理なので止める。略。

<3>《再発見する「何のためにやるか?」》

高度成長期以後の中流意識。世の中の関心は、報道の関心は、政治の関心は、中流以上に集まる。しかし、今(1998)でも、若い人が綺麗なマンションに住んだりするのは、一部の富裕層と、トレンディドラマの中だけ。仮想現実が、一人歩きする。

実際は、密集地域の木賃アパ−トが、いっぱいあるのに。日雇い、パ−ト、町工場、下請けなど、不安定な労働があるのに。
表通りは、つるつる、ピカピカ光り、裏通り、いや、生活の実相が、見えにくくなった。
今、中流意識に浸っていても、それは保障の無い不安定なもの。無くなったと錯覚する貧困は、相対的貧困として続いている。

敢えて、意識して、基本になる経済的課題を、再発見する必要がある。
「財政独立」の内容、重要さを認識することが、<世界史の変革の「究極の目標」である「人格の独立」>への出発点。


戻る