米を食う虫、美しい明日(未定稿)

801200−981108

米を食う虫、美しい明日

〔井上ひさし「表裏源内蛙合戦」所載『表裏源内蛙合戦』新潮文庫1975年(昭和50年)〕

(解説から)「表の源内が理想家肌で、より人間らしい『美しい明日を創りだす』ことを願う存在である のに対し、裏の源内は抜け目ない実利主義者であり、理想主義に対する(中略)否定者である。(中略) 源内は、終生をこの表と裏の共存と葛藤のうちに過ごすのだが、出世の道を絶たれ、浪々の挫折の日々を 送る中では、行動の主導権は常に実利的な裏の源内に移りがちである( 366頁)」。

《米を食う虫》
「(表の源内)下らぬ俳句が一つ出来たのさ。米を食う虫の巣ごもる寒さかな。わかるか、この意味が。 生涯かけて、実にさまざまな仕事をして来たけれど、結局は国のためにもならず、人々のためにもならず、 (中略)何一つ世のため、人のためになった仕事も無く、おれの一生は米を食うだけの虫に終わってしまっ た・・・・・・( 201頁)」。

《社会変革》
「(二人の源内)誰に厭味を言われても、幕府はおれの恋人。誰に皮肉を言われても、権力はおれの友達。 赤ん坊はいつも、小便たれてる。ヨイヨイはいつも、ヨダレをたれてる。不平分子はいつも、ブ−たれてる。 だけど当分革命の、起こりそうな気配は無い。(中略)当て擦りを言われても、出世はこの世の美しい花。 誰に難癖つけられても、権威はおれの朋輩(はらから)。ねずみはいつも、天井裏を駆け回る。野良犬は いつも、野っ原をほっつき回る。不平分子はいつも、革命の気配を嗅ぎ回る。だけど当分変革の、生まれ そうな兆しは無い!( 99 −101 頁)」。

《美しい明日》
「美しい明日を、お前は持っているか。美しい明日を、心の何処かに。尻尾を振りなさい、出世が望み なら。高見の見物もいい、野次馬は傷つかない。悪だくみをなさい、権力が欲しいなら。武器を捨てなさい、 明日が醜くてもいいなら。
美しい明日をみんなは持っているか。美しい明日を、心の何処かに。貧しさを踏みにじり、病を川の中 へ。ゴミタメに太陽を、暗闇に光を。優しさに優しさを、力には力を。武器を取りなさい、明日を美しく したいなら。
お前は生きている、本当に生きている。美しい明日を、美しい明日を、お前が持っているなら、本当に 持っているなら。(204 −206 頁)」。

ここも見てね〔短歌連作〕1995/美しい明日

アンダ−グラウンド工場の灯

<1> 『美しい明日』とは、何だろう。

経済的に豊かであること。であれば、今(1998)の日本は、結構豊かだ。例えば、飢えることは無い。 しかし、物質的な解決で、人は満たされない。それでは、何か?人格の独立、個と個のつながりが良好 である。自然環境が良い。

まず、『美しい明日』の基盤(ベ−ス)について、考えてみよう。
このサイトの〔夢幻/究極の目標〕では、世界史の変革の「究極の目標」は、人格の独立だとした。その 条件、目的として挙げた「財政独立、価値創造、自己実現」のうち、前者を『美しい明日』の経済的な基盤 とすると、次の「価値創造」のうち「個(人)と個(人)のつながり」をもうひとつの基盤とする理由は、 「悪意に満ちた人の間では、まともな精神状態では居られない」からである。更に、幸福衝動を満たすのは、 外界との交渉、即ち、食物、異性、本、談笑、議論、活動、消費したり働き掛けたりする事物などだから である。
cf.〔夢幻/究極の目標/幸福衝動〕


[1] <社会の仕組みの在り方>

(1) <経済的なこと>
(ア) 自分が経済的にやっていけること
例えば『教育以前あいりん小中学校物語』 『離婚した女の目』 など、解決を必要とする状態の基礎に経済的課題がある。
(イ) 誰かを搾取したり、不当に利益を得ていないこと
相対的窮乏(社会内部や会社内部での貧富格差の分化、国と国の間の富の偏り)は搾取に準じる ものであり、搾取される側だけでなく、搾取する側も自由ではない。

(2) <個(人)と個(人)のつながり>
(ア) 理性的判断が、問題を解決すること
予断、偏見に基づかず、イデオロギ−、宗教対立、民族主義、人種差別、身分制・カ−スト、 金、地位など、何ものにも捕らわれない心で、理性に基づいて問題を解決することで、人間は 動物と区別される。
(イ) 社会的貢献、個人の幸福の追求が、他の人の幸福の追求と概ね同じ方向であること対立して いないこと
人の足を踏んで、その痛みを省みないならば、安寧を得ることはできない。

(1)(2) これらのことが、社会の仕組みに反映していること

アンダ−グラウンド『教育以前あいりん小中学校物語』

アンダ−グラウンド『離婚した女の目』


[2] <地球環境>

水質汚濁がないこと、大気汚染がないこと、森林が豊かであること、街路樹、木陰。
最近、緑とはすごいな、と思う。繁った葉で暑さを和らげ(VSヒ−トアイランド)、水分を 保ち、鳥や獣の住まいを提供して。人の心を癒す。
(cf.『もののけ姫』のシシ神、コダマのいる森)

<2> 『美しい明日』は、どうすれば実現するか?

『美しい明日』は、ぼくや貴方が、窒息せずに、この世界で生き延びるために、不可欠な環境だ。 それは、具体的な仕組みの組み合わせの結果として、存在し得る。これらは、『美しい明日』の基盤 であり、つまり条件であり、目的ではなく。その条件を満たすこの世界の中で、何をどうするか? つまり「価値創造、自己実現」をどうするかは、個々の人に委ねられている。そのときは、 「幸福衝動」を満たす事物が、参考になるだろう。


[1] <社会的公正概念の普及>

社会運動(労働組合、市民、学生)、文芸活動を通して、社会的公正概念を普及する。社会的公正 を重んじ、排外主義や差別主義に染まらない、理性的に判断する人を増やす。

この社会的公正概念は、世代から世代に受け継がれる。
例えば、差別意識には、物質的、政策的背景があるが、それを除いたとしても、個人に染み付いた 差別意識は一生変わらない。「剥き出しにするか、理性の力で奥深く押し込めるか」の違いである。 差別意識に染まらない人間は、次の世代に生まれる。

「物理学の法則」はともかく、「社会の仕組み」について言えば、「世界は頭の中から生まれる」。


[2] <選挙制度の改革>

(1) 政治に民意を反映すること、少数意見を反映すること。
即ち、主権者の意志が、速やかに、正確に、選挙結果に反映すること。
現状は、所謂「死に票」によって、民意が歪められている。多数派が、実際以上に、優位に多数の 議席を得る。結果として、少数派が、発言の場(議席)を得られない。世の中の変化、民意の変化を 反映しない、遅れる。政策が、後手に回る。

(2) そこで、比例代表制を基本にする。
例えば、衆議院は、全国1区の比例代表制〔政党代表(ミニ政党や個人を含む)〕、又は、比例代表中選挙区併用制(二票制)にする。

ここも見てね[随想]比例代表中選挙区併用制の検討を!!民意を反映する選挙制度を求める


[3] <具体的施策の例>

まず、「経済的なこと」の施策では、相対的窮乏(社会内部や会社内部での貧富格差の分化、国と 国の間の富の偏り)を緩和し、「誰かを搾取したり、不当に利益を得ていない」社会的公正を確保す ることを目標にする。

(1) <政治活動の透明化>
誰が、誰の利益のために政治活動をしているのか、明らかにする必要がある。
(ア) 議決での、党議拘束を禁止する。もともと、政治は個人の意志の発露である。また 、政党は 仮りの宿である。実質的な議論を確保するためにも、党議拘束を禁止する。
(イ) 政治献金の口座振込、一定額以上の支払いの口座振替を義務づける。

(2) <所得格差の是正>
資本主義、市場経済の下では、所得は、実際の働き以上に、偏り、集中することがある。これは、 能力主義とは似て非なる、搾取に準じるものだ。制度によって、この所得の再分配をする。
(ア) まず、直接税を中心にして、税の累進性を強化する、次に、総合課税をするため、税番号制を 行う。従前から、個人情報保護のため、税番号制は反対されたが、コンピュ−タ−は、既に、普及 し尽くしている。総合課税を逃れて、得をしているのは、富裕層だけだ。
(イ) 給与体系の公表義務。公務員に準じて、公的企業体職員、外郭団体職員及び株式上場の企業に、 「(職層ごとの)給与のあらまし」を公表する義務を負わせる、情報公開請求の対象にする。
(cf.1998.政権党の庇護の下に、失策の責任に黙して、高給に安住する銀行経営幹部や、 自分の天下り先を作るために、国政を曲げ、国庫に損失を与える上級官僚を牽制するため。)

(3) <労働基本法の再確立>
安定した生活の財政基盤を確保できる社会にするには、雇用の安定が不可欠で、そのためには 労働基本法の再確立が不可欠である。
社会的貢献、個人の幸福の追求が、他の人の幸福の追求と概ね同じ方向であることを実現する には、人の足を踏ませないように、しなければならない。社会の仕組みは、協調的である必要が ある。力だけに頼らず、理性に基づいて問題を解決することで、人間は動物と区別される。
「猛獣型資本主義」を、否定しなければならない。

以上、『美しい明日』の実現のために、[1]<社会的公正概念の普及>[2]<選挙制度の改革> [3]<具体的施策の例>を述べてみた。

ここも見てね〔夢幻〕市場経済の選択
ここも見てね〔夢幻〕死と永遠の意識

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