ちょっとためになるお話 〜二酸化炭素の排出量のお話〜

2008年 6月 1日作成


 地球温暖化関連で、二酸化炭素(以下、CO2)の排出量の議論が盛んになっていますね。(今年は洞爺湖サミットもあるし)
 ガソリンや電気の消費に伴って、どれだけのCO2排出量になるか、今後どれだけCO2排出量を減らしていくか、という議論。

 でも、これがどうもピンと来ないのですね。何kgだとか何トンだとか言われても、具体的な物量のイメージがわきません。今CO2をどのぐらい排出しているのか、何をすればCO2をどのぐらい減らせるのか、それが感覚的に実感できません。その最大の理由は、「CO2が重さで表現されている」ことにあるように思えます。

 例えば、ガソリン1リットルで車を走らせると、2.3kgのCO2を放出するそうです。2.3kgと言われても、それがどれだけのものか直感的には分からないし、想像ができません。目に見える2.3kgとしては、水2.3リットルがありますが、本当にこんなに重いの?
 そもそも、ガソリン1リットルって1kg未満のはずなのに(水なら1kgだが、ガソリンは水に浮くので1kgより少し軽い)、空気中の酸素と反応して2.3kg(2.3倍以上!)に増える?
 どうも納得できません。

 ここでは、CO2の「重さ」について考えてみることにしました。



1.CO2排出量計算機

 ↓こんなものがありました。「CO2計算機」です。計算結果は、CO2重量(グラム、キログラム)で出ます。(このCO2計算機は、自由にコピーして使ってよいそうです。出典はこちら
 でも、これでいろいろ計算してみても、何かピンと来ません。

 例えば、電気1kWhあたりのCO2排出量は368gです。
 これを計算するには、まず「電気」ボタンを押し、次に数字キーで「1」を押すと「1kWh」と表示されますので、「=」を押すと「電気1kWh」に相当するCO2量「368g」が表示されます。
 でも、この答えが出てきても、全然ピンと来ませんね。「あっそう」という感じ。

 同じように都市ガス1m3を計算するとCO2が2.1kg。えっ本当?! 空気より軽い都市ガス1m3が燃えて、何で大型ペットボトルのお茶よりも重くなるの?

 また、別な記事(チーム・マイナス6%)によると、日本国民1人あたりの1日のCO2排出量は約6kgだそうです。
 これを体積で表わすと約3m3、直径1.8mほどの球になります。

 直径1.8mの風船なら、手で軽々と持てるし、空中に突いて遊ぶこともできますね。でも、それが重さ6kgだったら、腕を怪我してしまいます。この、重量6kgと直径1.8mの風船とが等価なものだとは、とても思えません。一体どういうことなのでしょうか?

 Googleで「CO2排出量」などで検索しても、CO2の重量と体積の関係を分かりやすく解説したサイトは皆無でした。
 「二酸化炭素の排出量」の表わし方については、もっと直感的にイメージで分かる指標が必要なのだと思います。幅広い国民全体の議論としていくためにも。

 ここでは、直感的に分かりにくい、これらの数値の意味するところを、ちょっと冷静に分析してみます。



2.CO2の排出量の重量表示

 まず、直感的に分かりづらいのが、CO2の排出量の重量表示です。
 ガソリン1リットルは、約1kgですが(水に浮くので1kgより少し軽いと思われる)、これを燃やして2.3kgと言われても、「?」と思うはず。何でこんなに増えるの?

 でも、これは決して間違ってはいないのです。どうしてそうなるのかを、きちんと説明してみましょう。

 高校の化学で習ったことを思い出してみましょう。ガソリンがエンジンの中で燃焼すると、ガソリン中の炭素は空気中の酸素と結合して、二酸化炭素になります。

・ガソリン1リットル中の炭素重量は、0.633kgです。(つまり、ガソリンの重量の約7割は炭素)

・これがCO2になると、炭素(原子量12、すなわち1モル*の重量が12g)1個:12gと、酸素(原子量16、すなわち1モル*の重量が16g)が2個:16×2=32gとが結合したものなので、CO2の重量としては、炭素の重量の44/12倍になって、

   0.633(kg)× 44/12 =2.32(kg)

になる、というわけです。炭素Cが二酸化炭素CO2になると、重量が約3.5倍(=44/12)になるというのがミソです。
(*注)1モルとは、原子量・分子量をグラムに置き換えた量です。物質によらず、一定数の原子・分子を含みます。(この「原子・分子の数」が「アボガドロ数」でしたね!)

 直感的には分かりづらい「CO2の重量」ですが、きちんと論理的に計算してみると、それが正しいことが分かります。

(上記の換算定数は、地球温暖化対策の推進に関する法律施行令に示されている数値を用いました)



3.気体の重量表示と常識の食い違い

 このCO2の重量に一応納得したとして、次に直感できないのが「気体の重量」です。
 1人あたり平均的な1日のCO2排出量6kgが、体積で表わすと約3m3、直径1.8mほどの球になる、ということは正しいのですが、直径1.8mの風船の重さが6kg?!という「体積」と「重量」の関係が、我々の日常の常識とかけ離れているのです。

 ここでまた、高校の化学を思い出さないといけません。
 そこでは、「1モルの理想気体は、標準状態(0℃、1気圧)では同じ体積(22.4リットル)を占める」と習いました。
 ということは、CO2についていえば、CO2の分子量は約44(炭素:12、酸素:16×2=32)なので、44gのCO2の体積は約22.4リットルということになります。従って、CO2の1kgは、約509リットルということになります。

 ここまでは計算上の話なので、まあそんなものかと思えますが、実感として、風呂桶半分(約500リットル=0.5m3)の二酸化炭素が1kgと言われて、直感的に納得できません。たかが空気が、風呂桶半分で1kg?

 そう、空気の重さというものが、直感できないのです。
 でも、冷静に考えれば、水素やヘリウムを入れた気球が、何人かの人間(100kg以上)を浮き上がらせる浮力を持つことを考えれば、その体積の「空気」が実はそれだけの重さを持っていることを意味しているのです。水の中で人間や船が浮かぶように・・・。でも、直感的には「空気=重さゼロ」に思えてしまうので、空気の重量、そしてCO2の重量というものが想像できないということなのです。

 ちなみに、普通の空気が、窒素80%、酸素20%とすると、N2の分子量:14×2=28、O2の分子量:16×2=32とすると、空気の分子量は、28×0.8+32×0.2=23.04。
 標準状態で1モル:22.4リットルであることから、22.4リットルの空気の重量が23.04g。
 従って、空気1m3の重量は1.03kg。空気って、結構重いのです。

 CO2は、分子量からいって、空気よりもさらに重いのです。同じ体積なら、空気23に対して、CO2は44。CO2は空気の倍近い重さで、CO2の1m3の重量は約2kgになります。気体がこんなに重い、ということを直感的にイメージできないことが、CO2の量を想像することを難しくしているわけです。

 まあ、冷静に考えてみると、そういうことのなるのですが、直感的に「CO2の重量」「その重量のCO2の体積」をイメージするのは、日常的な感覚からは、やはり相当に難しいことなのだと思います。

 この辺に、CO2排出量の議論に、そして「エコ」や「省エネルギー」に一般の国民がついて行けない最大の原因があるような気がします。



4.おまけ

 上記のように、CO2の1m3の重量は約2kgということから、たとえば水やガソリンの売買で、買うときはCO2を充満させた容器の中の秤で、売るときは真空中の秤で重さを量ると、ちょっとしたペテンが出来そうですね。(浮力の有無で約0.2%の差が生じるはず)
 こんなトリックを使った推理小説など、どこかにないのでしょうか。



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