歌劇「フィガロの結婚」について

1999年7月20日


 次回第42回の定期演奏会(1999年11月20日)で、モーツァルトの「フィガロの結婚」序曲を演奏します。「フィガロの結婚」と聞くと、ついうきうきしてしまいます。ここでまた、オペラへのお誘いを。

 「フィガロの結婚」は、モーツァルトの代表作です。モーツァルトの「オペラの」代表作というだけではなく。
 モーツァルトの曲を聴いていて思うのですが、「交響曲」はちょっとすましたよそ行きのモーツァルト。優等生らしくてあまり楽しそうではありません。ディヴェルティメントやセレナードあたりが、自分自身も楽しみながら作ったという感じがします。そして、最ものりのりという感じのするのが、オペラです。その中でも、一番思い入れの感じられるのが、この「フィガロの結婚」。

 「フィガロの結婚」は、交響曲でいえば第38番「プラハ」、ピアノ協奏曲なら第24番C-mollと同じ1786年の作曲です。(モーツアルト30歳)
 原作は、1783年にパリで初演されたボーマルシェの戯曲。でも、これは、フランス革命(1789)直前のパリで、貴族をおちょくった内容であったため、ウィーンでは上演禁止になっていました。これを内容を穏当にするとの条件でなんとか許可を得て、台本作者ダ・ポンテとの共同作業で実にいきいきとしたオペラに仕立て上げました。(台本作者ダ・ポンテとは、「ドン・ジョヴァンニ」、「コシ・ファン・トゥッテ」でもコンビを組みます)
 「フィガロ」は、初演が大成功だった割には、ウィーンではライバルたちの陰謀か、あまり上演回数は延びず、逆にプラハでは大ヒットします。ここに出かけたモーツァルトは、大変気を良くして交響曲第38番「プラハ」を作曲することになるわけです。そして、次の歌劇「ドン・ジョヴァンニ」は、プラハで上演するために作曲されます。

 「フィガロの結婚」のあらすじを簡単に書け、と言われても、ちょっと難しい・・・。なんとかたどってみますが、あらすじを追うよりは、各登場人物の性格・感情に合わせたモーツァルトの音楽を楽しむ方がよいので、音楽に直接当たってみて下さい。2、3回聴けば、その楽しさのとりこになること請け合いです。

 舞台はスペインのセヴィリア。(でも台本はイタリア語)「セヴィリアの理髪師」だったフィガロは、伯爵とロジーナの仲立ちの功績から、伯爵の召使いとなっています。「セヴィリアの理髪師」で伯爵の恋の相手であったロジーナが、今や「伯爵夫人」です。そして、フィガロは伯爵夫人の侍女のスザンナとめでたく結婚することになっています。(「セヴィリアの理髪師」は、ロッシーニのオペラが有名で、音友のスコアにも「オペラ化ははるかに遅れて、1815年に」とありますが、これは間違いで、実はパイジェルロという作曲家が1782年にオペラを作曲しています。ロッシーニは、このパイジェルロに対抗して同じ題材をとり上げたもの)

 序曲に続いて第1幕。フィガロが新婚生活に使うベッドを置くための部屋のサイズを測っています。最初からいきいきとした音楽が流れます。ところが、スザンナに気がある伯爵は、封建的特権たる「初夜権」の復活を狙っている、ということで、ドタバタ喜劇が進行します。フィガロが出ていったところへ思春期の少年ケルビーノ(少年なので、女声です)がやってきてスザンナに色目を使う、そこへ伯爵がやってきてケルビーノが隠れたのも知らずスザンナを口説き始める・・・。ケルビーノが見つかって、軍隊行きを命じられる・・・。ここで、フィガロがケルビーノをからかって歌うのが、有名な「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」(花から花へと女性に興味を示すケルビーノを蝶々にたとえて)。

 第2幕は、伯爵夫人の部屋。伯爵夫人は、夫の愛情が自分から遠ざかっていくことを嘆きます。そこで、伯爵の封建的特権復活を阻止しようとするフィガロ・スザンナ連合と手を結び、夫をたしなめることにします。ケルビーノを女装させて伯爵をだまそうということになり、ケルビーノが呼ばれたところで歌うのが、これまた有名な「恋とはどんなものかしら」。(思春期の少年が、「ご婦人方、恋とはどんなものですか。私のこの気持ちは恋でしょうか」と歌う)そこに突然伯爵が・・・。慌ててケルビーノを衣装部屋に隠し、中にいるのはスザンナ、とごまかしますが、伯爵は夫人の浮気を疑います。衣装部屋の扉を開ける道具を取りにいった隙に、ケルビーノはバルコニーから飛び降りて逃げ、ことなきを得ますが・・・。

 第3幕では、スザンナと伯爵夫人が結託して伯爵をだますため、スザンナは伯爵と夜に庭で密会する約束をします。そこには、スザンナに変装した伯爵夫人が、という段取り。そこにまた一騒動。現伯爵夫人ロジーナをまんまと伯爵にとられたかつてのロジーナの後見人バルトロが女中頭マルチェリーナをけしかけ、昔の借金の証文「返済できないときは結婚する」をたてに、フィガロにマルチェリーナと結婚するよう迫ります。伯爵の裁きで、フィガロの負け・・・。ところが、結婚には親の承諾が必要、フィガロは赤ん坊のときに誘拐されて親が分からず、と言ったところ、フィガロは実は昔バルトロとマルチェリーナの間に生まれた子供だった、ということが判明(ここまでドタバタすぎるとちょっと疲れます・・・)。バルトロとマルチェリーナもフィガロ連合側について、いよいよフィガロの結婚式が始まります。結婚式の中で、スザンナは密会を約束した手紙を伯爵に渡します。

 第4幕は夜の庭。フィガロは、スザンナが伯爵を誘い出したのは策略であることを知らず、スザンナが裏切ったと思いこんでいます。そこで、伯爵、フィガロ、伯爵夫人(スザンナに変装)、スザンナ(伯爵夫人に変装)が入り乱れ、フィガロはスザンナの変装に途中で気付いたものの、伯爵は最後まで伯爵夫人の変装に気が付きません。最後は伯爵の浮気が明るみに出て、みんなに平謝り、それをみんなが許してめでたしめでたし、というところで幕となります。

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 モーツァルトの音楽の中でも、とびきりいきいきとしていて、人間の感情の動きや性格をみごとに描写している傑作だと思います。
 3時間ほどかかるので、忙しい現代人にはなかなかまとめて聴くのは難しいかもしれませんが、1幕ずつ(40分程度)でもよいので、是非聴いてみることをお薦めします。



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