横浜フィルハーモニー管弦楽団の次回(第54回)定期演奏会で、フンパーディンク作曲・歌劇「ヘンゼルとグレーテル」前奏曲を取り上げます。この曲、歌劇の全曲についてトリビアをいくつか。
フンパーディンクは、この歌劇「ヘンゼルとグレーテル」1曲で名を残している作曲家です。
1.オペラのあらすじ
第1幕:ヘンゼルとグレーテルの家
第2幕:森の中
第3幕:魔女のお菓子の家
2.序曲の構成
まず最初に現われるホルン四重奏は、第2幕でヘンゼルとグレーテルが眠りに落ちるときに歌う「祈りの歌」。歌の中に「14人の天使」が出てくるので、このテーマは「天使」を象徴しているようです。
「H」からは、これらのテーマが複雑に組み合わされながら進展します。(少しゴテゴテと組み合わせ過ぎ、という感じがしますが・・・)
そして、「K」からの経過部分を経て、「M」が「喜びの主題」によるクライマックス。ここは、第3幕で「魔法を解く主題」で解放された子供たちが、喜びいっぱいで歌う場面そのものです。
3.お薦めCD、DVD
(1)DVD
全曲盤DVDは2種類しか出ていないようですが、
フンパーディンク:歌劇《ヘンゼルとグレーテル》 フランツ・ヴェルザー=メスト指揮/チューリヒ歌劇場(¥5,040)Amazon
が原語のドイツ語での全曲盤で、お薦めです。
フンパーディンク:歌劇《ヘンゼルとグレーテル》 ショルティ/ウィーン・フィル(日本語字幕)(¥5,135)もお薦めです。
これ以外に、メトロポリタン歌劇場のDVDも出ていますが、こちらは英語上演盤です。(私はこちらのLDを持っています。知らずに買ったら英語版だったのでがっかりしました。)
(2)CD
CDはいくつか出ていますが、
フンパーディンク : 歌劇 「ヘンゼルとグレーテル」全曲(2枚組) コリン・ディヴィス指揮/ドレスデン国立管弦楽団(国内盤) ¥2,366
がよいようです。
フンパーディンク : 歌劇 「ヘンゼルとグレーテル」 クリュイタンス指揮/ウィーン・フィル ¥4,842
また、テノールのペーター・シュライヤーが魔法使いのおばあさん役を歌っていた、
スウィトナー指揮/ドレスデン国立歌劇場盤も、輸入盤ならCDが出ていました。
4.「魔法オペラ」について
「ヘンゼルとグレーテル」は、「魔法オペラ」の一つと言われています。「魔法オペラ」の正しい定義は知りませんが、ドイツ語で上演されるオペラで、魔法を取り扱ったやメルヘンチックな内容のものを指すようです。
5.おまけ:「ヘンゼルとグレーテル」のスコア
ドーヴァー版でオペラ全曲のスコアが出ています。
Hansel and Gretel: In Full Score(Engelbert Humperdinck) ¥1,917 (U.S. 定価: $19.95 )
でも、このオペラは、ドイツ語圏の歌劇場では、クリスマスシーズンに子供向けに上演されることが多く、上演回数からは結構上位にランクされるオペラのようです。
ドイツでは、クリスマスシーズンになると、お坊っちゃま、お嬢ちゃまが着飾って、親に連れられてオペラ・デビュー、バレエ・デビューに出かけます。オペラ・デビューはこの「ヘンゼルとグレーテル」、バレエ・デビューはチャイコフスキーの「くるみ割り人形」であることが多いようです。
ご存知のとおり、グリム童話のお話です。もともとのグリム童話は、「子捨て」の物語ですが、それではあまりに悲惨なので、オペラでは、子供達はお母さんの言いつけで森に食べ物を探しに行き、お母さんは森に魔女が住んでいることを知らなかった、という設定。
序曲が終わり、幕が上がると、そこはほうき作りのペーターの家。ペーターの子供のヘンゼル(兄)とグレーテル(妹)の兄弟は、留守番をしています。2人は家の手伝いをしてるはずなのですが、お腹がすいてたまらないので、忘れるために踊ります。
そこに母親が帰ってきて、手伝いをせず遊んでいた子供に腹を立て、ミルクの壷を割ってしまいます。母親は、食べるものがなくなり、ヒステリーを起こして、子供たちに森で野いちごを摘んで来るよう追い出します。
お母さんが貧乏を嘆いていると、ほうきが売れて上機嫌の父親が帰ってきます。子供達がいないことに気付き、森へ行ったと聞くと、「あそこには魔女が住んでいる」と大慌て。森に子供たちを捜しに出かけます。
前奏曲は、森に住む魔女がほうきにまたがって空中を飛び回る「魔女の騎行」(もちろん、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」のパロディー)。
森の中で、ヘンゼルとグレーテルは野イチゴを摘んで、草の冠を編んだりして遊んでいます。
遊びながら摘んだイチゴを食べ、気付くと全部なくなっています。あたりは暗くなってきて、大声で助けを呼ぶと、帰ってくるのはこだまばかり・・・(こだまは、森の妖精のいたずら・・・。この辺から第3幕最初の「暁の精」あたりまでは、とってもメルヘンチックな場面です)。
眠りの精が登場し、眠りの砂をふりかけます。ヘンゼルとグレーテルは眠くなり、祈りの歌を歌います(これが、序曲の冒頭のホルン四重奏のテーマ)。
ヘンゼルとグレーテルが眠ったあと、舞台の上では天使たちのパントマイム。音楽は、これまた序曲冒頭の祈りの歌(このテーマは「天使」のライトモチーフらしい)。
眠っている2人を、暁の精が露をふりかけて起こします。
2人が夢で見た天使の話をしていると、森の中にお菓子の家が現われます。
2人が、お菓子の家をかじると、「カリカリと家を食べるのは誰?」という声が聞こえます。2人は「風さ」といって食べ続けると、魔女が忍び寄ってきて捕らえられてしまいます。
魔女は、ヘンゼルは太らせてから食べることにして、まずグレーテルをかまどで焼いて食べることにします。グレーテルにかまどを覗き込むように命じると、グレーテルは機転を利かせて「やり方がわからない」といって魔女にやり方を聞きます。魔女が「こうするんだよ」とかまどを覗き込んだときに、2人は魔女をかまどに押し込んで扉を閉めてしまいます。
魔女を閉じ込めたかまどが破裂し、魔女に魔法をかけられていた子供たちが現われます。そこに2人を探していた両親も現われ、神への感謝の合唱で幕となります。
このオペラの序曲は、オペラの中に使われている素材をつなぎ合わせて作られています。
フンパーディンクは、ワーグナーの弟子みたいなものですので、これらの素材は「ライトモティーフ」(人物、感情、情景などを象徴するテーマ)の形でオペラの中に現われます。
次に練習番号「D」が、第3幕に出てくる「魔法を解く主題」。これは、第3幕の最後で、魔女に魔法をかけられていた子供たちを、魔法から解放したときに鳴り響きます。
続いて、「F」から弦楽器で演奏されるのが第3幕の「朝の主題」。暁の精の歌、そのあと目覚めたグレーテルの歌の中に登場します。
「G」が魔法を解かれた子供たちの「喜びの主題」。第3幕で、「魔法を解く主題」で解放された子供たちが、喜びいっぱいで歌います。
例えば、「H」は弦楽器が「朝の主題」、木管が「喜びの主題」、ホルンに「魔法を解く主題」。
「J」は「祈りの主題」の合いの手に、木管の「喜びの主題」とホルンの「魔法を解く主題」。
「Q」から「祈りの主題」によるコーダで、静かに消えていきます。この部分は、第2幕最後の天使たちのパントマイムの終わりの部分とほぼ同じです。
歌劇「ヘンゼルとグレーテル」は、オペラです。ということで、オペラ全曲版のお薦めCDとDVDを。
フンパーディンク:歌劇《ヘンゼルとグレーテル》 フランツ・ヴェルザー=メスト指揮/チューリヒ歌劇場(¥5,040)HMV
1998年のチューリヒ歌劇場の公演ライブ盤で、開演前の客席の子供たちの映像も入っていて、子供向けのオペラであることを強調しています。演出も、多分に子供に飽きさせない工夫がされており、「お菓子の家」はなかなかきれいで楽しい。
日本語字幕が不要なら、
ショルティ/ウィーン・フィル(輸入盤:¥3,063)というのもあります。(内容は国内盤と同じ)
もあります。
代表的なものに、モーツアルト「魔笛」、ウェーバー「魔弾の射手」、そしてこの「ヘンゼルとグレーテル」があります。内容的には、ヴァーグナーの「ニーベルンクの指輪」のうち「ジークフリート」あたりもこの範疇に入りそうですが、どんなものなのでしょうか(ジークフリートの角笛や、大蛇を退治したあとの血をなめると小鳥の言葉が分かるようになる、といったあたり)。
序曲だけのスコアは、国内版では日本楽譜出版社から出ています。(\525。残念ながらAmazonでは取り扱っていないようです)