横浜フィルハーモニー管弦楽団の次回(第79回)定期演奏会で、フンパーディンク作曲・歌劇「ヘンゼルとグレーテル」前奏曲を取り上げます。この曲、歌劇の全曲についての無駄情報をいくつか。
エンゲルベルト・フンパーディンク(1854〜1921)は、この歌劇「ヘンゼルとグレーテル」1曲で名を残している作曲家です。
なお、第79回定期演奏会では、リヒャルト・シュトラウス作曲・交響詩「ドン・ファン」も演奏しますが、この歌劇「ヘンゼルとグレーテル」はリヒャルト・シュトラウスの指揮によって、1893年にヴァイマール歌劇場で初演されています。
1.オペラのあらすじ
第1幕:ヘンゼルとグレーテルの家
第2幕:森の中
第3幕:魔女のお菓子の家
2.序曲の構成
まず最初に現われるホルン四重奏は、第2幕でヘンゼルとグレーテルが眠る前のお祈りで歌う「祈りの歌」。歌の中に「14人の天使」が出てくるので、このテーマは「天使」を象徴しています。
「H」からは、これらのテーマが複雑に組み合わされながら進展します。(少しゴテゴテと組み合わせ過ぎ、という感じがしますが・・・)
そして、「K」からの経過部分を経て、「M」が「喜びの主題」によるクライマックス。ここは、第3幕で「魔法を解く呪文」で解放された子供たちが、喜びいっぱいで歌う場面そのものです。
3.お薦めDVD
全曲盤DVDは下記のものが現役で出ているようです。
フンパーディンク:歌劇《ヘンゼルとグレーテル》 ティーレマン指揮/ウィーン国立歌劇場(¥3,530)
フンパーディンク:歌劇《ヘンゼルとグレーテル》 ショルティ/ウィーン・フィル(¥3,193)
1981年のテレビ用の映像で、昔から定評のある名盤です。
とりあえず YouTube ではこの映像が見られますが日本語訳は出ません。(英語の訳は出ますので意味はとれると思います)
フンパーディンク:歌劇《ヘンゼルとグレーテル》 大野和士/グラインドボーン音楽祭(¥5,215)
フンパーディンク:歌劇《ヘンゼルとグレーテル》 コリン・ディヴィス/コヴェントガーデン王立歌劇場(¥4,562)
これ以外にメトロポリタン歌劇場のDVDも出ていますが、こちらはアメリカのお子ちゃま向けの英語上演盤です。
4.「魔法オペラ」について
「ヘンゼルとグレーテル」は、「魔法オペラ」の一つと言われています。「魔法オペラ」の正しい定義は知りませんが、ドイツ語で上演されるオペラで、魔法を取り扱ったやメルヘンチックな内容のものを指すようです。
でも、このオペラは、ドイツ語圏の歌劇場では、クリスマスシーズンに子供向けに上演されることが多く、上演回数からは結構上位にランクされるオペラのようです。
ドイツでは、クリスマスシーズンになると、お坊っちゃま、お嬢ちゃまが着飾って、親に連れられてオペラ・デビュー、バレエ・デビューに出かけます。オペラ・デビューはこの「ヘンゼルとグレーテル」、バレエ・デビューはチャイコフスキーの「くるみ割り人形」であることが多いようです。
ご存知のとおり、グリム童話のお話です。もともとのグリム童話は、「子捨て」の物語ですが、それではあまりに悲惨なので、オペラでは、子供達はお母さんの言いつけで森に食べ物を探しに行き、お母さんは森に魔女が住んでいることを知らなかった、という設定。
序曲が終わり、幕が上がると、そこは貧しいほうき作りのペーターの家。ペーターの子供のヘンゼル(兄)とグレーテル(妹)は、留守番をしています。2人は家の仕事の手伝いを言いつけられているのですが、お腹がすいてたまらないので忘れるために踊ります。
そこに母親が帰ってきて、仕事もせず遊んでいた子供に腹を立て、ミルクの壷を割ってしまいます。母親は、食べるものがなくなったことでヒステリーを起こし、子供たちに森で野いちごを摘んで来るよう命じて追い出します。
母親が貧乏を嘆いていると、町でほうきが売れて上機嫌の父親が帰ってきます。子供達がいないことに気付き、森へ行ったと聞くと、「あそこには魔女が住んでいる」と大慌て。森に子供たちを捜しに出かけます。
前奏曲は、森に住む魔女がほうきにまたがって空中を飛び回る「魔女の騎行」(もちろん、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」のパロディー)。
森の中で、ヘンゼルとグレーテルは野イチゴを摘んで、草の冠を編んだりして遊んでいます。(ここで歌われるメロディーは、テレビで流れているどこかの音楽教室のテーマ)
遊びながら摘んだイチゴを食べ、気付くと全部なくなっています。あたりは暗くなってきて、大声で助けを呼ぶと、帰ってくるのはこだまばかり・・・(こだまは、森の妖精のいたずら・・・。この辺から第3幕最初の「暁の精」あたりまでは、とってもメルヘンチックな場面です)。
眠りの精が登場し、眠りの砂をふりかけます。ヘンゼルとグレーテルは眠くなり、祈りの歌を歌います(これが、序曲の冒頭のホルン四重奏のテーマ)。
ヘンゼルとグレーテルが眠ったあと、舞台の上では天使たちのパントマイム。音楽は、これまた序曲冒頭の祈りの歌(このテーマは「天使」のライトモチーフ)。
森の中で眠っている2人に朝が訪れ、暁の精が露をふりかけて起こします。
2人が夢で見た天使の話をしていると、森の中にお菓子の家が現われます。
2人が、お菓子の家をかじると、「カリカリと家を食べるのは誰?」という声が聞こえます。2人は「風さ」といって食べ続けると、魔女が忍び寄ってきて捕らえられてしまいます。
魔女は、ヘンゼルは太らせてから食べることにして、まずグレーテルをかまどで焼いて食べることにします。グレーテルにかまどを覗き込むように命じると、グレーテルは機転を利かせて「やり方がわからない」といって魔女にやり方を聞きます。魔女が「こうするんだよ」とかまどを覗き込んだときに、2人は魔女をかまどに押し込んで扉を閉めてしまいます。
魔女を閉じ込めたかまどが破裂し、魔女に魔法をかけられていた子供たちが現われます。そこに2人を探していた両親も現われ、神への感謝の合唱で幕となります。
このオペラの序曲は、オペラの中に使われている素材をつなぎ合わせて作られています。
フンパーディンクは、ワーグナーの弟子みたいなものですので、これらの素材は「ライトモティーフ」(人物、感情、情景などを象徴するテーマ)の形でオペラの中に現われます。
次に練習番号「D」が、第3幕に出てくる「魔法を解く呪文」。これは、第3幕の最後で、魔女に魔法をかけられてお菓子の家に閉じこめられていた子供たちを、魔法を解いて解放したときに鳴り響きます。
続いて、「F」から弦楽器で演奏されるのが第3幕の「朝の主題」。暁の精の歌、そのあと目覚めたグレーテルの歌の中に登場します。
「G」が魔法を解かれた子供たちの「喜びの主題」。第3幕で、魔法から解放された子供たちが、喜びいっぱいで歌います。
例えば、「H」は弦楽器が「朝の主題」、木管が「喜びの主題」、ホルンに「魔法を解く呪文」。
「J」は「祈りの歌」の合いの手に、木管の「喜びの主題」とホルンの「魔法を解く呪文」。
「Q」から「祈りの歌」によるコーダで、静かに消えていきます。この部分は、第2幕最後の天使たちのパントマイムの終わりの部分とほぼ同じです。
歌劇「ヘンゼルとグレーテル」はオペラです。ということで、オペラ全曲版のお薦めDVDを。
2015年11月のライブ収録の全曲盤です。
ヘンゼルのブリギッテ・ファスベンダーもグレーテルのグルベローヴァも若い!
YouTube の歌劇「ヘンゼルとグレーテル」全曲 /ショルティ/ウィーン・フィル
2008年のグラインドボーン音楽祭のライブ収録です。
2008年のコヴェントガーデン王立歌劇場でのライブ収録です。
代表的なものに、モーツアルト「魔笛」、ウェーバー「魔弾の射手」、そしてこの「ヘンゼルとグレーテル」があります。内容的には、ヴァーグナーの「ニーベルンクの指輪」のうち「ジークフリート」あたりもこの範疇に入りそうですが、どんなものなのでしょうか(ジークフリートの角笛や、大蛇を退治したあとの血をなめると小鳥の言葉が分かるようになる、といったあたり)。