アナログなものたち 〜その1・万年筆〜

初版作成:2008年 7月 1日


 世の中がディジタルで万能・便利になると、逆にアナログで専用用途以外には使えない不器用なものへの愛着といとおしさを感じます。それに加え、私が本性として持っている貧乏性、もったいない精神が加わり、昔から身の回りにあって、今はほとんど使わなくなったものを、再び使ってみようかという気になる今日この頃です。

 そう思って見回したら、身の回りにこわれて使わなくなっていた万年筆がありました。



 今を去ること25年以上前、初めてドイツに出張に行った折、同行した先輩から強く勧められて買ったモンブランの万年筆です。「一生ものだから、若いうちに買って長く使えば元が取れる」というような売り言葉に、その気になってしまった記憶があります。買って以来、回数は少ないながら手紙や年賀状を書くときにずっと使っていましたが、5、6年前ボディにひびが入って、それ以来使わなくなっていました。
 万年筆は、なければないで、ボールペンや使い捨て方式のインク式ペン(使い捨て万年筆と呼ぶと自己矛盾か)を使えば事足りるので、特に不便は感じていませんでした。

 そんな中、自筆で字を書くことが少なくなったことへの反省と、レトロ&アナログなものに懐かしさを感じて、再び万年筆でも使ってみようかと思い立ちました。いろいろと物色していたら、インターネット上でモンブランは一生使えるものなので修理して使え、という話に出会いました。昔の先輩の勧め言葉を思い出し、思わず顔をもたげた「もったいない」精神に加え、「にわかモンブラン使いではない」とのプライドも手伝って、壊れたものを修理してみることにしました。

 モンブランの万年筆の修理は、モンブランを扱っている文房具店ならほとんどのところで取り次いでくれるようですが、さいわい横浜にはモンブランの直営ショップ(ブティックと呼ぶそうです)があり、そこで修理を頼めば確実なので、現物を持って行ってみました。場所は、横浜駅東口そごう横浜店の2階。
 修理代を「標準」で見積ってもらい、それ以外の要因があった場合の修理代最高許容額を確認され、それを越す場合は電話で相談するとのこと(補修内容によって、国内で修理するかドイツに送り返すか決めるらしい)。はっきり言って、修理代は国産高級万年筆の新品が手に入る程度の額になります・・・。でも、モンブランの新品を買うよりは安い・・・。
 ということで、修理以外にあちこち調整やら清掃をしてもらって、しっかりと許容額いっぱいまで使ってリフレッシュをしていただけました。

 私の持っているモンブランは、買うときにそれほど知識も思いいれもなかったので、「マイスターシュトゥック」の中で小さい方のものを買いました。今のモデルにピッタリ同じものはないようですが、調べてみたら現在は廃型となっている「マイスターシュテュック 144」というモデルでした。

マイスターシュテュック 144 私の所有している マイスターシュテュック 144 (現在は廃型)



 現行のモデルの中では「マイスターシュテュック114 モーツァルト」(オマージュ・ア・W.A.モーツァルト)というモデルが一番近いようなのですが、このモデルは「システム手帳用」を謳っていて少し小さいようです。

モンブラン モーツァルト マイスターシュテュック 114 モーツァルト



 大きさとしては「マイスターシュテュック クラシック 145 ショパン」(オマージュ・ア・フレデリック・ショパン)というモデルに近いようですが、このモデルのキャップは「ねじ込み式」らしいので、ばねで「差し込み式」の私のものとは方式が違います。

マイスターシュテュック クラシック 145 ショパン マイスターシュテュック クラシック 145 ショパン



 そう、ここまででお気づきのように、モンブランには音楽家にちなんだモデル名が多いのです。別に、写譜用の万年筆という訳ではありません。

 カタログを調べてみると、一番オーソドックスな「マイスターシュテュック 149」にはペットネームはついていません。このモデルは、見るからにモンブランそのものという、ぶっとい万年筆です。
 デザインはみな似たようなものですが、大きさが結構違います。比べてみるには、モンブランのホームページで見てください。

マイスターシュテュック 149 マイスターシュテュック 149



 そして、これ以外に、ありましたよ、音楽家の名前の付いたモデルが。しかもたくさん・・・。
 以下に、上に書いたもの以外をご紹介しましょう。

(ちなみに、これらは私が見つけて勝手に喜んでいるだけで、私とモンブランとは何のビジネス上の関係はありません。下の記事にはモンブランのホームページから写真を借用していますが、無断で使っているので、引用元を明らかにしておきます。興味があれば、そちらのルートからご自分で調べるなり購入するなりして下さい。)



 上で紹介した「モーツァルト」や「ショパン」は、一般の通常モデルの名前ですが、これらとは別に、寄付金付きのスペシャルモデルというものがあります。モンブランでは、これを「ドネーションペン」と呼んでおり、モンブランのホームページには次のような説明があります。

ドネーションペン:
 Montblancのドネーションペンは、クラシック音楽の世界に身を置く、才能豊かな人物に敬意を表わしたものです。これらの万年筆やボールペンは、その気品と、細部へのこだわりにおいて、ネーミングされた著名人を賞賛しています。
 音楽、あるいは優れた筆記具を愛する人々がドネーションペンを購入すると、高級リミテッド・エディションを手に入れるだけではありません。ドネーションペンが販売されるごとにMontblancが行う寄付を通じ、芸術や文化を支援することになります。

 まずは、モンブラン 21856 ドネーションペン 「ヘルベルト・フォン・カラヤン」
 「のだめ」ではありませんが、キャップ飾りの部分が鍵盤になっています。キャップのクリップ部(ポケットに差し込んだときに外に出る部分)は指揮棒を模しているとのことです。
 カラヤンの思い出として、この万年筆の包装ボックスにはトレードマークであった純シルクのスカーフが付いているそうです。

モンブラン 21856 「ヘルベルト・フォン・カラヤン」 モンブラン 21856 「ヘルベルト・フォン・カラヤン」



 次に、モンブラン 21858 スペシャル・エディション 「サー・ゲオルグ・ショルティ」
 ボディ部分にショルティのサインがあり、キャップのクリップ部はピアノの鍵盤(白鍵2つに黒鍵1)、キャップリングはピアノの弦だそうです。そういえば、ショルティはブダペストのリスト音楽院で、ピアノでバルトークの弟子だったのでした。
 ショルティの愛した「ブリッジ」にちなんで、包装ボックスにはトランプが付いているそうです。

モンブラン 21858 「サー・ゲオルグ・ショルティ」 モンブラン 21858 「サー・ゲオルグ・ショルティ」



 さらに、モンブラン 21860 ドネーションペン 「アルトゥーロ・トスカニーニ」
 キャップリングの飾りにトスカニーニのサインが入り、トスカニーニがもともとチェロ奏者だったことから、キャップのクリップ部がチェロの弦とテールピース(緒止め板)をかたどっています。弦楽器奏者には、後に出てくる「メニューイン」モデルとともに、なかなかお洒落かも。

モンブラン 21860 「アルトゥーロ・トスカニーニ」 モンブラン 21860 「アルトゥーロ・トスカニーニ」



 さらに、ドネーションペン 「レナード・バーンスタイン」 というモデルもあるようです。
 キャップリングには「ウェストサイド・ストーリー」から「マリア」の楽譜と歌が刻まれて、クリップは滑らかな曲線のト音記号となっており、ペン先にはハトが刻まれています。包装ボックスの中には、バーンスタインの曲を収めたコンパクトディスクが1枚入っているそうです。

ドネーションペン「レナード・バーンスタイン」 モンブラン ドネーションペン 「レナード・バーンスタイン」



 ドネーションペン 「ヨハン・セバスチャン・バッハ」 もあります。
 サンゴ色のキャップにはヨハン・セバスチャン・バッハのサイン、キャップリングにはブランデンブルグ協奏曲第5番の楽譜、キャップのクリップ部はト音記号(バーンスタイン・モデルと同じようです)、ペン先はバッハの肖像画入りです。
 包装ボックスには、ブランデンブルグ協奏曲の自筆譜の複製が5枚入っているそうです。

ドネーションペン「ヨハン・セバスチャン・バッハ」 モンブラン ドネーションペン 「ヨハン・セバスチャン・バッハ」



 ドネーションペン 「ユーディ・メニューイン」 もあります。
 バイオリニスト、ユーディ・メニューインにちなんで、キャップのクリップ部ははバイオリンのネックをかたどり、キャップリングにはメニューインのサインが刻まれています。ペン先を飾っているのは、鳩の刻印です。
 メニューインの演奏したコンパクト ディスクが、包装ボックスに収められているそうです。

ドネーションペン「メニューイン」 モンブラン ドネーションペン 「ユーディ・メニューイン」



 また、活動内容はよく分かりませんが、バーンスタインが始めたという「フィルハーモニア・オブ・ザ・ネイションズ」というものもあります。

 さらに、直接音楽には関係ありませんが、モンブランとユニセフの協力した「人々に書く権利を」「読み書きが与える可能性」という活動もありました。
 社会活動へも積極的に参加しているようです。



 なお、モンブランには、音楽家以外にも「作家シリーズ」のようなシリーズもありますので、興味があれば参照下さい(万年筆という道具の性格からすれば、音楽家よりも作家の方がファンは多いような気がします。ヘミングウェイ、アガサ・クリスティ、オスカー・ワイルド、ドストエフスキー、ディケンズ、カフカ、などなど・・・)  

 ということで、レトロで器用さ・便利さには欠ける道具ですが、持つことが誇りに思えるような、大人の一品でした。



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