オペラへのお誘い:その2〜タイプ別アプローチ〜

1998年1月31日 作成
  1999年 7月31日 一部修正
  2004年 9月23日 一部修正(DVD情報の更新)


 前回の「カルメン」へのお誘いに続き、この際少しオペラに興味を持たれた方のために、オペラへのアプローチ方法を、タイプ毎に分けてみました。参考になれば幸いです。なお、これはあくまで私の狭い経験・少ない投資の中での個人的・独善的見解ですので、まだまだたくさん見逃しているものが多いと思います。正統的・体系的にアプローチしたい方は、市販の入門書・解説書をお求め下さい。

1.聴きなじみ型
 組曲などの有名な曲から入る方法。「カルメン」がその典型で、最も安易かつ確実な道。
アグネス・バルツァのカルメン、ホセ・カレーラスのドン・ホセで、レヴァイン指揮のメトロポリタン歌劇場の映像(1987年のライブ)が最大のお奨めです。

 この路線には、「凱旋行進曲」で有名なヴェルディの「アイーダ」、序曲や「狩人の合唱」で有名な(ホルン吹きにだけ?)ウェーバーの「魔弾の射手」、前奏曲や歌合戦の場で有名なワーグナーの「タンホイザー」といったものがあります。また、日本のメロディーにあふれたプッチーニ「蝶々夫人」なんかもあります(長崎が舞台ですから、君が代、宮さん宮さん、などなど。侍女の「スズキ」が、「イザナギ、イザナミ・・・」と祈る場面も・・・)。

 このうち、「アイーダ」が第1の推薦。スエズ運河開通記念として作られカイロで初演された、古代エジプトを舞台に繰り広げられる一大スペクタクル。有名な「凱旋の場」(アイーダの恋人であるエジプトの将軍が、エチオピアとの戦いに勝利して凱旋する場面。アイーダは、実はエチオピア王の娘なので、その心境は複雑)では、演出によっては馬や象まで登場するという。カラヤン(ヤマハのアイーダトランペットが採用されて話題になった演奏)、若き日のムーティがお薦め。映像付きでは、ヴェルディ:歌劇《アイーダ》ミッロ、ドミンゴ、他/レヴァイン/メトロポリタン歌劇場が良いようです。

 定期演奏会で序曲を取り上げた「こうもり」を、全曲聴いてみよう、などもありです。この曲は、ウィーンなどでは大晦日の定番だそうで、パフォーマンスあり、駄洒落あり、舞踏会の場面ではゲスト出演者が飛び入りで歌いまくる、というアドリブありの楽しいオペレッタ。駄洒落が理解できないと楽しめない、ということで、このオペレッタは英語圏では英語で上演されるようです(DVDでライブ盤を買う場合は注意)。録音は、クライバー(バイエルン国立歌劇場)、ウィーンものではボスコフスキー、カラヤン/ウィーン・フィルが良いようですが、この曲に関しては、華やかさ・楽しさを味わうため、映像付きをお薦めします。クライバーにはDVDもあります(喜歌劇《こうもり》全曲:クライバー/バイエルン国立歌劇場)。なお、全曲を聴けば、序曲の始めの方に出てくるトロンボーンのコラールと鐘の音(6つ)の意味がわかります。(別に深い意味ではなく、単に舞踏会で夜を徹して明け方6時、ということですが)

 その他、お馴染みの序曲と、アリアを五郎部氏と競演したロッシーニ「セヴィリアの理髪師」も、この路線でのお薦めです。前編これ軽薄と冗談で貫かれた、あっ軽〜いオペラ。アバドでCD、DVDとも出ています。

2.好きな作曲家を骨までしゃぶる型
 好きな作曲家の作品を聴いていくと、どうしてもオペラに行き着いてしまうことがあります。モーツァルトの場合がその典型です。それは、モーツァルト自身がオペラに最もエネルギーをつぎ込んだことと、その結果として最もモーツァルトの本音に近い部分、聴く人を楽しませる部分がその中にあふれていることによります。
 モーツァルトのユーモア、音楽的ありながら軽妙洒脱、悪ふざけ、そういったものがオペラの中でのびのびと使われていて、シンフォニーのちょっとまじめくさった顔からは想像もつかないほどです。映画「アマデウス」でのモーツァルトの素顔が、オペラの中にのぞけます。次から次にどんでん返しを繰り出して飽きさせない「フィガロの結婚」、または三枚目役パパゲーノが魅力的な「魔笛」あたりからどうぞ。デモーニッシュな「ドン・ジョヴァンニ」、室内楽的な「コシ・ファン・トゥッテ」(「女はみんなこうしたもの」)も良いでしょう。演奏は、いっぱい出ていますので、よさそうなものを選んで聴いてください。(定番としてはベームあたり、新しい方ではアバド、古楽器によるガーディナーなど)。映像では、モーツァルト「歌劇フィガロの結婚」ハイティンク/グラインドボーン音楽祭 ¥2,940モーツァルト/歌劇《コシ・ファン・トゥッテ》アーノンクール ¥3,150など。

 このタイプとしては、他にR.シュトラウスがいます。我々オケ人間には「交響詩の作曲家」とのイメージですが、それは若い頃だけで、円熟期はもっぱらオペラを作曲していました。トータルで見れば、「オペラの作曲家」と呼ぶべきでしょう。ワーグナーの後を継ぐ、ドイツ正統ロマン派オペラが目白押しです。代表作は「薔薇の騎士」(1911年初演)。19世紀中頃の円熟したウィーンを舞台にした、懐古趣味・豪華絢爛なオペラなので、映像付きの方がお薦めです。クライバー盤(CD、DVDともあり)、カラヤン盤など。
 さらに興味があれば「サロメ」(1905年)。有名な「7つのベールの踊り」があるので、これも映像付きが良いでしょう(要するに、サロメが着ている7枚のベールを1枚ずつ脱いでいく・・・)。R.シュトラウス《サロメ》ドホナーニ/コヴェントガーデン王立歌劇場 ¥2,940など。

 ワーグナー、ヴェルディ、プッチーニといった、もっぱらオペラだけで名を残している作曲家は、このカテゴリーからは外しておきましょう。

3.お涙頂戴型(またはミーハー型)
 オペラを聴いて感動の涙を流す、なんて一見高尚なようですが、いやいや、結構安っぽいメロドラマ風ストーリーに涙を流してしまうのです。
 その最右翼、と私が思うのが、プッチーニの「ラ・ボエーム」。パリの屋根裏部屋で共同生活する芸術家の卵たち、その中の1人の売れない詩人ロドルフォと、針仕事で生計を立てる可憐なミミの恋愛。肺病を患ったミミは、迷惑をかけまいとロドルフォのもとを去る。死期が迫って、ロドルフォのもとにやってきたミミをベッドに寝かしつけ・・・。音楽も、セリフもない時間・・・オケの不吉な和音がミミの死を告げる・・・ロドルフォはまだ気付かない・・・ふ、とおかしいことに気付く・・・ベッドに駆け寄る・・・突如鳴り響くオケの響きの中、「ミミーっ!!」と泣き崩れて幕となる。この最後の数分間のほとんど沈黙の世界に、何度聴いても思わずしんみりとしてしまうのでした。CDはカラヤン盤がお薦め。映像も歌劇《ラ・ボエーム》カラヤン/ミラノスカラ座 ¥3,150)がよいでしょう。
 プッチーニという作曲は、なかなか「ドラマ」作りに長けているようで、最後のクリマックス作りという点では、「トスカ」もなかなかのものです。これにはマリア・カラスのステレオ録音もあります。映像では、プッチーニ:歌劇《トゥーランドット》レヴァイン/メトロポリタン歌劇場は、北京を舞台にしたスケールの大きいオペラ。

4.エベレスト登頂型(または老後の楽しみ型)
 クラシック音楽における最高峰は、という問いに対しては、各人各様で色々な答えがあるでしょう。バッハの「マタイ受難曲」だとか、ベートーヴェンのシンフォニーだとか。しかし、その音楽によって占拠される物理的時間が最も長いもの、という意味では、ワーグナーの四部作「ニーベルングの指環」であることに異論はないでしょう。なにせ、4晩、合計で16時間に及ぶ超大作ですから。
 これは、いかに「オペラは所詮エンターテインメントである」とはいっても、ちょっと別格です。エベレストにハイキングの延長では登れないように、それなりの覚悟と準備が必要です。でも、最終目標あるいは老後の楽しみとしてとして、意識のどこかに持ち続けることも、それなりに良いことかもしれません。演出も含めて映像で見ることをお奨めします。(バレンボイム/バイロイト、ワーグナー《ニーベルングの指輪》(4部作全曲)サヴァリッシュ/バイエルン国立歌劇場、ベーレンス、コロ、他 、レヴァイン/メトロポリタン歌劇場など)
 (私も、1997年にショルティの追悼として、ショルティの全曲盤CDを買ってしまいました。いつの日にか、ゆったりと聴ける時が来ると信じて・・・。このCDには、デリック・クックの「ライトモチーフ解説」CD3枚がおまけで付属しています)

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