第65回定期演奏会(2011春)の演目について 〜とりあえず基本情報〜

2010年 10月 30日 初版作成
2010年 12月 15日 「3」を追加・修正


 YPOの次回(2011年春)の定演で、フランスものを演奏することに決まったそうです。

  フォーレ/劇音楽「シャイロック」より
  プーランク/バレエ音楽「牝鹿」より、序曲と「組曲」
  サン・サーンス/交響曲第3番「オルガン付き」

 このうち、サン・サーンスの交響曲は有名ですし、YPOでも何度か演奏しているので、ここではそれ以外の2曲についてちょっと情報を提供します。
  

1.フォーレ作曲「シャイロック(Shylock)」作品57

 ガブリエル・フォーレ(1845〜1924)が1889年に作曲した曲で、もともとは劇付随音楽のようです。「シャイロック」とは、シェイクスピアの「ヴェニスの商人」に出てくるユダヤ人高利貸の名前ですね。
 歌の入った曲と、オケだけの曲とがあり、今回はオケだけの曲を演奏するようです。 (下記の2、4、5、6)

1.シャンソン(歌入り)
2.間奏曲(Entr'act)
3.マドリガル(歌入り)
4.結婚を祝う歌(Epithalame)
5.夜想曲:ノクテュルヌ(Nocturne)
6.終曲(Final)

(1)スコア

 楽譜(スコア)は、無料楽譜ダウンロードサイト「IMSL」からPDFファイルがダウンロードできます(ホルン石井さん情報)。
→http://imslp.org/wiki/Main_Page

(ここから、"Composer's name" →目次で「F」選択→ "Faure, Gabriel" → "Shylock, suite, Op.57 (Faure, Gabriel)" で下記の「シャイロック」のページに飛びますので、ここで "Complete Orchestral Score" を選択してダウンロードして下さい。)

「シャイロック」のページ
http://imslp.org/wiki/Shylock,_suite,_Op.57_%28Faur%C3%A9,_Gabriel%29

(ダウンロードするとき、「免責事項」の画面が表示されますが、個人の資格で行う分には概ね問題ないはずなので、「私はこの免責事項を受け入れ・・・」をクリックして先に進みましょう。
 このサイトには、他にもパブリック・ドメインのフリー楽譜がたくさんありますので、同様の手順で探してみて下さい。)
  

(2)CD

 CDは、ミシェル・プラッソン指揮トゥールーズ管弦楽団のものがあります。(歌入りの全曲が入っています)
 このCDは2枚組で、フォーレの管弦楽曲の主要なものが手に入ります(「ペリアスとメリザンド」など)。

 さらに、この際、プラッソンの指揮で「オルガン付き」やフォーレの代表作「レクイエム」も含め、フランスものを大人買いしたいとお考えなら、37枚組\6,681という超お買い得セットもあります。(ただし、フランス6人組の音楽は、オネゲルの交響曲と「機関車パシフィック231」のみ)
(→詳しい解説記事はこちら。)
  

(3)その他

 シェイクスピアを読んでみようという方はこちら。

「ヴェニスの商人」 (新潮文庫)シェイクスピア (著), 福田 恒存 (翻訳)

「新訳 ヴェニスの商人」 (角川文庫) シェイクスピア 河合 祥一郎・訳

「シェイクスピア物語」 上・下 (岩波文庫)
チャールズ ラム (著), メアリー ラム (著), 安藤 貞雄 (翻訳)
 「ヴェニスの商人」は上巻にあります。
  

2.プーランク作曲/バレエ音楽「牝鹿」(Les Biches)

 プーランクは「フランス6人組」の1人です。「フランス6人組」を構成する6人の名前を全部言えますか?(答は最後に)
 「牝鹿」は、プーランク(1899〜1963)が弱冠24歳の1923年に、ディアギレフ率いるバレエ・リュス(ロシアバレエ団)の委嘱で作曲されたもの。バレエ上演にあたって、舞台美術と衣装は女流画家のマリー・ローランサン(1883〜1956)が担当したそうです(豪華ですねえ・・・)。
 バレエの台本は、詩人・作家のジャン・コクトー(1889〜1963)が担当したそうですが、コクトーだってその当時まだ30そこそこの新進気鋭の詩人だった訳で、当時のパリは若い芸術家たちの活躍で何と活気に溢れていたことでしょうか。

 マリー・ローランサンの絵画は、こちらをどうぞ

 下記の絵は、タイトル、制作年から、このバレエと関係があるのでしょうね。
「牝鹿と2人の女」(1923)
「雌鹿」(1923年)

 バレエ曲は、全体で35分程度の合唱入りですが、作曲者自身が5曲の演奏会用組曲を作っています。全曲版からオーケストレーションに手を入れているようです。
 今回演奏するのは、全曲版の「序曲」に組曲版の5曲を加えた6曲とのことです。

1.「序曲」(全曲版より)
2.「ロンド」(ラッパのはじけた奔放さ!)
3.「アダージェット」(オーボエが美しい)
4.「ラグ・マズルカ」
5.「アンダンティーノ」
6.「終曲」(モーツァルトの「プラハ」交響曲をパロディにしていないだろうか?)

(1)スコア

 楽譜(スコア)は、プーランクの著作権がまだ生きているためか、パブリック・ドメインにはなっていないようです。
 印刷譜は、下記のとおり非常に高いようです。また、技術委員長が何とかしてくれるのでしょうか・・・。

プーランク: バレエ組曲 「牝鹿」/ウジェル社(Heugel)全曲版スコア(amazon):\8,085

プーランク: バレエ組曲 「牝鹿」/ウジェル社(Heugel)組曲版? (アカデミア):\7,170

(2)CD

 まあまあ有名な曲なので、CDはいくつか出ています。

 組曲版では、ジョルジュ・プレートル指揮/パリ音楽院管のものがありますが、現在廃盤のようです。ラッパがハチャメチャにはじけた、いかにもフランスといった演奏です。
(これは1961年の録音で、プレートル氏は50年前既に第一線の指揮者だった・・・。2008年のウィーン・フィルのニューイヤーコンサートを指揮すると聞いたとき「まだ生きていたの?」と思いました。マリア・カラスが歌ったビゼー「カルメン」やプッチーニ「トスカ」の全曲録音も指揮していましたし・・・。いまだバリバリの現役で、今年(2010)正月に再びニューイヤーコンサートを振りましたし、この秋(2010年11月)エサ・ペッカ・サロネンの代わりにウィーン・フィルとともに来日しますね。)

 比較的新しい録音では、シャルル・デュトワがフランス国立管を指揮した組曲版があります。5枚組\2,997で、代表的な管弦楽曲、協奏曲、「グローリア」などの声楽入りの曲も入っていて、このセットでプーランクの管弦楽曲は一通りそろいます。

 2010/12/22に、国内盤でヴァーレク指揮/チェコ・フィルの組曲版(\1,050)が出ました。サティ/バレエ音楽「パラード」、ミヨー/バレエ音楽「屋根の上の牛」も収録されています。(サティの「パラード」も、台本:ジャン・コクトー、初演時の美術:パブロ・ピカソという、豪華メンバーですね。)

 全曲版は、プレートルがフィルハーモニア管弦楽団を指揮した録音があります。こちらは、格調高く上品な演奏です(1980年の録音)。このCDは2枚組で、プーランクの代表的な管弦楽曲、協奏曲を一通り聴けます(2台のピアノの協奏曲では、プーランク自身が弾いています)。
  

3.おまけ いろいろ

(1)フランス6人組とは

 フランス6人組とは、パリ音楽院で同期生だったオネゲル、ミヨー、タイユフェールを中心に、脱ワーグナー、脱印象派を掲げる若い作曲家たちを指して命名されたグループのことですが、「ロシア5人組」になぞらえてそう呼んだものらしく、6人が特に強く結び付いていたというわけではないらしい。
 6人は、年齢順に並べると、ルイ・デュレ(1888〜1979)、アルテュール・オネゲル(1892〜1955。彼はスイス人)、ダリウス・ミヨー(1892〜1974)、ジェルメーヌ・タイユフェール(1892〜1983。唯一の女性)、フランシス・プーランク(1899〜1963)、ジョルジュ・オーリック(1899〜1983)。このうち、デュレ、タイユフェール、オーリックは、私もほとんど聴いたことはありません。

(2)フランス音楽が苦手なあなたに

 フランス音楽はどうも苦手、とおっしゃるあなた。私もそう思っていました。今でもそれに近い感覚は残っています。
 ドイツ音楽に比べると、形がはっきりしなくて、ふにゃふにゃしていて、ぼわっとしていて、真面目なのかふざけているのか、上手いのか下手なのか、どうもよく分からない、という感じです。

 そんなことで敬遠していましたが、次の本を読んで、何となくそんなもんだ、それで良いのだ、あるがまま受け入れよう、という気になりました。
 この本は、新書1冊で「西洋芸術音楽−俗に言うクラシック−の歴史」を取り扱ったユニークな本で、「音楽史」全体を網羅した「教養書」ではなく、何故「19世紀を中心とした西洋音楽」がクラシック音楽の中心をなしているか、かつ「感動」という効能をもたらすようになったのか、といったあたりを、大変説得力のある論法で述べています。

 その中に、「音楽史の19世紀は、1枚岩ではなく『2枚の岩』からできていた」として、
・パリに象徴されるグランド・オペラ/ヴィルトゥオーソ・サロン音楽 〜あくなき豪奢の追求と俗物化(成金化)
・ドイツ語圏の、虚飾を廃し宗教や哲学に比肩するような「深さ」や「内面性」を求める音楽
の2つの流れがあると説明しています。これが、現代でも「娯楽音楽vs芸術音楽」の対立として残っているとのことです。
 確かに、特に20世紀の音楽を聴くときに、「音楽芸術は、常に新しい音の可能性を追求しなければならない」といって、不快な響きにも我慢して耳を傾けなければならないのか、あるいは「感動しないものは音楽でない」といってそういった前衛音楽を切り捨ててしまうか、二律背反の立場を揺れ動いて、立ち位置が確立できずにいた私にとって、複眼的・多面的に音楽と向き合うという、一つのヒントを与えてくれる視点でした。
 ドイツ音楽とフランス音楽は、そういった異なる社会風土、嗜好から生まれてきた、全く価値基準の違うもの、と考えると、違った視点から両方とも受け入れることができると思います。

 私たちは、そして日本のクラシック愛好家の多くは、知らず知らずのうちに19世紀ドイツ・ロマン派あたりの価値観を基準に音楽を聴いている、ということを気付かせてくれる本でした(というより、そういう主張をしている本)。

西洋音楽史―「クラシック」の黄昏 (中公新書) 岡田 暁生 (著) 中央公論新社 \819

(3)クリスマスにちなんだ隠れた名曲 〜オネゲル「クリスマス・カンタータ」

 第64回定期演奏会で、マーラー「復活」の演奏が終わって、ふと周りを見渡したら、もうクリスマス。
 季節商品としてクリスマスにちなんだ曲で、最近気に入っている曲が、フランス6人組の一人である オネゲルの「クリスマス・カンタータ」(Une cantate de Noel) です。

 この曲は、オネゲルの最晩年、病床で1953年に作曲されました。オネゲルの最後の作品です。
 テキストは、スイス人のオネゲルらしくフランス語・ドイツ語・ラテン語が混在して用いられています。

 全体は大きく3つに分かれ、「暗黒の時代」「キリスト生誕」「キリスト賛歌」とされていますが、第二次大戦直後の時代背景から「戦乱」「平和」「人間賛歌」とも考えられるようです。
 第1部「暗黒の時代」では、不気味なオルガンのペダルで始まり、ヴォカリーズの合唱の重苦しさの中から「深き淵より我は叫ぶ」がラテン語で歌い出されます。クリスマスを祝う曲というより、同じオネゲルの戦争交響曲である「交響曲第3番」に通ずる暗さ、重苦しさ、悲壮感・・・。
 重苦しさが次第に高潮していったところで、突然第2部「キリスト生誕」の少年合唱が天使の声を伝えます。雰囲気ががらりと変わり、希望に満ちた明るさがやって来ます。ここから、様々なクリスマスの歌がつむぎ出され、その中にはドイツ語で歌われる「清しこの夜」もあります。この曲の中で最も感動するところです。(芸術的に、というよりはミーハー的に、ということですが、音楽の魅力ってそういうところにあると思います・・・)
 第3部「キリスト賛歌」は、苦しみを乗り越え、希望は必ず実現する、という確信、人間や人生に対する喜びが歌われます。ここには、バッハのコラールが重ねられています。悲観論者だったというオネゲルが、死の床の中で書いたこの賛歌には、勇気付けられる思いがします。

 キリスト教徒ではありませんが、人間、社会、そして自分自身に対する希望と確信を持てる、不思議な感動があります。
 オネゲルは、きっと天国に行けたな、と思います。

 CDも何種類か出ていますが、とりあえず聴いてみたい方は YouTube で聴いてみてください。
 シャルル・デュトワがNHK交響楽団を指揮したものがありました。デュトワは、バイエルン放送交響楽団とオネゲルの交響曲全集を録音していますので、同じスイス人としてオネゲルを得意にしていたのだと思います。
 全体で、約20分ちょっとです。N響アワーの録画なのか、日本語訳も出ます。
 制限時間内で3分割されていますが、ちょうど「第1部」「第2部」「第3部」に相当します。

   ・オネゲル「クリスマス・カンタータ(第1部)」(1/3)YouTube

   ・オネゲル「クリスマス・カンタータ(第2部)」(2/3)YouTube

   ・オネゲル「クリスマス・カンタータ(第3部)」(3/3)YouTube

 CDは、国内盤で対訳が付いたものならアンセルメ/スイス・ロマンド管弦楽団の1961年録音(作曲の8年後、オネゲル没後6年目の録音)、新しいものではミシェル・コルボ/グルベンキアン財団管弦楽団・合唱団の1989年の録音があります。ペシェク/チェコ・フィルのCD(1982年録音)も国内盤で発売されるようです。



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