褥創のラップ療法は必要か?
m3com『医療維新』より 2010年8月24日
食品用ラップなどで覆い湿潤治療する「ラップ療法」普及も、採否の判断は分かれる
・日本褥瘡学会理事長で、京都大学皮膚病態学教授の宮地良樹氏の意見
・従来、創傷治癒では乾燥させる方法が主流だった
・その後、湿潤環境で創傷治癒を促進するとのことで被覆療法が行われている
・1971年のポリウレタンフイルムドレッシング、1987年にはハイドロコロイドドレッシング材(商品名デュオアクティブ)が発売
・ラップ療法は現時点では評価すべきエビデンスに乏しく、ガイドラインで推奨できる段階ではない
・医療用に認可されていない食品用ラップの用途外使用である
・十分なエビデンスとなるべき臨床成績が論文として公表されていないのが問題
・医療用創傷被覆材の入手が困難な在宅などの状況下で広く使用されていることも認識している
・日本褥瘡学会理事会はラップ療法について見解を発表(2010年3月)
 ・褥瘡の治療にあたっては医療用として認可された創傷被覆材の使用が望ましい
 ・ラップ療法は、医療用として認可された創傷被覆材の継続使用が困難な在宅などの療養環境での使用を考慮してもよい
 ・褥瘡の治療に十分な知識と経験を持った医師の責任下で、患者・家族に十分な説明をし、同意を得たうえで実施すべき
皮膚科の領域においては、ラップを使ったODT(= occlusive dressing technique)療法が従来あった。
・皮膚科医にはラップを使うことには抵抗は少ないが、褥瘡のような皮膚欠損のある皮膚潰瘍に使用するのは別の話
・ODTも既に製剤化されたため、ラップは用いない。
・塩化ビニリデン衛生協議会は「食品包装用ラップを褥瘡治療に使わないように」と日本褥瘡学会に申し入れ
・創傷被覆材を使用可能な環境で食品用ラップを使って、蜂窩織炎や敗血症などが起きた場合、医師は責任を問われかもしれない。
どんな褥瘡でもラップ療法で治療できると考えるのは大きな間違い
・医療用の創傷被覆材は高価で、保険で使用期間も3週間までで長期に使えない
・長期間保険で使えるようにするには、新たな臨床試験が必要
・在宅や介護施設で褥瘡治療で、安価で簡便なラップ療法による湿潤療法の試みは否定しない
・水原章浩氏(東鷲宮病院)らの標準治療とラップ療法を比較試験の結果は両群間に有意差なし
・創傷被覆材が使用できる環境での褥瘡治療は、創傷被覆材をまず使うべき
医療安全上の問題をはらむラップ療法を行う必要はない


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