不毛なアシネトバクター騒動
日経メディカル オンラインメール 2010.9.14  第449号
青木眞氏インタビュー
○1979年弘前大卒。沖縄県立中部病院内科、ケンタッキー大学感染症内科、 聖路加国際病院感染症科などを経て、2000年より感染症コンサルタント(米国感染症専門医)、サクラ精機学術顧問。

・「この国は予想通り新型インフルエンザから何も学習して来なかったな…」と思う
・学習する構造を持たない組織はMRSA、HIV、SARS、新型インフルエンザと同じ誤りを繰り返す
・アシネトバクターは高度医療の場では、多かれ少なかれ見つかる可能性の高い菌
・アシネトバクターはもともと抗菌薬に対して耐性が強い
もともと耐性がある菌が、少し耐性を獲得したという程度
・「もともとそんなものなのに、何を騒いでいるんだろう」
「耐性だ」と大騒ぎし、不必要に恐れるのはいかがなものか
・以前からあることを、今になって突然持ち出して、無理に問題にしているのか
・感染症は耐性よりも、生命や健康のアウトカムが問題
報道は、あまりに「薬が効かない」ということだけを強調しすぎ
・この耐性菌が臨床現場で患者にどの程度の脅威になるかという視点が欠落
・同様に騒がれたメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)→テロリストが大きなナイフを手にした感じ
・耐性アシネトバクターは、100歳を超えたご高齢者がナイフを持たされてただ座っているようなもの
 →周囲にいるほとんどの人にとってはさしたる危険性はない
アシネトバクターはもともと、人に危害を与える能力の低い菌
・病院では、免疫力が低下した患者が狭い空間に集まっている→アシネトバクターもそれなりの脅威にはなり得る
・仮にアシネトバクターが培養で検出された方が亡くなった
 ・本当にアシネトバクターの感染症で死亡したのか
 ・もともとの疾患が悪化して死亡したのか
 ・臨床的、疫学的な検討が無ければ分からない
・アシネトバクターは「患者の状態が非常に悪い」という標識・マーカーのようなもの
・「アシネトバクターは殺し屋ではなくて葬儀屋」である
帝京大病院を批判する場合、入院患者数、重症度も加味して、多剤耐性のアシネトバクターでどれだけ死亡したのかを考えていく必要がある
・疫学的なコモンセンスが今の日本には欠けている
・「抗菌薬が効かない」=「患者さんの死亡率上昇」と考えられている
・何を調査し、その結果をどのように生かすのか?
 ・感染管理の世界では、アシネトバクターが問題になる背景やその対処法などは既に分かっている
 ・やるべきことは分かっているが、限られた医療資源で忙しい現場に新らたに報告義務を課して何を達成しようというのか?
疫学的専門家でない人が行う実態調査は、その方法にも、結果の判定法にも多くの問題を抱えている
・新しい対策が生まれる可能性はほとんどない
・新たな調査研究を始める予算があるなら、それを感染管理の看護師を増やすことに使った方が効果的
耐性アシネトバクターは高度医療の副産物
・重症患者を守るため丁寧に培養検査をするからアシネトバクターは見つかるだけ
・いい加減に抗菌薬を使い、培養もしない病院では見つからない
・アシネトバクターが検出されたから業務上過失致死容疑などはとんでもない
・それに対して医療機関が「培養しない」「重症患者は受け入れない」ということになれば最後に困るのは患者

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