抗MRSA薬の使い方
日本内科学会雑誌 2012.10
・現在日本で承認されている抗MRSA薬は5剤
 ・バンコマイシン(VCM)
 ・テイコプラニン(TEIC)
 ・リネゾリド(LZD)
 ・アルベカシン(ABK)
 ・ダプトマイシン(DPT)

・保険適応がない抗MRSA薬
 ・リファンピシン(RFP)
 ・ST合剤スファメトキサゾール/トリメトプリム(バクタ)
 ・ミノサイクリン(MINO)

 ・上記薬剤は単独投与でなく、併用(補助的使用)
・欧米では
 ・テラバンシン、チゲサイクリンが臨床応用
・バンコマイシン
 ・MRSA以外にPC耐性肺炎球菌も適応症
 ・細菌の細胞壁合成阻害による殺菌的作用
 ・殺菌作用は濃度依存的
 ・腎毒性は濃度依存的
 ・MICクリーピング(MIC creep):感受性の範囲内でMICが高くなり(2μg/ml以下であるが)、効果が減弱
 ※ MIC creepとは、ある抗生剤に対するMICが年々上昇している(=感受性が低下している)現象
・テイコプラニン
 ・20μ/mlで肝機能障害、60μ/ml以上で腎機能障害、聴力障害の危険
 ・VCMより安全性が高い
 ・現在の所MICクリーピングの報告なし
LZD(サイボッックス)
 ・VCM耐性MRSAにも適応
 ・経口薬もあり
 ・VCM、TEICに比べ腎毒性が低い
 ・骨髄抑制あり、2週以上の使用時は血小板減少、貧血に注意
 ・LZD耐性MRSAの報告は日本でもある
・ABK(ハベカシン)
 ・濃度依存的に腎障害あり
 ・最高血中濃度は9〜20μ/ml、トラフで2μ/ml未満推奨
DPT(キュビシン)
 ・肺ではサーファクタントと結合して効果がなくなるので、呼吸器感染症での適応はない
 ・CPKの上昇(骨格筋の障害)の副作用あり
・疾患による使い分け
 ・敗血症:すべての抗MRSA薬は適応
 ・感染性心内膜炎:VCMとDAP(右心系心内膜炎のみ)が適応
  ・米国のガイドラインではVCMよりDAPのほうが推奨されている(殺菌性にすぐれる)
  ・カテーテルなどでは表面にバイオフイルムを形成して治療に抵抗性
  ・DAPのほうがバイオフイルム内のMRSAに対して効果が強い
  ・MINO、RFP、ST合剤の併用が推奨
  ・米国ではVCMにRFPとアミノ配糖体の併用を推奨
  ・長期使用になるので2週毎に抗MRSA薬のローテーションが耐性化の防止によい
  ・VCMのクリーピングに注意が必要
 ・肺炎
  ・院内肺炎の起炎菌としてMRSAが最も多いとする報告もある
  ・保菌を起炎菌と誤認する可能性
   ・菌量、炎症反応などを参考にして判断
  ・DAPを除いてすべての抗MRSA薬が適応(薬剤間の優劣評価は確定されていない)
 ・気道感染症
  ・日本ではTEICのみ適応であるが、他剤と比べ優位かどうかは不明
  ・英国のガイドラインではVCM、TEICは気道への移行性が不良として推奨されない
 ・皮膚・軟部組織感染症
  ・VCM、ABKを除く抗MRSA薬が適応
  ・表在性の皮膚感染症では切開・排膿が優先
  ・深部皮膚感染、外傷や熱傷の二次感染での抗MRSA薬は皮膚への移行がよい
  ・欧米では皮膚移行に優れるRFP、MINO、CLDMを推奨
   ・RFPは耐性化を起こしやすいので単独使用は避ける
・骨・関節感染症
 ・日本ではVCMのみ適応
 ・欧米ではTEIC、LZD、DAPが使用
 ・欧米のガイドラインではCLDM、RFP、ST合剤も推奨
・中枢神経系感染症
 ・日本では化膿性髄膜炎にはVCMのみ適応
  ・その他の薬剤の臨床成績がないため
 ・欧米ではVCM以外にLZD、ST合剤、RFP(併用)が推奨
 戻る