「労働者に対する胸部エックス線検査の対象のあり方等に関する懇談会」報告書
平成21年11月13日 労働基準局安全衛生部労働衛生課
「労働者に対する胸部エックス線検査の対象のあり方等に関する懇談会」報告書 概要
標記懇談会は、結核予防法(現在は感染症法に統合され、廃止されている。)における健康診断の対象者の効率化・重点化が図られたことから、労働安全衛生法に基づく定期健康診断等における胸部エックス線検査の実施対象者等について検討するものである。主な検討結果は、以下のとおりである。
1.定期健康診断
(1) 次に該当する労働者については、胸部エックス線検査を省略すべきでない。
イ 40歳以上の者
ロ 40歳未満の者であっても、5歳毎の節目の年齢にあたる20歳、25歳、30歳及び
35歳の者
ハ 40歳未満の者(20歳、25歳、30歳及び35歳の者を除く。)で、以下のいずれ
かに該当する者
一 学校、医療機関、社会福祉施設等において業務に従事する者
※ 感染症法施行令第 12 条第 1 項第 1 号に掲げる者
二 一定の要件を満たす粉じん作業者(じん肺健康診断が3年に1回となっている者)
※ じん肺法第 8 条第 1 項第 1 号又は第 3 号に掲げる者
三 呼吸器疾患等に係る自他覚症状又はそれらの既往歴のある者
※ 上記については、定期健康診断の際に実施される項目である「既往歴及び業務歴の調査」や「自覚症状及び他覚症状の有無の検査」等により、医師が判断する必要がある。
(2) 以下については、一般に結核の感染リスクが高いと考えられることから、医師が胸部エックス線検査の省略について判断する際、特に留意すべき事項と考える。
イ 結核の罹患の可能性が高いと考えられる多数の顧客と接触する場合等ロ 結核罹患率が高い地域における事業場での業務ハ 結核罹患率が高い海外地域における滞在歴
ニ 長時間労働による睡眠不足等
ホ 特定の疾患(糖尿病、慢性腎不全等)への罹患や治療(免疫抑制剤の使用)等により免
疫力の低下が疑われる状況が把握された場合
2.その他の健康診断
雇入時、特定業務従事者及び海外派遣労働者の健康診断における胸部エックス線検査は現行どおり実施すべきである。
3.平成 19 年度厚生労働科学研究報告書の概要
検討会報告書において、胸部エックス線検査の労働者の健康管理に対する有効性等の調査・研究が必要とされたことを踏まえて、平成 19 年度に厚生労働科学研究費補助金(労働安全衛生総合研究事業)において「労働安全衛生法に基づく胸部エックス線検査の労働者の健康管理に対する有効性等の評価に関する調査・研究」(主任研究者:相澤好治北里大学教授)(平成 19 年度厚生労働科学研究費補助金総括研究報告書)(以下「平成 19 年度研究報告書」という。)が実施された。
平成 19 年度研究報告書では、40 歳以上の者については 40 歳未満の者に比べて、胸部エックス線検査による肺野の有所見率が有意に高いことが示され、40 歳未満の者の胸部エックス線検査のあり方等については、5 歳毎の節目の年齢に該当する者は胸部エックス線検査の異常所見を診断する際、経年的変化を比較することの意義は極めて大きいことから省略すべきでないとされた。また、感染症法施行令第 12 条第 1 項第 1 号に掲げる者(学校、病院、診療所、助産所、介護老人保健施設又は特定の社会福祉施設において業務に従事する者)やじん肺健康診断が 3 年に1回となっている者(前述)も、定期健康診断において胸部エックス線検査を省略すべきでないとされた。さらに、呼吸器・循環器疾患等の罹患が疑われる自他覚症状や既往歴が認められる者についても、定期健康診断において胸部エックス線検査を一律には省略すべきでないとされた。なお、40 歳未満の労働者で胸部エックス線検査を省略できる者については、喀痰検査についても省略できるとされた。
さらに、40 歳未満であっても胸部エックス線検査の実施の必要性をさらに検討すべきと考えられるような対象(不特定多数の顧客が出入りする施設における業務など)についての言及がなされた。
 労働安全衛生法66条で規定する健康診断で胸部レントゲン検査を実施する目的とその有用性
帝京大学医学部 衛生学公衆衛生学教授 矢野栄二
2005年厚労省 資料5
 3.胸部レントゲン検査実施の利益と不利益
 本委員会の役割は労働安全衛生法66条で規定された一般定期健康診断における胸部レントゲン検査のあり方を考えることである。ここでは胸部レントゲン検査を実施することの有用性判断の前提として、比較的定量的な情報があるものについて整理を行った。すなわち検査の利益として、定期健診による結核発見率、検査の不利益として放射線によるがん死亡を算出した。
 まず、利益としては平成11年地域保健事業報告によると、職域の定期健診での結核発見率は0.007%、10万人あたりにすると7人である。これに対して胸部レントゲン間接撮影(120kV、3.2mAs、120cm)では、被曝線量が中心は0.26mGy、表面は0.82mGyとなる。国際放射線防護委員会(ICRP)1990勧告の「低線量、低線量率放射線被曝に伴うがん死亡の生涯リスク」は1Gyの被曝で10万人あたり500人ががんになるという数値を報告している。これを胸部レントゲン間接撮影による中心被曝の値に当てはめると、10万人あたり0.13人となる。すなわち現行の職域健康診断では、結核患者を54人見つけるために、1人のがん患者を作っていることになる。
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