エピペン
アナフィラキシーに新たな一手
nikkei Medical 2005.4
アナフイラキシーの原因で頻度が高いのが食物。一刻も早い救急搬送が必要になるが、新たな“救世主”が登場する。

 厚生労働省は3月、エビネプリン自己注射キット「エビペン注射薬0.3mg」の適応を、従来のハチ毒から食物や薬物のアナフイラキシーにも拡大した。同時に、食物によるアナフイラキシー発症者の多くが子供であるため、体重15kg以上30kg未満に適応がある、「エビペン注射薬0.15mg」も承認した。早ければ4月中旬から販売される見込みだ。

 エビペンがわが国で初めて承認されたのは1995年。それから8年後に一般の医療機関でも入手可能になった。当時は主に山林作業者のハチ毒によるアナフイラキシーの対応が問題となっており、医療機関に救急搬送するまでの補助治療薬が必要とされていたという背景がある。

「ハチ毒に比べて、食物によるアナフイラキシーの発症者は圧倒的に多く、今回の適応拡大は意味が大きい」と話すのは、同愛記念病院(東京都墨田区)小児科部長の向山徳子氏。昨年、向山氏は日本小児アレルギー学会が実施した「食物に起因するアナフイラキシー症状既往患児の保護者に対するアンケート調査」に携わった。調査によると、117人のうち約94%もの保護者がアナフイラキシーに対して、エビネプリン自己注射キットの必要性があると答えた。また、患者団体などからも適応拡大を求める声が上がっていた。

 エビペンに充てんされているエビネプリンには、心拍数の増加や血圧の上昇、気管支拡張などの作用がある。1995年4月から2002年7月にかけて林野庁の監督下で治験に準じた臨床使用が実施された。その結果、エビペンを使用した15人のうち14人の救命に成功した。 エビペンは直径約17mm、長さ約145mmの円筒形。使う際は、注射器の末端にある安全キャップを外し、しっかりと握ったまま大腿部の前外側に強く押し付ける。その力で内蔵されているばねが針を押し出し、筋肉注射できる仕組みだ。

処方には講習受講が必要
 自己注射のため、厚労省は医師による患者および保護者へのインフォームド・コンセントの実施を義務付けた。また、十分かつ適切な指導ができる医師のみが処方することが承認要件となっているため、販売元のメルクは、講習会に参加した医師だけに納入するシステムを取る。既に全国で約5000人が講習を終え、処方できる態勢になっている。

 エビペンは、保険適応はなく完全な自由診療で処方されるため、薬価は決められていない。実勢価格は診察費込みで1本当たり1万〜2万円。1回の診察で処方できる本数は通常、1本が適当とされているが、医師の裁量に任されている。「保護者からの要望を考慮すると、1本は携帯用、もう1本は家庭での常備用などとして、2本処方するケースが多くなるのではないか」と向山氏はみる。(中西奈美)


もとに戻る