法人化で疲労蓄積の国立大
業務・収益改善の一方で現場は悲鳴
Nikkei Medical 2005.4
 国立大学が法人化されて1年。国の補助金の減額を補うため、各大学病院は病床稼働率の向上やコスト削減などの努力を続けている。

だがそれは労働強化の裏返しであり、現場の疲弊も目立ってきた。

 国立大学が国立大学法人に移行して、この4月で1年が経過した。法人化によって国からの補助金に当たる運営費交付金は、2005年度から5年間にわたり毎年、病院収入の2%ずつが削減される。東京医科歯科大医歯学総合研究所医療経済学分野教授の川渕孝一氏の試算によると、2%の交付金削減分を補うには、材料費なども含めると3.29%の増収が必要だという。

 三重大学長の豊田長康民らが全国の45の国立大学の本院・分院に昨年10月にアンケートを行ったところ、経営シミュレーションを実施した18の大学病院の45%が5年以内の赤字化を予想した(図1)。各大学病院は、経費削減・収入増に向けて様々な努力を続けざるを得ない状況に追い込まれている。


開業医と距離詰め収益改善
 富山医科薬科大は努力の結果、一定の成果を上げた大学病院の一つ。

2003年度は予算が達成できず、文部科学省から約2億円の補てんを受けた。さらに、2004年度の予算では4億5000万円の節減を迫られた。

ところが現在は地域の医療機関からの紹介率と病床稼働率をそれぞれ上げ、さらにコストを削減することで収支の改善に成功、年間1億円の利益を生むまでになった。

 昨年4月に小林正氏が病院長に就任した時点では、平均在院日数の短縮を進めた結果、病床稼働率が82〜83%まで低下してしまっていた。そこで行ったのが開業医の"囲い込み"と患者サービスの向上だ。

その結果、1年前には40%程度だった紹介率は現在、50%近くまで上昇し、病床稼働率も平均94〜95%と高い水準となった。618床中617床が埋まる日もあるという。

 開業医向けの対策としては、研究会を開き、その参加者に医学部の図書館を自由に使えるようにしたほか、教授や院長が研究会後の懇親会に参加し、意思疎通を図った。また、3人の開業医を地域連携室のオブザーバーとして招き、開業医が大学病院に何を求めているかについて意見を聞いている。

 今後は紹介数の多い診療所に感謝状を出し、それを掲示してもらう考えだ。これにより診療所にとっては患者に対して大学病院との連携が強いことをアピールできる材料となり、大学病院側は紹介率の向上を期待できる。臨床教授のポストを開業医に積極的に付与することも考えている。

 患者サービスについては、患者からの苦情のほとんどは食事とトイレ、駐車場、待ち時間の4種類に集約されることに注目、まず病棟のトイレをすべて温水洗浄便座に変えるとともに、点滴したままでも入れるように広く改装した。

 一方で、コスト管理も徹底して進めた。材料費の引き下げの交渉とともに、昨年までほとんど導入していなかった医薬品の後発品の比率を約8%まで高めた。

 また、医療機器の修理にかかるコストに着目し、修理専門の医療機器センターを院内に設置した。「修理を内製化することで、シリンジポンプなどの修理で年間数千万円の削減になる」(小林氏)。今後は各診療科を純利益で管理、医師1人当たりの収入に応じて、助手やスペースなどの配分を行っていく予定だ。

改革疲れで余裕失う
 だが、このような病院の改革の多くは、院内のスタッフの労働強化を生む。小林氏も現在、スタッフが疲弊していることを率直に認める。

 名古屋大病院は他大学に先行して、法人化前の2003年に手術室や病床の稼働率を上げるなど経営を徹底して改善した。それから2年がたった現状はどうか。

 赤字一掃後の昨年春から、同院医療経営管理部教授に就任した立川幸治氏は、「前院長による改革のおかげで、職員に経営に対する意識が芽生え、実際の経営数字も改善してきた。一方で、その副作用も目立ち始めていた」と語る。立川氏の就任時には、既に余裕がないほど医師などスタッフが疲弊し、収益にただ追われる姿が目に付いたという。

 現在、名古屋大病院で行っているのは、業務の無駄の廃止に取り組む、病棟業務の流れを再度分析し人員配置効果を算定する、手術室稼働率を無理なく上げるために準夜帯にも手術室に適正人員を配置する、などの地道な取り組みだ。「昨年度と比べて改革の速度が遅いと指摘されることもあるが、まず腰を落ち着けて現実を把握し、職員の疲弊を緩和、併せて大学本来の価値、大学病院本来の価値が何にあるかを考えるときではないか」(立川氏)。

まだ続く大学勤務医の苦難
 労働強化が続くものの、現状では見合う対価があるとは言い難い。国立大学病院の医師の給与は一般の医療機関と比べて安く(図2)、このままでは十分な医師を確保できないことは経営陣も認識している。

最先端の医療を提供できることを誇りに思うからこそ、給与が安くても医師は大学病院で働いてきた。だが、補助金がなくなり、機器がそろえられなくなれば、そのような医療も提供できなくなるかもしれない。研究のために大学病院にいる医師も、臨床に追われて研究の時間を取れなくなる」(豊田氏)。目指す仕事ができないのであれば、あえて待遇の悪い職場に残る理由はない。

 だが、給与を引き上げようにも、その原資は乏しい。「大学病院には研究や教育という機能もあり、そもそも診療報酬だけではやっていけない」(ある大学病院幹部)からだ。その上、運営費交付金が削減されれば多くの大学病院が立ちいかなくなる。

 いまだ改革に手付かずの大学病院は少なくなく、改革を進めている病院も困難に直面している。これでは複数の大学病院が破たんする可能性は十分ある。交付金の削減自体がなくなる、あるいは削減幅が小さくなる、という見方もあるが、「仮に破たんするにしても、最初に破たんする病院にだけはなりたくない」(ある病院幹部)というのは、どの病院でも同じだろう。補助金削減の穴埋めは、収入増とコスト削減以外になく、今後の労働強化は避けられそうもない。大学勤務医の受難の日々はまだ続く。 


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