臨床教育、優れた米国式
湘南ウエルネス・クルニック院長 西村知樹氏
 私のキャリアに大きな影響を与えたのは、米国式の臨床教育である。大学卒業後の四年間、国内の病院で米国専門医の資格を持つ指導医の下で臨床実務の経験を積み、その後五年間米国で研修を受けたのだ。

 その中で、米国の専門医が内科、外科を問わず、確かな医療技術と豊富な知識を持っている事実に驚かされた。だが、それ以上に、彼らの医療に対する真筆(しんし)な態度と患者に対する責任感の強さに強い印象を受けた。二言で言えば、「頼りになる医師」なのである。

 そうした医師を生み出す背景には、厳しい教育がある。臨床研修は、たとえ米国人であってもあまりの過酷さに脱落者が相次ぎ、強制的に辞めさせられる医師もいる。

 私が在籍したアイオワ大学内科の場合、一カ月ごとに別々の指導医から評価を受ける。その際に重視されるのは、知識、技術ばかりでなく、臨床医としての人格、患者に対する態度、スタッフに対する態度などだ。指導医も研修医から評価を受ける。こうした切礎琢磨(せっさたくま)を経て、はじめて研修医、、指導医とも患者を診ることができるのである。

 日米とも医学部への入学が難関であることに変わりはない。ただ、日本では医学部に入った後、医師としての資質に基づいた評価で退学や学部の変更、職業の変更といった進路の変更を求められることはほとんどない。一度指導医になった医師が、研修医の評価で職を失う例もない。

 優れた医師を養成するには、欧米の教育システムを表面的に取り入れるのではなく、その裏にある、人間に対する深い洞察に基づいた医師像と、厳しい自己研錆(けんさん)の思想にこそ学ぶべきである。米国専門医から受けた印象が日本で教育を受けた医師からは感じられないかというと決してそうではない。

そういう医師の割合が低いのである。

 私自身が「頼りになる医師」であるかどうかは、患者さんと、一緒に働くスタッフの評価を待つしかない。
・・・・それだけ厳しくやっている米国でもだめな医者はいるんだろうな?

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