健康保険に給付金
2005.5.29日経新聞
 「こんなに出るとは思わなかった」。東京都足立区の会社員、吉田邦男さん(仮名、空は、健康保険から給付された約十五万円に驚く。吉田さんが加入しているのは、中小企業で働く人向けの政府管掌健康保険(政管健保)だ。

 2003年10月、吉田さんは過労とストレスから胃かいようになり、約2カ月間入院した。「若いので病気はしないだろう」と民間の医療保険に入っておらず、貯金もなかった。心配した会社の上司が調べて教えてくれたのが「傷病手当金」だった。

 病気やけがの治療で4日以上休み、給与が出ない場合が対象で、標準報酬日額(保険料や給付を決めるときの基準となる給与の日額)の6割を支給する。吉田さんの場合、日額約8000円だったので給付金は一日約5000円。有給休暇扱いとなった10日間を除き、約15万円もらったという。

「民間保険からの給付がなく、入院費の負担がきつかったので助かった」と振り返る。

 入院4日目から支給し、入院などが長引いても最長1年6カ月まで出る。社会保険庁の担当者は「有給休暇扱いでも、その間の給与が標準報酬日額の6割を下回る場合は差額を支給する」と鋭明する。

 請求先は健康保険を運営する保険者政管健保の場合は社保庁の出先から請求書を取り寄せる。休業日数や休業中に支払った給与などを会社に記入してもらい、保険者に提出する。通常は出勤簿や会社の賃金台帳のコピーも必要という。政管健保では、02年に約86万6千件の請求があり、計1408億9千万円を支出した。

 この手当は、大企業の会社員向けに健保組合が運営する組合管掌健康保険(組合健保)や公務員共済にもあるが、市町村などが運営する国民健康保険(国保)にはない。自営業者は民間の保険を活用するなどの自衛策が必要になる。

 組合健保には一定の上限額まで独白に給付を上乗せする「付加給付」もあり、国保加入者との差はさらに開く。

 サントリー健康保険組合(大阪市)は傷病手当が充実した健保組合の一つ。傷病手当の付加金を法定上限いっぱいの模準報酬日額の25%に設定。傷病手当金がもらえる1年6カ月が過ぎた後に支給される「延長傷病手当付加金」日額の85%、期間は1年間とした。仮に日額が1万円なら、全部合わせて一日8500円を2年6カ月にわたって受け取れる。同健保の担当者は「社員が安心して仕事ができるよう、万一の場合の支援制度を整えた」と話す。

 このほか政管健保、組合健保、公務員共済などに加入している本人が死亡した場合は埋葬を行った家族に「埋葬料」が出る。政菅健保の場合、故人の標準報酬月額の一カ月分(最低で10万円)で、退職して3カ月以内に亡くなった場合も給付する。扶養する家族が亡くなった場合は、家族埋葬料として10万円支給する。

組合健保もほぼ同様だ。

 国保も加入者が亡くなった場合、喪主に「葬祭費」を支給する。金額は市区町村で異なるが、2万〜7万円が多く、最低10万円を支給する政管健保や組合健保より低い。厚生労働省では「国保は高齢者の割合が多くて財政が厳しいためでは」とみている。

 もっとも、付加給付制度のある健保組合は、景気の悪化などを背景に減る傾向にある。健康保険組合連合会(健保連)が03年10月に実施した調査では約1600の健保組合のうち、付加給付の実施率は85.3%。89年10月と比べて6.8ポイント低下した。

 健康保険証を医療機関の患ロに提出するだけで自己負担が原則三割となる医療費とは遠い、傷病手当金や埋葬料は請求しなければ出ない。もらい損ねる可能性があるわけだ。ただ、健保から支給される出産育児一時金については、出産届を出すときに窓口で説明を受けることもある。

 傷病手当金などでは医師による証明書、埋葬料は死亡診断書を添付する必要がある。
給付金は銀行振り込みなどで直接受け取ることができる。

 緊急時にタクシーを使った場合などに出る「移送費」もあるが、政管健保でみると、給付は二百二十五件、計約千五百万円にとどまる。健保庁は「医師の意見書が必要など条件の厳しさに加え、知名度の低さもあるのでは」とみる。

 給付金の種類や金額は政管健保、組合健保、国保で異なり、ややこしい。健保連の本多伸行・共同事業部次長は「自分が加入する健保の制度をよく確認して上手に活用してほしい」と話している。
健康保険組合(政管健保、組合健保、国保)にこんな特典

給付金の種類
給付条件
内容
給付の上乗せ(組合健保のみ)
法律が定める上乗せの上限
病気やけがの場合傷病手当金(※)
・保険に加入する本人が病気やけがの治療のため、4日以上仕事を休み、給与の支払いを受けていないとき
・有給の場合でも、その給与が支給されるはずの傷病手当金の額より少ないとき
・1日につき、標準報酬日額の6割(標準報酬日額が1日1万円ならば、6000円)
・受けている給与が傷病手当金より少ない場合は、その差額
・支給は4日目から最大1年
6カ月まで
傷病手当付加金
標準報酬日額の25%
延長傷病手当付加金
給付期間の延長(最長1年6カ月)、標準報酬日額の85%
移送費・病気やけがで移動が困難なためタクシーなどを利用したとき・実費のうち、保険者が認めた金額(医師の意見書が必要)
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出産した鳩合
・妊娠4カ月以上(85日以後)出産育児で出産したとき
・死産、流産(人口妊娠中絶を含む)も対象
・1児につき30万円
・国保では少子化対策などで給付額を引き上げている自治体もある
出産育児付加金
出産育児一時金の50%
出産手当金(※)
・本人が出産のために仕事を休み、給与の支払いを受けていないとき
・休業1日につき標準報酬日額
の60%を支給
・出産日以前42日から出産後
56日まで(計98日間分)
出産手当付加金
標準報酬日額の25%
死亡した場合埋葬料(※) ・本人が死亡したとき
・扶養している家族などが死亡
・本人が死亡したとき
は標準報酬月額の1カ月分(最低10万円)
・家族が死亡したときは、家族埋葬料として10万円
埋葬料付加金
標準報酬月額相当額。定額の場合は標準報酬月額最高額の25%
埋葬費(※)本人が死亡したとき・市町村が定める金額(2万〜7万が多い)
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(注)※は政菅健保、組合健保

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