「3分診療・3時間待ち」の怪
西成田 進  東京都西多摩医師会報第377号より
日医ニュース 2005.6.5
 よく叩かれていますね、新聞やテレビで。タイトルのような理由で。日本中の病院やお医者さんは全部悪者。待たせるだけ待たせてロクに患者さんの話も聞かない、診察もしない。患者さん、いいたいこと、訴えたいこと、いっぱい胸のなかに貯めて来たのに。

一方、その時、診察室のなかでは何が起こっている?

 お医者さん(私です)、朝一番にその日の外来予約患者表を見て、まずガックリ。今日は午後3時半まで予約が入っている。1人10分の診察で1時間6人。午前中は12時半まで。昼食時間1時間、1時半から午後の部再開。だけど具合の悪い人、白分の予約日に都合の悪い人は、当然「予約外」でやって来る。この病院に初めてかかる「新患」の患者さんも、当然「予約外」でまわってくる。「予約」患者さんの合間に、これらの「予約外」患者さんをパラパラと散らして診察すれば、「予約」患者さんとの約束時間に少しずつ遅れが生じ、だんだん貯まってくる。昼食時間を削るか、十分の診察時間を削るか、どちらかしかない。

結局、その二つを利用して、夕方、予定よりかなり遅れて外来終了。依頼された診断書の記載、紹介状の返事など書いて、医局で「昼飯」を食べ終えると、すぐ「夕食」なんて幸せも、しばしば味わえる。

 さて、こんな状況のもとで、毎回、患者さんの話を十分に聞き、質問に答え、病像を説明し、医師も患者さんも納得するまでの診療を行うと、どういうことになるであろうか。分かりますよね?

アメリカのように一人の診療に30分もかければ、患者さんには一カ月待ちというような事態が出現する。当然のことながら、一日に診ることのできる患者さんの数は激減する。一日に診察できる患者さんの数が三分の一に減れば、医療費を三倍にしなければ、病院が倒産するのも、これまた当然。
 そうなのである。
「3分診療」だからこそ「3時間の待ち」で済んでいたというべきなのである。診察室のなかで、医師は押し寄せてくる患者さんの大群を片っ端から診療しての3時間待ちであることを、どれだけの患者さんが理解してくれているであろう。3分診療で3時間待ちとは、この間の3時間で医師は患者さんを60人診たことを意味しているのである。

 こう考えてみると、「三分診療・三時間待ち」の本当の問題は何なのであろうか。「悪」にみえた医師や病院の体制が、実は「善」かも知れない。「三分診療」問題の解決を図ると、「三時間待ち」問題は、もっとひどくなるという現実。一人を丁寧に診冥することは、その方以外の患者さんを必要以上に待たせる、ということを意味するのかも知れない。

 私には、患者さん自身がこの問題の本質を理解しないと、「三分診療・三時間待ち」の問題は解決しそうにないと思われる。 (一部省略)
私見)実感ですな!!

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