ウラン
医学博士 長谷川榮一 元・京都府立医科大学教授 佐倉市国際文化大学名誉学長(市民大学講座)
Medical ASAHI 2005 August
●突然、青い光が走った!
 1999年10月1日 朝日新聞朝刊の見出しは、その意味を知る人にも知ら ない人にも、一様に恐怖感を与えた。

 その前日の午前10時35分、ウラン加工施設JCOで起こったウラン臨界事故は、0.004gの核分裂性ウラン235Uが核反応を起こしたもので、作業員2人の尊い生命を奪い、その他665人の被曝者と31万人の避難住民を出した。

「青い光」は超高エネルギーを持つ中性子などの粒子が、空気や水の媒体中を光速より速く動く時に現れる現象だ。媒体中の光は真空中より少し遅くなるが、中性子などの素粒子はエネルギーが高い時は光速以上で動く。その時、光速との差が青い光となって放出されるが、これに先行する高エネルギー粒子の方が恐ろしい。

 この現象はロシアの物理学者チェレンコフによって34年に発表され、高エネルギー粒子の研究に有用である。

●ウランの発見とその毒性
 1789年、ドイツの化学者・クラップロートがピッチブレンド鉱から発見した新元素は、その8年前、太陽系7番目の惑星として発見された天王星ウラヌスに因んで、ウランUran(独名)と命名された。ウランが放射能を持つことを明らかにしたのは、放射能の単位としてその名が残るベクレル教授だ。
 ウランは地殻中には金よりもはるかに多く、その総量は地球全体で100兆tと概算され、海水中の含量も40億tだという。純粋のウランは銀白色の金属で、空気中で加熱すると容易に燃えて酸化物の粉になる。

 ウランの比重(18.95)は金(19.3)とほぼ同じで非常に重く、鉛の約1.7倍もあり、その高比重を利用して砲弾やジェット機尾翼の重りなどにも使用されるという。

 ウランは単体であれ化合物であれ、ヒ素並みの重金属毒性を持ち、呼吸器などから体内に吸収されると、α線によって内部被曝が加わるので猛毒だ。

●劣化ウラン
 通常のウランは99.27%まで非分裂性の238Uからなり、これに0.72%の核分裂性235Uと微量の234Uが加わる。天然ウラン中の235Uの含量を2〜3%に高めたものを濃縮ウラン、逆に天然の含量以下に減っているものを劣化、または減損ウランと言っている。

 235Uは核分裂してエネルギーと中性子を放出する。その中性子が近くのウラン原子核に衝突して再度中性子を放出し、これが反復して連鎖的に分裂反応が継続する状態を「臨界」と言う。

 あたかも銀行預金の利子が利子を生み、少々手数料を取られても元利が減らない状態になったようなものだが、この現象はウラン中の235Uの含量が低いと起こらない。広島に落とされた原爆は、純235Uにして10kg以上のウランが用いられ、そのうち約1kgが核分裂反応を起こしてエネルギーに変わったと言われるが、原子力発電用の場合は235Uは2〜3%の含有率でよい。

 ウラン濃縮の過程で生成する大量の劣化ウランの放射能は、天然ウランとほとんど同じで、ウラン本来の「毒性と放射能が劣化」して低下したのではない。核燃料としての「価値が劣化または減損」した意味だから、誤解されやすい「劣化」の代わりに「減価」ウランとでも言うべきである。


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