トリカブト 烏頭/附子
薬用植物 花ごよみ
指田 豊(東京薬科大学名誉教授) Medical ASAHI 2005 October
 トリカブトは切花としても利用しますが、山の草原で朝霧の中に咲く青紫色の兜のような花は、美しく印象的です。
 トリカブトは北半球の寒帯から温帯に分布する多年草で、種類が多く、日本には約25種が見られますが、皆よく似ていて、分類至難のグループです。うす暗い林床から明るい草原まで、湿潤な場所に見られます。つるになるものや高山に生える小型のものもありますが、草丈は多くは1メートル前後です。葉は質が柔らかく、モミジのように切れ込んでいます。秋に茎の上部に5枚のがく片からなる青紫色の兜状の花を多数付けます。兜の中をのぞき込むとカタカナの 「イ」 の字の形をした棒状のものが2本あります。これは退化した花弁です。他の植物なら花を飾る主役は花弁ですが、トリカブトではがく片が主役です。
 トリカブトは地下に紡錘形の黒褐色の根があり、春になるとここから茎を伸ばして秋に開花します。花が終わると果実を付けて株は枯れますが、夏に親の根の脇に親と全く同じ形の子根が付き、翌年はこの根から茎が伸びます。

 トリカブトは種類や産地によって毒性の強さに差があり、まれにサンヨウプシのように無毒のものもありますが、一般には猛毒な植物として知られています。特に根は毒性が強く、昔の狩猟民族は根の成分を塗った毒矢を使いました。最近はいくつかの殺人事件に関係してトリカブトが話題になりました。葉も有毒で、みそ汁の具に2、3枚入れただけで中毒を起こします。若い葉はみずみずしく、山菜として知られているモミジガサ(シドケ)やニリンソウと似ているため、春の山菜による中毒事件の常連です。でも、慣れれば一見しただけで区別がつきます。不安ならば黒褐色の紡錘根があるかどうか調べると良いでしょう。いくら毒性が強くても触る程度ならば危険はありません

 トリカブトの親の根を鳥頭(うず)、子根を附子(ぶし)と言います。附子は昔は「ぶす」とも言い、狂言の「附子」は主人が砂糖を他人に食べられないようにぶすという大毒だと言って外出したあと、太郎冠者たちが主人の大切なものを壊したおわびに砂糖を食べるという話です。
     
人の姓の「毒島」(ぷすじま)もこの「ぶす」に由来します。

 附子や鳥頭は、漢方ではなくてはならない薬ですが、その毒性ゆえに扱い難い薬です。

種類や産地で毒性が変わるだけでなく、患者の体質によって感受性が違い、虚弱な人では何でもないのに元気な人では同じ量で毒性が出ることもあります。また有毒成分は煎じると徐々に無毒化しますので、煎じる時間で毒性が変わります。孫が遊びに来たので、常用している漢方薬を煎じていたのを途中でやめて服んで中毒したというおばあさんの例があります。中毒の最初の症状は唇の痺れです。

大量では不整脈が起こり、呼吸麻痺、心室細動などで死に至ります。しかし最近の漢方薬には有毒成分を分解した加工附子(無毒附子)が使われていますので、重篤な副作用はないようです。
【トリカブト由来の生薬の概要】
【生薬名】附子(ぷし)、鳥頭(うず)、天雄(てんゆう=子根を生じなかった根)
【起源植物と分布】キジポウゲ科のトリカブト属Aconitumの各種。薬用はオクトリカブトA.japonicum。ハナトリカブトA.carmichaeli(中国療産で栽培)など。北海道から九州の低地から高山まで分布。北地に多い。
【使用部位】紡錘根。最近は無毒化した加工附子が多い。
【薬効】漢方で衰弱した人の新陳代謝能力を高め、腰から下の水毒による関節の麻痺、疼痛を改善する。
【成分】アルカロイドのaconitine、mesacotine(いずれも猛毒)、hygenamineなど。漢方の有効成分が何であるかは不明。
【配合されている主な漢方処方】眞武湯(しんぶとう)、八味地黄丸(はちみじおうがん)、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)など。

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