ニセ医者
コピー免許でぬけぬけと8年間
Nikkei Medical 2006.1
警視庁は2005年12月6日、医師法違反容疑で、自称医師の山城英樹容疑者を逮捕した。山城容疑者は都内の脳神経外科医院に内科医として勤務。同年9月中旬、腹痛を訴えた女性に対して、医師免許を持っていないにもかかわらず、診断や投薬などを行った疑い。容疑者は計約20カ所の医療機関に勤務 し、逮捕時には都内の4病医院に勤めていた。収入は年間2000万円を超えていたともいわれている。

 容疑者が‘‘ニセ医者”としての一歩を踏み出したのは1997年5月。都立広尾病院(東京都渋谷区)に中国での医学部卒業を騙(かた)り、見学で通い始めたのが最初だ。海外の医師資格を持つ人が日本の医師免許を取得する際には、事実上、1年程度の病院見学が必要とされる。この制度を悪用したというわけだ。

 「中国の大学の卒業証書を見て見学資格ありとした。卒業証書はコピーではなかったはずだ」(広尾病院総務課)。同病院で外国人や海外の大学卒業者の見学を受け入れるのは10年に1人程度。まさに思わぬ抜け道を突かれた形だ。

 その後、容疑者は別人の医籍番号が入った改ざんした医師免許のコピーで就職を繰り返していた。容疑者が勤務していた病院の近隣の薬局からは「処方せんに怪しい点はなかった。薬局では『話を聞いてくれなかった』など、医者の悪い評判が聞こえてくるものだが、それもなかったので“いい医者”だったのではないか」との声も聞こえてくる。

 厚生労働省の指導では、医師の本人確認は卒業証書と医師免許の原本で行うことになっているが、ある医療関係者は、「医局とつながりのある医師はともかく、一匹狼の医師ではそもそも医籍の確認が難しい。

しかも医師不足の中、医師確保のために確認は甘くなってしまう」と指摘する。容疑者が外科当直をしていた佐々総合病院(東京都西東京市)でも、「原則原本を見せてもらうことになっているが…」(理事長室)と、それが絶対でなかったことを認める。

 厚労省は、医師免許の原本以外にも「電話してもらえれば、早ければ1時間で医籍番号から身元が分かる」(医政局医事課試験免許室)とする。だが、前述の関係者は「これだけの数の医師がいて、『一部署に電話で確認してほしい』というのは、建前としか思えない」と切り捨てる。

 警察庁によると、“ニセ医者”の検挙は年に1〜2件程度。発覚すれば大騒ぎになるが、警察庁や厚労省が本格的な対策に乗り出すとは考えにくく、医療機関の自助努力なしには、再発は止められなさそうだ。

 なお、“ニセ医者”への罰則は、医師法17条および31条2項より、3年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金とされる。今回は外科の外来当直を行っており、縫合などの小手術を行っていたことが想像されるため、傷害罪の適用も考えられる。だが、傷害罪は申告がなければ罪とならず、現時点で医療ミスを起こしたという報告はないため、患者が訴える可能性は低い。   


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