韓国の病院が日本人患者に照準
高い技術力を武器に差別化図る
NIkkei Medical 2006.2
 韓国の病院が、日本人患者の獲得に力を入れ始めた。中には、日本の専門医が≠ィ墨付きを与えるレベルの病院もある。一方、日本の医療機関の中にもアジアからの集患者を模索するケースが現れている。

 羽田空港から直行便が運行する韓国・金浦空港。そのそばに、韓国語以外に英語と中国語、そして日本語の看板が掲げられた病院がある。

 病院の名前はウリドゥル。釜山、ソウル、金浦に合計3カ所の病院を展開するグループが開設した脊椎専門病院だ。顕微鏡や内視鏡レーザーを利用したヘルニア治療を得意とし、症例によっては日帰りも可能だ。

 これまでも日本人が米国を中心に治療を目的として渡航する例はあったが、海外の病院が日本人の受け入れをここまで前面に打ち出すケースは珍しい。

 看板だけではない。同院は日本語のホームページを持つほか、日本語を自在に操るスタッフも院内に待機させる。海外から受診した患者向けに、各国の保険会社に提出する資料を英語で作成する部門まである。

 レーザーを利用したヘルニアの治療は「日本では保険適用がなく、未熟な技術に起因する訴訟も多い」と日本脊椎・脊髄神経手術手技学会会長で昭和大整形外科助教授の平泉裕氏は指摘する。そんな平泉氏も「われわれでも手術に15cm程度の切開部が必要だが、彼らは5cm程度。輸血も必要なく、侵襲性は極めて低い」とその技術を高く評価する。

「韓国内の脊椎疾患の3分の1はウリドゥル病院が診ている」と胸を張るのは金浦空港ウリドゥル病院院長の張志秀氏。「症例数がウリドウル病院全体で年間1万5000例と多く、そのほとんどがレーザーによるヘルニア治療。十分に熟練度を高められ、設備も、世界的に見ても屈指のものをそろえている」(同氏)。その症例数に裏付けられた技術こそが同院の海外戦略の基盤となっているのだ。

●市場からの資金調達で成長
 ウリドウル病院の強みは、個人立の専門病院という小回りの良さを最大限に生かし、新しい技術や治療法を次々と取り入れている点にある。

新たな器具や装置を自分たちで開発してしまうことさえある。

 今は顕微鏡や内視鏡手術が中心の同院だが、より精密で侵襲性の低い治療を目指すため、分子・細胞レベルの治療の研究も続けている。医師も、他より高い給料で、実力のある人材を引っ張ってくるという。

 だが、日本と同様の国民皆保険制度が導入されており、医療機関の運営に制約がある韓国で、個人病院になぜここまでの投資ができるのか。

 その秘密は株式市場にある。韓国でも病院そのものを上場することはできないため、ウリドゥル病院は職員を別会社の所属とし、その会社を上場させ、資金を医療へ投下している。「医療のクオリティーを高く保つためには、市場や富裕層から資金を集め、研究を続けていくしかない」と理事長の李相異氏は語る。

●日本の病院も全アジア視野に
金浦空港ウリドゥル病院が2004年6月に開院して1年7カ月が経過した。昨年受け入れた外国人399人中、日本人は18人とまだ少なく、来院した外国人の多くは米国人だ。

 韓国の病院に日本人を紹介した経験を持つ恵寿総合病院(石川県七尾市)院長の神野正博氏は、日本人が韓国で医療を受けるハードルとして、健康保険が使えず医療費が高くなること、一部の日本人に韓国に対する差別意識のようなものがあることを挙げる。ヘルニア治療を韓国で行った場合、自費で50万〜55万円程度かかる。渡航費や滞在費を含めると70万円前後となる計算だ。

 だが李氏は、「在日韓国人の来院がない状況での年間20人という患者数は、今後が期待できる数字。現時点では、日本はブロック注射による対症療法が主と聞いている。根治を求める患者の間で口コミで広がっていくはず」と自信を見せる。

 韓国の病院事情に詳しい、医療コンサルタントの工藤高氏(メディカル・マネジメントオフィス代表)によると、ウリドウル病院以外にもサムスン、ヒュンダイなど財閥系の大病院や、体外受精を行う産婦人科病院も日本からの集恩を考えているという。

 一方で、日本の病院の中にも、東アジア諸国からの集患を目指すケースが現れている。在院日数を短縮させ、なおかつ病床稼働率を維持・向上させるには、診療圏を拡大することが必要との判断によるものだ。例えば、亀田総合病院(千葉県鴨川市)は、中長期ビジョンとして、東アジア各国の富裕層を相手に売り込むことを明示している。

 国をまたいだ集患が成功するかどうかは未知数だが、インターネットの普及などにより他地域の情報が容易に入手できるようになった現在、医療についても‘‘地産地消”の原則が崩れ始めている。今後、アジア圏内での患者の移動が活発化する可能性はある。


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