介護サービス、2006年4月からこう変わる 2006.3.12 日経新聞より |
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(注)都市部では単価が若干高くなる |
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2000年に発足した介護保険制露が今年四月、大きく変わる。財政難を背景に、これまでの介護給付の対象者を中重度者に限定。 介護度の低い軽度者は自立を促す「予防給付」という新しい仕組みに移し替える。二つの分類ができたことで、利用者の負担額はどう変わるのだろうか。 |
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東京・渋谷の原絢子さん(82)の楽しみはカルチャーセンターでの毎週のヨ。「太ったせいか、足腰が時々痛む」のが悩みだったが、ヨガを始めてからは調子もいい。5年前、足を骨折したのを機に「要支援」認定を受けた。 6段階ある要介護度のうち最も軽い、「日常動作は問題ないが一部に社会的支援が必要」とされる分類だだ。今は週に1回、掃除機がげや風呂掃除のために新開介護ヘルパーを2時間利用している。かかる費用の9割は保険から出るので、原さんの毎月の支払いは約1500円だけ。そんな原さんの介護サービスに、変化が起きそうだ。 原さんは予防給付の対象になる。ヘルパーによる訪問介護は、従来は時間を延長すると追加負担が発生する仕組みだったが、事業者が報酬目的で作業時間を延ばすことを防ぐため、4月から定額制になる。事業者に支払われる介護報酬は週1回程度で月1万2340円。利用者負担は1割なので原さんの負担は月1234円に減る計算。 いったん喜んだ原さんだが、詳しく聞くと顔が曇った。この報酬額では多くの事業者の場合、1時間半程度のサービスが限界。原さんのサービス時間も30分短くなりそうだ。しかし仮に週1時間のヘルバーを自己負担で頼めば月8500円程度かかってしまい、むしろ負担は増える。 このように報酬額の削減を通じて軽度者への介護サービスを縮小し、自立を促すのが予防給付の考え方。利用者は通所施設での筋トレなど定額制中心のサービスを、限度額の範囲内で組み合わせることになる。予防給付には現行の「要支援」とその次に軽い「要介護1」の大部分が移行。要介護状態の高齢者のほぼ4割にあたる大集団だ。 現行の「要介護2」から新制度の「要支援2」となった場合の影響はさらに大きい。限度額の削減率が、月16万5800円から10万4000円と、4割近いからだ。 「どうしたら限度内でおさまるのか……」。東京・鯛布市のケアマネジャー土屋典子さんは悩む。新基準での試算では、ほぼ半分の人が従来通りの訪問介護を受けられない可能性が出てきた。 例えば94四歳で独居のAさん。今はほぼ毎日、朝晩ヘルパーが訪問。週一隊の入浴や通院の手伝いなどをLでもらう。月の利用額は15万円程度とはぼ限度枠いっぱい。 「要支援2」に移行すれば訪問介護などの回数を減らさなくてはならない。「同じ要介護1でも症状や介護の必要度は様々。一様に予防を強要されても・…」 (土屋さん)。 一方で介護給付の枠内ではサービスは充実、費用負担が減るケースがありそうだ。例えば「小規模多機能型ホーム」。昼間に通うだけでなく、必要に応じて泊まったり、自宅にヘルパーが訪問するサービスだ。これが新しく保険の適用となった。 長野県上田市の弓掛邦江さん(49)は、朝から夕方まで週に4回、83歳の両親を家から約5分の「南天神の家」に預けている。両親はヘルパーに見守られながら、おしゃベりや調理の手伝いなどをしながら1日を過ごす。夕方自宅に帰ると今度は先はどのヘルパーが訪問し、夕食の調理をしてくれる。 現在の介護保険の一割負担は父が2万円強で母が3万円強。ただし、宿泊は保険の枠外の自己負担で、1泊6000円はまるまる自己負担となるため控えていた。これが4月から保険適用になり「泊まり」と「通い」 「訪問」を合わせて要介護度別の月定額制になる。たとえば母と同じ要介護3なら何回利用しても自己負担は2万3千円強にとどまる。「これだけ大変な介護を一割負担でお願いできるのは本当にありがたい」 夜間対応型のホームヘルプサービスも今回新たに導入されたサービスだ。ジャパンケアサービスの世田谷の事務所では夜10時〜朝7時までの深夜・早朝に10回近く電話が鳴る。契約した高齢者が身につけているコールボタンを押すと通じる仕組みだ。 82歳の要介護5のBさん。毎晩1回、多いときは3回コールを鳴らす。出来る限り自力でトイレにいくことに礁いこだわりをもっているが、同居の弟も70歳代の高齢で夜間介護は無理。コールで駆けつけたヘルパーはBさんのトイレの世話をし、水分補給やマッサージもする。 現在、東京・世田谷がモデル事業として行っているこのサービスも保険に盛り込まれ、利用者負担は月2万〜3万円程度に抑えられる。 |
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龍谷大学の池田省三教授は今回の改正を「介護保険の守備範囲と、本来、自治体の福祉が担当すべき領域を改めで規定し直した」と評価する。それは同時に「介護サービスに関しては相当、自治体格差が拡大する」道でもある。 夜間対応型ホームヘルプサービスも小規模多機能型ホームも、サービス提供の責任主体が市町村になる「地域密着型サービス」の一環。国はメニューを出すが実行は市町村に委ねられる。一方で、予防給付で利用抑制傾向が明確になった訪問介護の分野も、実際の運営上は自治体の判断が強く反映される。 「今でも自治体によって、散歩をリハビリの一環と認めるか認めないか、入浴介助は銭湯で行ってもいいか、悪いかなどバラツキが大きい」 (ホームヘルパー全国連絡会の森永伊紀事務局長)。 「自治体はサービスを切れば切るほど節約になる面もある」。 今回の改正で、住む場所や身体状態によっては、利用可能なサービスが減っただけの高齢者を生みださないよう、自治体の今後の運営に注目する必要がある。 |