トヨタに学べに落とし穴 上
2006.3.24 日経新聞
 業績好調な日本企業の間で「トヨタに学ぶ」という動きが加速している。トヨタ自動車の今期連結最終利益は四期連続の最高益の見通しで、各メーカーは「カイゼン」などの生産方式を手本にして収益拡大に弾みをつけようと躍起だ。ただトヨタ式は同社の企業文化や自動車という商品特性に合わせて形作られてきた。トヨタに倣えば活路が開ける保証はない。

 30年前にトヨタ生産方式を導入したヤンマー。昨年から「ヤンマーウェイ・バイ・カイゼン」と銘打ち、関連会社を含む12工場で新たな生産性向上活動を始めた。

 ヤンマーは日本企業に先駆けてトヨタ生産方式を採り入れ、その生みの親である故大野耐二元トヨタ自動車工業副社長の指導まで受けた。だが生産性や収益向上の効果がなかなか上がらず、いつのまにかカイゼン活動も廃れていった。

 理由は白動車生産の効率化を目的に生まれたトヨタの手法を、そのまままねた点にある。ヤンマtの主力南畝の農機は季節によって出荷量が大きく変動。需要期は在庫に余裕を持たないと販売機会を逃す。

必要な部品を必要なとき、必要なだけ調達する「ジャスト・イン・タイム(JIT)」を忠実に実行すればするほど、事業効率向上と逆行してしまった。

 ヤンマーは今回、需要期には在庫水準を高めにするといったヤンマー流のカイゼン手法を確立。2008年春までの3年間で不良率と納期を半減、製造コストを10%削減する計画だ。「単なるトヨタの物まねでなく、独自のヤンマー方式を磨かなければ、強じんな企業体質をつくれない」。山岡健人社長は30年後の再出発に意気込む。

 トヨタ式の基軸は従業員一人ひとりが「自分の頭で考える」という能動的な姿勢。安易な気持ちで導入しようとすれば入り口で挫折する。

 CSKがトヨ夕の協力を得て03年に発売した製造原価の低減支援ソフト「eカルテ」。トヨタ元町工場(愛知県豊田市)が使っているノウハウを手に入れられると評判を呼び、発売前のセミナーには300社が参加したが、使いこなせたのはわずか2社だった。

 eカルテは数年間は商品モデルが変わらない自動車事業産前綻としたソフト部品の価格や生産ラインの人数など膨大な情報を入力する必要がある。次々に新モデルが出る商品の場合はとてもその手間がかけられず、ほとんどの企業が導入をあきらめた。

 トヨタ式を万能薬と思うと落とし穴にはまる。企業の間では、トヨタの生産方式を各現場の実情に合わせて改造する動きが広がり始めた。
 船井電機が薄型テレビを委託生産する中国・広東省の黄江工場。生産ラインには10歳代の女性社員がずらりと並ぶ。03年末に稼働した工場に導入したのはトヨタ式を基本にしつつ独自色を加えた「FPS(フナイ・プロダクション・システム)」という生産方式だ。

 中国では工場従業員が2〜3年単位で入れ替わることが多く、カイゼンのノウハウが伝承されにくい。このため船井はカイゼン活動に取り組む一方、部品の組み付けなど単純作業登で徹底的に速度向上を追求した。ラインの人数を減らして1人一人の作業効率をぎりぎまで高め、作業が追いつかないといった問題が起こればラインを止め、解決して再開する。一台の液晶テレビ製造にかかる時間は19秒と1年前の3分の1になった。

 「トヨタの思想を学びつつ、それぞれの企業にあった効率的な生産方式を追求するべき」と東京大学ものづくり経営研究センタ上の藤本隆宏センター長は話す。在庫削減や無駄の排除といった形だけにとらわれていては、カイゼンはかけ声倒れに終わりかねない

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