カメムシと大雪
兵庫県医師会報 No.628より
H.N先生
『南から北から』より 日医ニュース 平成18年5月5日 1072号
 雪国に住む者にとっては毎年秋になると、その年の雪の程度を予想することが関心事の一つとなってくる。”カメムシの多い年は大雪になる”赤とんぼが多く出る年は大雪″など、昔からの言い伝えを参考にするとはいえ、やはり気象庁から発表される長期予報を最も信頼している。

 ところが、今年に限っては、暖冬という気象庁からの予報とは裏腹に現地では夏ごろより、かなり多くのカメムシの発生をみており、どちらが正しいのか、みんなが注目していた。蓋を開ければ、十二月に近年まれにみる大雪となった。

 気象庁の長期予報は、過去何十年にわたる膨大なデータとシベリア寒気団″や北極振動″の動向から科学的に予想するのに対し、カメムシと大雪との関連は単に長年、人々が観察した経験そのものであり、科学的根拠は何もない。にもかかわらず、昔からの言い伝えの方が当たったのである。

 医療の現場に目を転じてみよう。今はEBMに基づくガイドラインで診断・治療に当たらなければならなくなっている。
すなわち、先輩に教えてもらったことや自分の経験だけでの医療行為は、科学的根拠に乏しく、その正当性までも否定されかねない。本来ガイドラインとは、絶対的な原理ではなく、これに準じて医療行為を行えば現段階では大きな間違いがないという性質のものである。

医療が対象とする人間−ホモ・サピエソス″とは、十人十色といわれるように、人体の構造から薬物に対しての反応まで千差万別であるがゆえに、その場その場において臨機応変に対処し、結果を良い方向に導き出すようにと裁量権″が認められている。しかし、この数年の間にガイドライン至上主義が台頭し、医師の裁量権は狭められている傾向にある。

 医師が長年にわたり生身の患者様を自分の六感すべてを駆使して治療に当たって得た経験の蓄積を、もう少し正当なものとして評価してもいいのではと思う。(一部省略)


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