伝統医療尊重し、協力
外科医・文化人類学者 関野吉晴氏
日経新聞 2006.5.7 「医師の目」より
 ネパール西北部、チベット文化の色濃く残るナムド村に三カ月以上滞在し、お世話になった。別れ際、村長に「村のために何か役に立てないか」と伝えると、「ここ、には西洋医が来ない。あなたが医者ならば医療の面で支援をお願いしたい。診療場所や宿舎、食事、輸送など、自分たちで出来ることはすべてやるので、あなたの知識と技術、薬などを提供してほしい」と言れれた。

 村では、僧たちがチベット医学で診療していた。西洋医である私が全面的に西洋医学を持ち込むのはやめようと思った。伝統的な文化を破壊しかねないからだ。

 基本はアムチと呼ばれるチベット医の伝統医療を中心にしようと合意したり私がいるときに有効でも、いなくなってしまったら元の木阿弥(もくあみ)では困る。アムチから私がチベット医学を学び、私が自分の持っている知識、技術を伝授することにした。

西洋薬もほとんどネパール内、で手に入るインドの薬にした。村長推薦の若いアムチと協力してテント仕立ての簡易診療所で診察を始めた。

 西洋薬も使ったが、最も有効だったのが、矢追インパクト療法だった。日本人医師が開発したもので、鼻づまりやアトピー、喘息(ぜんそく)などアレルギー疾患に効果のある治療法だ。カンジグ、ハ外科医・文化人類学者関野 昔時氏ウスダスト、ブタクサ、猫の毛などの抗原をグリセリン液に溶かし、一億あるいは十億分の一に希釈したものを微量、皮下または皮内に注射する。

 さすがに感染症、外傷には西洋薬を使ったが、アレルギー性の病気だけでなく、腰、肩、膝(ひざ)の痛みにもよく効く例がいくつもあった。
効果のない例もあるが、副作用がないのが特徴だ。それから二年以上たつが、村人には好評で、周辺の村からも患者が集まる。若いアムチが診療データを作っている。

 私は継続して、年に一度、およそ100cc抗原液とチベット医学に必要な薬草類を送っているだけだが、時間を作ってもう一度出かけたい。
私見)
矢追インパクト療法
なつかしい名前を見た。30年前にはよく使われた方法だがいまだに使われているとは驚きだった。この頃は矢追抗原の他にブロンカスマ・ベルナ、パスパートなども非特異的減感作療法として行われていた。当時、気管支喘息によく使ったのはブロンカスマ・ベルナだった。信じて使っていたがあまり効果はなかったような印象だった。その後吸入ス剤の出現ですっかり忘れていた。
ブロンカスマベルナ(三和製薬)は肺炎球菌、連鎖球菌、ブドウ球菌、カタルナイセリア、4連球菌、緑膿菌、肺炎桿菌、インフルエンザ菌等の菌体(死菌)と自家融解物の混合物、死菌ワクチンである。
パスパート(マルホ製薬)は多種アンチゲン混合物(多種の常在菌、ブドウ球菌,肺炎球菌,レンサ球菌及び結核菌)の自己融解物)でエフェドリンが混入されている。当然、喘息に効いて当たり前。

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